
3Dプリンターで出したような
デジタルデータの花器にも見えますが、
すべて人の手でつくった本物の陶器。
しかも石膏の型を使った
伝統的な「鋳込み」という方法によるもので、
かたちがとにかく複雑がゆえに、
通常の何倍もの手間と時間がかかるのだそうです。
制作方法、コンセプト、型のことや釉薬のこと、
見れば見るほど気になることだらけ‥‥。
個展「Computational Pottery」におじゃまして、
彼らの作品の「ひみつ」をうかがってきました。
聞き手は、ほぼ日の稲崎です。
ComPotte(コンポッテ)
ComPotte(コンポッテ)は、
デジタル技術と陶芸の手仕事を組み合わせた
セラミックブランド。
2023年から活動をはじめ、
「Computational Pottery」をテーマに、
デジタルとアナログのあいだに生まれる
新しい陶芸表現を探求している。
Instagram:ComPotte
-
デジタルデータから陶器をつくる
- ──
- 「ComPotte(コンポッテ)」というブランドは、
どんなふうにはじまったんですか?
- 深地
- ぼくとプログラマーの堀川淳一郎さんのふたりで
「ディグラフ」という
クリエイティブスタジオを立ち上げたのですが、
3年ほど前にデジタルデータから
「花器」を制作したのがはじまりなんです。
これなんですけど。
- ──
- おー、これが最初の作品。

- 深地
- この表現の可能性をもっと広げていこうと、
陶芸作家の横山成美に加わってもらって
正式にブランド化したのが「ComPotte」です。
- ──
- デザインと陶芸で担当が分かれているんですか?
- 深地
- 当初はそうだったんですが、
いまは横山が3Dソフトを使いながら
デザインもやっています。
ぼくはブランド全体の
ディレクションを担当しています。

- ──
- 写真だけ見たら「3Dプリンタかな?」と
思っちゃいそうですけど、
ここにあるもの、ぜんぶ陶器なんですよね。
- 深地
- ときどき誤解されますね(笑)。
- ──
- しかも、型を使った「鋳込み」で
制作されているんですよね。
こんな複雑な形を、
どうやって鋳込みでつくるんですか。

- 深地
- まず3Dプリンターで原型を出力して、
そこから石膏の型をつくります。
この型づくりがものすごく大変。
一発でいいものはつくれないし、
何度もくりかえし微調整しながら型をつくります。
あまりに手間がかかりすぎて、
同業の人が見たら「バカなの?」って言うかも(笑)。
- ──
- それくらい無茶なことを‥‥。
型を取ったあとはどんな工程があるんでしょうか。
- 深地
- 型ができたら、そこにチョコレートみたいな
「泥漿(でいしょう)」という泥状の粘土を流し込みます。
時間を置くと石膏が粘土の水分を吸って、
外側から固まりはじめるので、
ちょうどいい厚みになったら液体を外に出します。
そのあと型を取り外して、素焼きをする。
焼き上がったら、
コーティング剤の「釉薬(ゆうやく)」を表面にかけ、
さらにもう一度焼く。2回焼いて完成です。
- ──
- はぁぁ、ものすごく手間がかかるんですね。
- 深地
- どの工程も一発でうまくいくことはないので、
試作と微調整のくり返しですね。
とくに「釉薬」は奥がものすごく深くて‥‥。
そのへんは横山のほうが詳しいですね。
いま、呼んできます。
- ──
- あ、横山さんもいらっしゃるんですか。
- 深地
- ちょうど着いたようなので、紹介しますね。
「釉薬」による化学反応
- 横山
- これ、今朝まで窯で焼いてたものです。
できたてホヤホヤ。
さっきまで300度ぐらいありました。
- ──
- まだ熱かったりして(笑)。
- 横山
- 冷ましてきました(笑)。
「山」をモチーフにしたアートピースです。

- ──
- ちょうどいま「釉薬」の話をしていたのですが、
この独特の色や質感は
釉薬の種類によって決まるんですか?
- 横山
- そうなんです。
釉薬の世界はものすごくおもしろくて、
原料はもちろんですが、
スプレーで吹きかけるのか、液体に浸すのかでも、
仕上がり方が変わります。
このアートピースは釉薬の中に丸ごと浸したのですが、
ちょっとエッジが丸くなっているでしょ?
- ──
- ああ、ほんとだ。
ちょっと「溜まり」がありますね。
- 横山
- どぶ漬けするときも、
何秒浸すか、どの方向で引き上げるか、
釉薬の水分量と土の相性はどうするか‥‥と、
いろんな要素の掛け算で、
最後の仕上がりの表情が変わってくるんです。
- ──
- それを、ぜんぶ試行錯誤するんですか。
- 横山
- かなりやりますね。
土との相性が悪くて、
焼いてみたら釉薬がぜんぶ流れちゃった、
なんてこともありますから。
成分や焼く温度で結晶の出方も変わるので、
すべてはコントロールできないのですが、
なるべくたくさん試行錯誤しながらって感じですね。
- ──
- 同じ茶色の花器でも、
若干色味がちがって見えますが、
これは釉薬の種類がちがうからでしょうか。


- 横山
- いえ、このふたつは釉薬は同じです。
これは土に含まれている鉄分の量がちがうんです。
土の成分によっても色にちがいが出ます。
- ──
- つまり、青い色をしているからって、
「青い絵の具」を塗ったとかではなく‥‥。
- 横山
- ではないです。簡単にいうと、
釉薬ってもとはガラス質の粉末なんですね。
それを土の表面にまとわせて高温で焼くと、
粉末がドロっと溶けてガラスの膜になり、
土の成分と化学反応を起こす。
そうやっていろんな色味や質感が生まれるんです。

- ──
- ということは、
焼いてみないと色がわからない。
- 横山
- はい。
そこがおもしろくもあり、難しいところで。
すべての工程が大変ですけど、
なかでも「釉掛け」はいちばん取り返しがつかない。
ちょっとまちがえただけで、
それまでの時間がぜんぶ無駄になるので、
かなり緊張感があります。
毎回、息を止めてやってます(笑)。
立体パズルのような石膏型
- ──
- 形がものすごく複雑だから、
「型」をつくるだけでも大変ですね。
- 横山
- 型のことだけでもずっと話せます(笑)。
例えば、マグカップの取っ手も、
シンプルなデザインであれば
型のパーツが2つあればできますけど、
うちはパズルみたいにしないと取り出せないんです。
ちょっと狂気的なつくり方だと思います。

- ──
- おぉ、かなり複雑だ‥‥。
- 横山
- 頭が混乱したときは、
3Dデータ上でシミュレーションしながら考えます。
実際に型を外す段階で
「中身が取れない‥‥」なんてこともあります。
鋳込みは伝統的な量産の技法なので、
有名な窯元さんだと
型だけの職人さんがいたりするくらい、
かなり専門的な分野ですね。
- ──
- それを横山さんは一貫してやってるんですよね。
- 横山
- 職人さんの技術には到底及びませんが、
うちはそこまで大量につくるわけじゃないので。
- ──
- 石膏型も、きっと消耗しますよね。
- 横山
- 土の配合や使用環境によってさまざまなので
一概には言えませんが、
30回~100回使うとダメになると言われています。
石膏自体がだんだん傷んでくるんです。
うちはかなり無理な形をでやろうとしているので、
もっと早くに消耗すると思います。
- ──
- 窓際に並んだポリゴン状の花器も、
型でつくられたんですよね。
あとでパーツをくっつけたわけじゃなく。

- 深地
- この作品の型は、
パーツだけで24個あるんです。
- ──
- 24個!
- 横山
- 二度とつくりたくないくらい大変でした(笑)。
- ──
- パーツだけで24個って、
もはや立体パズルですね‥‥。
- 深地
- ふつうに考えたら、
そういうつくり方だと
量産にはとても乗らない値段になってしまいます。
なので誰もやる人がいないんでしょうね(笑)。
完璧に潜む「ゆらぎ」
- ──
- もともと横山さんは、
デジタルの分野が得意だったんでしょうか。
- 横山
- 美大での専攻は陶芸でしたし、
そこまで得意ってわけじゃないんです。
ただ、卒業後にオフィス家具の会社に就職して、
そこで3Dソフトの使い方を覚えました。
もともとCGは嫌いじゃなかったので、
そのときの経験がいま活かされている感じですね。

- ──
- それにしても陶芸とCGって、
あんまり聞かない組み合わせですよね。
真逆のものというか。
- 横山
- たしかに私の陶芸の同期で、
こんなことをやっている人はいませんね(笑)。
- 深地
- 陶芸だけやってきた人は3Dを扱えないし、
プログラミングをやっている人は土作業ができない。
完成までの工程を、
すべてひとりでできる人って、
そうそういないと思います。
- 横山
- 陶芸と3Dのあいだを越境してますからね。
- ──
- 自由に行き来してますよね。
- 深地
- 両方を理解できる人じゃないと、
こういう表現はできないと思います。

- ──
- 陶芸には歪みや縮みといった
「ゆらぎ」がつきものだと思うんです。
ふつうはそれが陶器の「個性」になったり、
「味わい」になったりします。
- 深地
- そもそも陶芸という表現が、
そういうものですからね。
- ──
- ブランドの考え方としては、
そういうゆらぎは「味わい」として残すのか。
それともエラー的なものとして徹底的に修正するのか。
- 深地
- それがじつは、
いちばん悩ましいところで……。
- ──
- 悩ましい、ですか。

- 深地
- ぼくは伝統工芸の職人さんたちの、
ものづくりへの向き合い方がすごく好きなんです。
職人さんたちがつくるものを見ていると、
ものすごい完璧な技術のなかに、
アナログならではの「ゆらぎ」や「ブレ」が絶対にあって、
そこにすごく魅力を感じます。
機械ではその「ゆらぎ」は絶対に出せないので。
- ──
- 機械にとっては、
ただのエラーですもんね。
- 深地
- でも最初から「歪みはオーケー」を許容すると、
そこにいくらでも逃げられてしまいます。
あくまで完璧なものを目指した結果、
どうしても生まれてしまう偶発的なブレ。
そこにこそ「いい歪み」があるわけですが、
そのバランスというのは、ほんとうに難しいです。
- ──
- わざとらしくなってはいけないし。
- 横山
- じつはここにあるマグカップも、
取っ手をまっすぐ付けて焼くと、
重力と熱で土が柔らかくなって下に垂れてしまうんです。
だからそれを計算して、
あらかじめ少しだけ斜め上に付けて焼きます。
そうするとちょうどまっすぐに仕上がる。
そうやって修正できるエラーは、
なるべくなくしていくようにはしています。
- 深地
- 陶芸の世界では、
歪みやブレがあるのは当然で、
「陶芸はそういうものだから」と言われることも多いです。
だけどこのブランドではなるべく完璧を目指す。
でも、絶対に完璧にはならない。
秩序とゆらぎのせめぎ合いが、
ぼくらの個性になると思っています。

- ──
- さっきの釉薬による偶発的な仕上がりも、
いまの話に通じることですね。
- 深地
- むしろブランドとしては、
そういうゆらぎを利用する段階に
入っているような気がします。
さっきお見せした最初の作品は、
3Dソフトで計算した秩序あるかたちを、
陶器で完璧につくろうとしたんです。
でも、いま見るとゆらぎが少ないんですよね。
陶芸ブランドをやるなら、
釉薬のゆらぎを活かしながら、
崩れすぎない絶妙なラインを探っていきたいです。
- ──
- じぶんの目で実際の作品を見ると、
インスタで見ていたときと印象が変わりますね。
当然かもしれませんが、
ものすごく「土」のあたたかみを感じます。
- 横山
- やっぱり実物を見てほしいですね。
- ──
- きょうはありがとうございました。
あっという間の30分。
矢継ぎ早にいろいろとすみませんでした。
ものすごく勉強になりました。
- 横山
- 私たちもお話ができてうれしかったです。
ありがとうございました。
- 深地
- ありがとうございました。

2026-06-19-FRI