香川県の発掘調査で見つかった遺物たち。
その99%以上は用途がわかるそうですが、
残り1%は、どんなに研究をしても、
まったくもって正体不明なんだそうです。
企画展のポスターを見てみると、
たしかに奇妙でへんてこなものがいろいろ‥‥。
なんだかおもしろそうなので、
この企画を担当した益崎卓己さんに、
どんなものがあるのか教えていただきました。
大昔の人々のことを考えながら、
よかったらいっしょに推理してみませんか。
担当は、イマコレキニジャーナルの稲崎です。

>企画展「正体不明の遺物たち」について

企画展「正体不明の遺物たち」

香川県周辺の発掘調査で見つかった
はっきりとした答えがわからない
「正体不明の遺物」たちに光を当てた企画展です。
なぜ分からないのか、どの点が不明なのか、
遺物の用途や意味を考えながら、
考古学のおもしろさを体験することができそうです。
香川県埋蔵文化財センターで、
3月9日から6月12日まで開催。
観覧料は無料。
会期など詳しくは企画展のページをご覧ください。

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#01

わからないことだらけ。

──
この企画は、
どういうきっかけで生まれたんですか。
益崎
香川県内の発掘調査では、
毎年かなり多くの「遺物」が出てきます。
それらの大部分は、
カメとかツボとか石のやじりとか、
用途が判明するものばかりですが、
極稀に、ほんとうにごく一部ですが、
まったく「わからないもの」があるんです。
──
それが、正体不明の遺物。
益崎
はい。
本来は出てきたものが何かわからないと、
展示のしようがありません。
ただ、今回はあえて、
その「正体不明」のものを集めて、
「ここまでわかってますけど、
ここから先はまったくわかりません」と、
専門家さえ解けない「わからない」を
みなさんにおもしろがってもらおうという、
そういう企画です。
──
それでポスターも謎めいた雰囲気なんですね。

益崎
「わからない」を考えることは、
私自身は考古学の醍醐味だと思っています。
残された痕跡をたどりながら、
情報を集めて読み解いていく。
じぶんの想像力と観察力を使って考えていくのは、
考古学のいちばんたのしい部分なんです。
なので、この企画が実現できて、
私もすごくうれしく思っています。
──
正体不明の遺物を展示するのは、
今回が初めてなんでしょうか。
益崎
これだけまとめて展示したのは、
私が知る限りでは初めてだと思います。
──
正体がわかっていない遺物は、
全体の何パーセントくらいあるんですか。
益崎
私たちのセンターの収蔵庫には、
破片まで含めると
全体で数十万点の遺物があります。
そのうち、小さな破片でもないのに
まったく正体がわからないものは、
1パーセント未満かもしれません。
──
つまり、99パーセントは判明済み?
益崎
はい。
──
それもすごいことですね。
ほとんどのものは用途がわかっている。
益崎
なので、わからないものを、
わざわざ展示する理由がないんです(笑)。

▲香川県埋蔵文化財センターの益崎卓己さん ▲香川県埋蔵文化財センターの益崎卓己さん

──
いやいや、いまの話をうかがって、
ますます興味がわいてきました。
きょうはいま展示されているものを
写真で説明していただけると‥‥。
益崎
説明しようにも
説明できないものばかりですが(笑)。
画面共有してもいいですか?
──
はい、お願いします。
益崎
ちょっとお待ちくださいね。
ええと、まずはこういうのから‥‥見えますか?

──
ゆかいなものが映りました(笑)。
益崎
これ、まったく何かわかっていません。
表面の中央には、
すごく味のある表情の顔が描かれています。
よく見ると顔の上には、
細かい線の刻みがあります。
──
ほんとだ‥‥。
益崎
これは粘土でつくった板状のもので、
手のひらくらいのサイズです。
全体にすり減った痕跡もないので、
道具として使用されたものではなさそうです。
──
いつ頃つくられたものなんでしょうか。
益崎
弥生時代くらいですね。
先行研究では当時のお守り、
あるいはバッジじゃないかという説もあります。
あと「祭りに使われる何か」とか。
どれも推測ではありますけど。
──
下側は何かが欠けたようにも見えますね。
益崎
下は欠けた状態です。
なので、全体がどのような形をしていたかは、
わかっていません。
──
それにしてもこの顔(笑)。

益崎
よく見ると眉毛まで表現しているんです。
鼻の穴もちゃんとある。
──
益崎さんは何だと思われますか。
益崎
まったくわかりません(笑)。
──
専門家でも笑っちゃうくらいなんですね(笑)。
益崎
私のような考古学を研究している人ほど、
発想が凝り固まっている可能性があります。
なので、一般の方たちの
予備知識のない純粋な見方のほうが、
じつはけっこう大事だったりするんです。
──
なるほど、先入観がない分。
益崎
じつは今回の展示では、
会場に自由に書き込めるボードを用意しています。
その書き込みを見ていると、
「そんな考えはなかったかも」というのがあって、
私たちもすごく刺激になっています。
──
例えば、どんな書き込みがあるんですか。
益崎
この遺物でいうと、
「水戸黄門の印籠みたいに使っていた」とか。
──
ああ、なるほど。
「私はこういう者です」みたいな。
益崎
そうですね。
あとは「この村の人間です」というのを示す、
共通の「名刺」のようなものとか。
──
それだと顔を描く理由もわかりますね。
部族の長老の顔とか。
益崎
ありえますよね。
そんなふうに自由に発想してもらうのが、
この企画の狙いのひとつなんです。
──
もうおもしろいです(笑)。
他のももっと見てみたくなりました。
益崎
今回の展示ではこういう遺物が
約30点ほどありまして‥‥。
他にはこういうものもあります。

──
これまた不思議な‥‥石ですか?
益崎
滑石(かっせき)という、
子どもが道路に落書きするときに使う石のような、
白い粉が出る柔らかいものです。
──
側面に穴がありますね。
益崎
よく見つけられました。
いくつも細い小さな穴があるんですけど、
この穴は反対側まで貫通しています。
──
穴の直径1ミリ~2ミリとかでしょうか。
益崎
はい、むちゃくちゃ細いです。
通すとしたら細い糸ぐらいです。
でも、この穴に糸を通したかどうかは、
いまはよくわかっていません。
──
それにしても形が独特ですね。
益崎
琴の弦を張る「琴柱(ことじ)」に似ているので、
「琴柱形石製品」とも呼ばれています。
──
これは欠けてこの形になったわけじゃなく、
当時からこの形ってことですよね。
益崎
当時もこの形で存在していたはずです。

──
動物を模した形でもないし、
どういう意図があってこの形に‥‥。
でも、穴があるってことは、
糸的なものを通した可能性は高そうですね。
益崎
いや、それもわかりません。
それが先入観という恐れもありますので。
──
ああ、そうか。
益崎
じつはこの穴ですが、
キリみたいな工具であけているんですが、
両側から削っているので、
中心に向かって穴の径はどんどん細くなっています。
光に透かしてみて、
貫通しているのがやっとわかるくらいです。
──
はぁぁ、そんなに細いんですね。
益崎
さらに表面の刻まれたラインも、
ものすごく精密な加工です。
かなり手の込んだことをしているので、
これ1個つくるのに、
けっこうな労力と時間がかかっていたはずです。

──
1個つくるのに、
どれくらいかかるんでしょうね。
益崎
1500年前の古墳時代の道具で考えると、
現代では想像つかないぐらいかかると思います。
数日間ひたすら作業して、やっと1個とか。
──
えぇーっ。
益崎
しかも、けっこう脆い石材なので、
ちょっと失敗したらすぐに折れちゃいます。
誰でもつくれるわけじゃなく、
高度な加工技術を持った人じゃないと、
ここまでのものはつくれないはず。
──
当時から脆いものなんですか。
益崎
元の石材がそもそも柔らかくて脆いものなんです。
──
となると、なぜそんな脆いものを、
そんなに時間をかけてつくったのか‥‥。
益崎
さらにおもしろい話があって、
香川県内で出てきたこの「琴柱形石製品」は、
古墳時代につくられたものですが、
これが実際に発掘されたのは、
なぜか平安時代の終わり頃の遺構の中だったんです。
──
それ、時間がタイムスリップしてませんか?!
益崎
そうなんです。
つくられたのは古墳時代。
見つかったのは平安時代の終わり頃の遺構の中。
どうやって時代をまたいだのか、
見つかり方にも謎がある遺物なんです。

(つづきます)

2026-04-21-TUE

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