串田和美さんの独り芝居
「月夜のファウスト」を
ほぼ日の學校で上演します

5月末から6月はじめ、
外出自粛の呼びかけが続くなか、
ほぼ日の學校の講師のみなさんが
どんな暮らしをなさっているか
教えてくださった連載「私の新しき生活様式」。
その最終回、串田和美さんの
「小さな池のほとり 小さな四阿(あずまや)
小さな演劇」をご記憶でしょうか。
舞台を休止せざるを得ないなか、
松本市の公園にある小さなあずまやを舞台に見立て、
演劇の原点ともいえるような
独り芝居を作り上げた串田さん。
そのエッセイを受け取った河野學校長は
即座にお願いしました。
「ぜひ、このお芝居を
新しいほぼ日の學校でみせてください」
それが、この冬、実現します。
12月25日、26日、27日の3回、
神田のほぼ日の學校で
上演していただけることになりました。

  • ほぼ日の学校・神田オープン・プレイベント
    「月夜のファウスト」一人芝居バージョン

    ●出演・演出:串田和美
    ●日時:2020年
    ・12月25日(金)18:30開場, 19:00開演
    ・12月26日(土)14:30開場, 15:00開演
    ・12月27日(日)14:30開場, 15:00開演
    ●上演時間:およそ1時間45分を予定
    ●座席数:各回50席
    ●場所:東京都千代田区神田錦町3−9
    ●神田ポートビル2階
    ●チケット:全席自由 3,850円(税込)
    (チケットは完売しました)

    串田和美(くしだかずよし)さん

    俳優、演出家、舞台美術家。1942年東京生まれ。
    1966年、劇団自由劇場を結成(後にオンシアター自由劇場と改名)。
    1985~96年までBunkamuraシアターコクーン初代芸術監督を務め、
    「上海バンスキング」「もっと泣いてよフラッパー」など
    レパートリー制の導入、コクーン歌舞伎など様々な企画を築く。
    2003年4月、まつもと市民芸術館芸術監督に就任し現在に到る。
    歌舞伎、サーカス、現代劇を、劇空間ごと
    既成概念にとらわれない手法でつくりあげ続けている。

    串田和美さんがこの独り芝居を
    思い立つまでの経緯は、冒頭にご紹介した
    「私の新しき生活様式」に詳しいのですが、
    公演に先立って、改めて串田さんの思い、
    そして串田版「ファウスト」の魅力について
    お話をうかがってきました。

     

    ●全部一人でやろう

    ――
    外出自粛の中で「理解はする。でも腑に落ちない」、
    そう感じられたことについて改めて聞かせてください。
    串田
    言い出したら止まらないくらい
    「謎」だと思うことはいっぱいある。
    もちろん感染症を防がなくちゃいけないし、
    そのために必要なことも理解します。納得しました。
    でも、人類がずっとバクテリアや菌やウイルスと
    共存してきたことを考えたら、
    どうにも腑に落ちないところがある。
    「変だぞ」と思うところがある。
    果たして病気にならないことだけが
    「健康」なんだろうか、とかね。
    僕はあの期間に、そういう感覚を抱いたわけです。
    ――
    難しい問題ですね。
    串田
    誰だって死にたくはないんだけれど、
    結局は死ぬんだということを引き受けないと。
    もちろん無駄な死に方はしたくないけどね。
    地上にいるもの、
    それはウイルスだろうがバクテリアだろうが、
    いろんなものの恩恵で生きてるわけです。
    「痛い」のは信号を送ってくれている。
    「気をつけろよ」という信号だから。
    新型コロナウイルスとはいったい何なんだろう?
    そんなことをずっと思っていました。
    ――
    そんな日々の中から、
    独り芝居が生まれたわけですね。
    串田
    とにかく全部一人でやろう、と。
    責任は一人で取ろうと思って、
    市役所に行って公園の使用許可を取るところから
    一人でやりました。
    道具を運んだりするのは家族が手伝ってくれました。
    そのうちに、
    「これは芝居の原点だなあ」と思ったわけです。
    昔は旅芸人みたいな人が旅しながら、
    一宿一飯のお返しに「おもしろいもの」を見せた。
    あるいは投げ銭を受け取って旅を続けた。
    ――
    なぜ「月夜のファウスト」だったのですか?
    串田
    前にトランクひとつで旅するトランクシアターという企画で、
    3人で演じたことがあったから、
    これを独り芝居に書き換えればいいと思ったんです。
    そして、「あがたの森公園」の四阿が
    「舞台」としてぴったりだった。
    風通しがいいし、虫やカエルの声や鯉がはねる音もする。
    これまでの公演で
    「詰めてください」は何百回も言ったけど、
    「間をあけてください」って言ったのは、
    生まれて初めてのことでしたよ(笑)。

     

    ●思い出した小劇場の時代

    ――
    四阿の3回の上演で
    どんな発見がありましたか?
    串田
    (お客さんが)みんなあったかくてねえ。
    来てくれたこともすごいし、
    投げ銭で1万円を入れてくれた人もいた。
    それは金額の問題じゃなくて、
    10円でも1000円でも構わない。
    お金のない学生の500円は1万円と変わらない価値がある。
    「そんなに大切に思ってくれたのか」
    というのが本当にうれしかった。
    もうひとつは、40人ずつの公演で3回だから
    トータルでも120人くらいしか来ていないんだけど、
    広く知られて、大きな話題になった。
    これって60年代の小劇場もそうだったよなって
    思い出したんです。
    考えてみたら観客の数なんて知れているのに、
    社会的に影響力があって、
    会社辞めて芝居に飛び込んだ人がいたり、
    新しい雑誌の企画が生まれたり、
    いろんなことが起きた。
    この頃は演劇の社会的環境も随分進歩して、
    大きな立派な劇場で物理的にも
    質の高い舞台が増えていて、
    観客数もあの頃と比べ物にならないほど増えています。
    それはそれで良いことではあると思いますが、
    そのことと個人個人が感動し、
    影響を受けることとは
    必ずしも比例するわけではない。
    それに演劇の感動というものは、
    作品の中身だけではなく、
    「ぎゅうぎゅう詰めでくるしかったと」とか、
    「大雪が降ってお客さんが少なかったけど、
    余計感動した」とか、
    今回のように「夕方の公園の池のほとりで、
    みんな隙間をあけながら観た」とか、
    そうゆういろんな条件が混ざり合って、
    それぞれの感動の記憶になっていく。
    ――
    商業化されて巨大化するなかで
    失われたものがあるのでしょうね。
    串田
    どんなものでも進歩すれば、
    その反面失うものがありますからね。
    この前、映像関係の人と話していたら、
    アーティストがだんだん「職人」に
    なってきていると言っていました。
    演劇も似ているかもしれない。
    「こうすれば当たる」というものを作れる人はいるし、
    「この予算で、何時間にまとめてください」と言われて
    きちんとおもしろくまとめられる人もいる。
    でも「作家」がいなくなっている、と。
    作家と職人の境目はわからないけれど、
    僕はお金をもらってもやりたくないことはやりたくない。
    「やりたくない」のにやったら、
    芝居の神様が守ってくれなくなる
    という気持ちがあります。
    自分がワクワクしたり、ドキドキするものじゃないと
    作っていてもおもしろくない。
    大きな芝居でも僕にとってとても楽しいものもあるし、
    小さい芝居でも興味が持てないものもある。
    だから、大小は本当は関係ないんですけどね。

     

    ●お芝居は観る人だけのものではない

    串田
    市の支えを受けて松本でやるようになって、
    ひとつ発見したことがあるんです。
    それは、演劇は観る人のためだけに
    あるのではないということ。
    芝居を観た人が喜んでくれるのはもちろんのこと、
    観た家族が興奮して帰ってくる、
    飲み屋で観た人が隣にいてわいわい言ってる、
    そういうのを見て、
    まだ観ていない人が「いいじゃない」って思う。
    観た人から聞いた話や、
    観た人が育てた子供や、近所の人にも
    なんらかの形で伝わったり、
    染み込んだりするんじゃないか。
    そう思うようになったんです。
    税金の一部が科学研究に使われたり、
    使う人が少なくても橋をかけるのに使われたりする。
    そういうのと同じように、
    演劇もあればいいなあと思うようになったんです。

    ――
    最後に、こんど観せていただく
    「月夜のファウスト」について聞かせてください。
    ゲーテの『ファウスト*』は、正直に言って
    わかりやすいとは思えなかったのですが……

    (*学問と知識に絶望したファウストは、悪魔メフィストフェレスと契約して魂を売りわたすかわりに、地上の快楽を手に入れ、人間の生のあらゆる可能性を体験しようとする。メフィストと組んだファウストの遍歴が始まる。霊薬を手に入れ、若返った青年ファウストがマルガレーテを見そめる。恋の成就、マルガレーテの母親の死と兄の殺害、そして、マルガレーテによる嬰児殺し。マルガレーテの処刑とともに愛を巡る劇は終わる。池内紀訳『ファウスト』集英社文庫版説明より)

    串田
    「ファウスト」って、ゲーテの『ファウスト』の前に
    錬金術師ファウスト博士の伝説みたいな
    古い話がたくさんあるんです。
    僕は本を読んでやろうと思ったというよりも、
    若い頃、初めてドイツに行ったときに観た
    「ファウスト」とか、人形劇の「ファウスト」、
    講談本のような「ファウスト」とか、
    育ってきたなかで「これ、おもしろいな」って
    染み込んできたものがあるんです。
    (ドイツの演出家)ペーター・シュタインの
    「ファウスト」の舞台写真とか見ると、
    舞台で火は使うわ、大掛かりなセットはあるわ、
    「このやろう!(笑)」って妬ましいくらい
    アイディアがおもしろい。
    そもそも、元のファウスト博士の伝記なんて、
    何が事実かわからない、インチキ臭いところがある。
    でも、そういうのがおもしろいなあ、
    いつかやってみたいなあと思ってきたんです。

    ――
    ゲーテの『ファウスト』ではなくて、
    その元となったさまざまな伝説を元にした
    串田さんオリジナルのお芝居なのですね。
    串田
    そうそう。戦後、疎開先から戻って来たら
    変な人がいっぱい集まって住んでいたとか、
    自分の思い出話や空想を織り交ぜていますからね。
    「これのどこが『ファウスト』なんだ!」って
    言われちゃうかもしれない(笑)。
    ――
    それを聞いて、ますます楽しみになりました。
    ありがとうございました。

    【開催概要と入場チケット申し込みについて】

    ※当日券の情報などは「ほぼ日」のツイッターで
    お知らせをする予定です。

     

    ■開催日時:
    2020年12月25日(金)18:30開場, 19:00開演
    2020年12月26日(土)14:30開場, 15:00開演
    2020年12月27日(日)14:30開場, 15:00開演

     

    上演時間:
    およそ1時間45分を予定

     

    ■出演・演出:
    串田和美

     

    ■場所:
    千代田区神田錦町3−9
    神田ポートビル 2階

     

    ■入場料:
    3,850円(税込)

     

    ■チケット申し込み受付:
    2020年11月25日(水)午前11時受付開始
    (売切れ次第終了)

     

    ・チケットは、e+(イープラス)にて販売いたします。
    ・「ほぼ日の學校」での受付の際、
    新型コロナウイルス感染症対策のため
    お名前とメールアドレスを
    お聞きします。
    ・当日券を出す場合は、
    ほぼ日のツイッターにてお知らせいたします。
    ・チケットの転売はご遠慮ください。

     

    ■販売席数:
    各回50席(全席自由)

    ※新型コロナウイルス対策として三密を避けるため、
     席数を制限させていただいております。ご了承ください。

    【当日の入場について】
    公演開始の30分前になりましたら、
    受付を開始いたします。
    それ以前の時間にはご入場いただけません。

     

    ・発熱や味覚障害など、少しでも症状のある方は
    ご来場をお控えください。
    ・ご来場時は、必ずマスクをご着用ください。
    ・受付時に、非接触型体温計にて
    スタッフが検温させていただきます。
    37.5度以上の方はご入館をご遠慮いただきます。
    ・受付に除菌用アルコールをご用意いたしますので
    ご入場の際にご利用ください。

     

    【座席について】
    全席自由

     

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    ※当日券の情報などは「ほぼ日」のツイッターで
    お知らせをする予定です。