家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.20

『平家物語 犬王の巻』


古川日出男

もうひとつの、平家物語。


『平家物語 犬王の巻』
古川日出男
河出書房新社 1500円

家にいる時間が長くなると
曜日の感覚も、休日と平日の区別も
どうしても曖昧になってきますよね。
そんな輪郭の溶けかかった毎日に
猛烈なことばのパンチをくれるのが、この本です。

今日ご紹介するのは、
ほぼ日の学校「シェイクスピア講座2018」で
第13回「平家物語と蜘蛛巣城とマクベス」
講師をつとめてくださった、作家の
古川日出男さんの『平家物語 犬王の巻』。

ちなみに、書影を見てお気づきの方も
いらっしゃるかもしれません、
装画は松本大洋さんです。

古川日出男さんは、2016年に
池澤夏樹さんが監修された
河出書房新社の「日本文学全集」のなかで
平家物語』を現代語訳されています。

『平家物語』の物語としての面白さだけでなく
原文がもつ語感やリズムを味わうこともできる、
ぜひ手にとっていただきたい現代語訳です。

そしてこの『平家物語 犬王の巻』は、
『平家物語』の「つづき」の物語。

観阿弥・世阿弥と同時代を生きた能楽師、
「犬王(いぬおう)」と
琵琶法師・友魚(ともな)をめぐる、
語られてこなかった『平家物語』です。

『平家物語』が、歴史をもとにした物語であるように、
その続編であるこの本もまた、
平家滅亡から150年ほど後の西国を舞台に、
実在したとされる能楽師・犬王を登場人物として
編まれる物語です。

そしてこの『平家物語 犬王の巻』は、
「物語」であると同時に、
『平家物語』を、より現代の私たちのこころに
とどけるための「仕掛け」でもあります。

『犬王の巻』という『平家物語』の新たな巻が
まさにつくられ、語られる場に立ち会い、
『犬王の巻』という『平家物語』の新作を読むことで、
『平家物語』がいかにして作られ
語り継がれて(そして失われて)いったかという、
『平家物語』の中だけでは語られ得ぬことを
「体験」することができます。

そして、そんな理屈抜きに、
古川さんの強く美しいことばで
テンポよく展開する物語のおもしろさを
ぜひ、味わっていただきたいです。

私は『平家物語 犬王の巻』を読んでからは
『平家物語』のことを、
「友魚が弾き、語った」あの物語なのだな、と、
少しだけ親しい存在に感じるようになりました。

といいつつ、古川さん入魂の『平家物語』は
900頁を超える大作なので
気になる箇所の拾い読みしかできていません。
でも、路上で琵琶法師の『平家物語』を聞いていた
当時の聴衆は、行きあたりばったり、
順序もバラバラに語られる物語を耳にしていたのだと
犬王の巻にも書いてあったので
それでもいいのかな、と思っています。

 

古川日出男さんが登壇された講義は、
「シェイクスピア講座2018」第13回
「平家物語と蜘蛛巣城とマクベス」です。

古川さんは、この授業のなかで、
シェイクスピアの魅力について
「わけわかんない、全部入ってる感じ」、
「破天荒だけど、この世ってそうだよね、
みたいな説得される感じ」
ではないかと語られたのですが、
この日の授業も、まさにそういう魅力に
あふれた時間でした。

ネタバレになるので書けないのですが、
『平家物語 犬王の巻』の、とある重要な設定が、
古川さん自身が『平家物語』を訳すなかで体験した
ことだったと語られる場面、この本の読者としては
必聴です。ぜひ探し出して聴いてみてください。

また、授業の途中や、質疑応答タイムでの、
800年前に日本で書かれた「平家物語」を
「今のわたしたちに分かる言葉に翻訳」した古川さんと
400年前にイギリスで書かれた「マクベス」を
「今のわたしたちに分かる言葉に翻訳」した
松岡和子さんとのやりとりも、
本当に、おもしろいものでした。
ここもぜひ、オンライン・クラスでお聞きください。

(つづく)

2020-05-14-THU

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