家で過ごすことが増えたいま、
充電のために時間をつかいたいと
思っていらっしゃる方が
増えているのではないかと思います。
そんなときのオススメはもちろん、
ほぼ日の学校 オンライン・クラスですが、
それ以外にも読書や映画鑑賞の
幅を広げてみたいとお考えの方は
少なくないと思います。
本の虫である学校長が読んでいる本は
「ほぼ日の学校長だより」
いつもご覧いただいている通りですが、
学校長の他にも、学校チームには
本好き・映画好きが集まっています。

オンライン・クラスの補助線になるような本、
まだ講座にはなっていないけれど、
一度は読みたい、読み返したい古典名作、
お子様といっしょに楽しみたい映画や絵本、
気分転換に読みたいエンターテインメントなど
さまざまな作品をご紹介していきたいと思っています。
「なんかおもしろいものないかなー」と思ったときの
参考にしていただけたら幸いです。
学校チームのメンバーが
それぞれオススメの作品を
不定期に更新していきます。
どうぞよろしくおつきあいください。

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no.14

『サピエンス日本上陸 


3万年前の大航海』海部陽介 

やらなくてもいいことを
懸命にやるホモ・サピエンス
著者は、まさしくその子孫

  


『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』
海部陽介 講談社1800円

今から38000年ほど前、
日本列島にヒトが渡ってきたことは、
さまざまな証拠から疑いのないことだそうです。
でも、大きな謎が残ります。
私たちの祖先は、いったいどうやって
荒波を乗り越えてきたのか?
3万年前の大航海の再現実験を行い、
祖先たちの挑戦を解き明かそうとしているのが
人類史研究家の海部陽介さんです。
昨年11月に「ダーウィンの贈りもの I 」
第13回講師として、ほぼ日の学校に
お越しいただきました。

昨夏、5人の漕ぎ手をのせた丸木舟が
黒潮を越えて台湾から与那国島へ
45時間の航海を経て無事たどりついたことは、
ニュースやドキュメンタリーなどで
ご存知の方も多いと思います。
私たちも海部さんの講義で
映像も見せていただきながら、
そこに至るまでのお話を聞かせていただきました。

わかったつもりになっていました。
でも、この本を読むと、
苦難の道のりがさらに生々しく伝わってきます。
草の舟、竹の舟を経験して
丸木舟にたどり着くまでの模索。
重い舟を運搬する苦労。
台湾の地元部族との神経を使うやりとり。
天候や海の条件にあわせて徹夜作業するスタッフ。
時化の中、しかも夜の海での苦闘。
星もなく、何の指標もないなか、
気力をもたせる難しさ。
大型船舶との衝突の恐怖。
昼間は熱中症の危険との闘い……

無事、与那国にたどりつけたという
結末を知っていても、
読む追体験だけで手に汗を握ります。
このプロジェクトは1700人もの人々が
クラウドファンディングを通じて支えた
みんなのプロジェクトでした。
海部さんはじめ、実際の航海に
直接関わった人だけでなく、
お小遣いを出した小学生ら、
たくさんの人の希望をのせたプロジェクトです。

草の舟がうまくいかなかったあと
「自分は皆の期待を裏切ったのか?」と
自問する海部さんは、東京に戻って
支援者のところに報告に行きました。
すると、誰もがこの挑戦を称えて
「次が見たい」と支援を続けてくれたというのです。
どうしてこれほどたくさんの人が
このプロジェクトを応援したのか。
その理由も本書を読むとよくわかります。

ほぼ日の学校に来てくださったとき、
海部さんは、「そもそもどうして祖先たちは、
この航海に乗り出したのか?」という質問に、
「それをいままさに考えているところです」と
おっしゃって、明確な回答はされませんでした。
その答の一端はこの本の終わりにあります。
もちろん、3万年前に日本にやってきた
ホモ・サピエンスが実際に何を考えたのかを
知ることはできませんが、
台湾の山の上に立った海部さんが思ったことには、
説得力があると思いました。

これまでの研究と、この実験航海を経て、
海部さんがたどりついた
ヒトに関する考察のひとつが、
「ヒトはやらなくてもいいことを懸命にやる」。
この航海の記録を読むと、まさにある意味、
「やらなくてもいいこと」の連続。
でも、だからこそ胸を打ち、
ヒトって何だろう?
と探究したくなるのだと思います。

残念ながらいまは休館中ですが、
いずれ、この丸木舟の先頭で撮影された映像が、
国立科学博物館の360度シアターで
公開される予定です。
漕ぎ手の視線からしか見ることのできない
海の様子、遥かにのぞむ夜明けの与那国島。
そうした貴重な映像を見ることができるはずです。
その予習にもうってつけの一冊です。

実験航海で実際に使われた丸木舟 実験航海で実際に使われた丸木舟

(つづく)

2020-05-06-WED

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