大きな事務所に入らず、
フリーで活動してきたお笑い芸人さんが、
あちこちで話題をさらっています。
その筆頭ともいえる３名が、
「ほぼ日の學校」に登場してくれました。
「THE W」優勝コンビのにぼしいわしさんと、
「R-1グランプリ」史上初めて
アマチュアからの決勝進出を果たした
どくさいスイッチ企画さんです。
フリーの芸人が向き合っている
「自由」の難しさと喜びを、
それはもうせきららに、語り合っていただきましたよ。
担当は、ほぼ日の玉木です。
※本収録は、2025年６月17日におこないました。
にぼしいわし
香空（きょうから）にぼし（写真・左）、
伽説（ときどき）いわし（写真・右）によるお笑いコンビ。
女芸人No.1決定戦 THE W 2024年優勝、
ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ2024 準優勝。
2025年、個人事務所
「株式会社 A-dashi」を設立。
どくさいスイッチ企画（どくさいすいっちきかく）
フリーのピン芸人、落語家、落語作家。
R-１グランプリ2024ファイナリスト。
大学の落語研究会卒業後、社会人落語を続ける。
コロナ禍を期にピン芸人として活動を始める。
著書に『殺す時間を殺すための時間』
（2024年、KADOKAWA）。
2025年８月24日をもって、
株式会社アミューズに所属。
- いわし
- ライブの準備などを
全部自分たちでやるようになったのは、
もともとは「経費削減のため」が
いちばん大きい理由なんです。
いまはカッコつけて
「ライブの全貌を知っておきたいから、
自分たちでやっています」とか
言うこともありますけど（笑）。
ぜんぜん、経費削減のためです。
袋詰めもしますからね、グッズの。
- どくさい
- 袋詰めまで。
- にぼし
- ライブ前に袋詰めを100個分やったり。
グッズの在庫も全部、家に置いてます。
- どくさい
- 在庫も。
- いわし
- ６畳１間の家にね。
- にぼし
- 当然、１間です。
だんだん家具の一部みたいになっていって。
- どくさい
- ‥‥ずっと思ってたんですけど、
なんでそんなに頑張れるんですか。
- いわし
- それは、こちらが聞きたいです（笑）。
- にぼし
- 私は、グッズをつくったりしながらも、
「芸一本でおもろい」という芸人さんに、
憧れていた時期がありました。
もちろん、グッズをつくるのも大切だし、
お金を稼ぐのも大切です。
だけど、そういったお笑い以外のことを
ぜんぜんやらずに、
ただただネタがおもしろくて、
ファンがいっぱいいる人ってかっこいいなと。
- いわし
- たしかに。個人的な感覚ですけど、
とくに大阪のお笑い界では、
ネタ以外をやるのはタブーのような
イメージがあった気がします。
- どくさい
- ありましたね。
- いわし
- 「ライブやテレビに出たい気持ちを、
あまり泥臭く出さないほうがいい」
という美学みたいなものも、大阪ではよく感じます。
だからこそ、大阪にいたころは、
フリーの芸人として「DIYチックな芸人だぞ」と
見せていくことで、
新鮮に感じてもらえるんじゃないかなと
思っていました。
でも、やっぱり基本は職人でありたい。
お笑い職人、漫才職人でありたいっていう気持ちは、
現在もなきにしもあらずです。
- どくさい
- そうなんですね。
僕からは「にぼしいわしさんは
DIYでライブの全部をやりながら、
ネタがずっとおもしろかった」というところを、
主張しておきたいですが。
- いわし
- うれしい。うれしいです、それは。
そこだけは、なんか‥‥私たちのガチやから。
ライブを主催すると、どうしても自分たちのネタが
おろそかになってしまいかねなくて。
でも、そうなってしまうと、
ライブ自体の魅力や信頼がなくなって、
出てくれる芸人さんもいなくなっちゃうなと
思ったんです。
絶対、賞レースで結果を出さないと、
主催はしちゃダメだという気持ちが、
自分のなかに強くありました。
だから、「THE W」で優勝できたときは、
「ああぁ、よかった」と思いました。
ネタはおもしろさの証明みたいなところが
ありますから、
やらないといけないんです、やっぱり。 - でも、私からするとどくさいさんのほうがすごくて。
どくさいさんのすごさは、ネタの構成はもちろん、
技術なんです。芸の技術がすごい。
- どくさい
- やっぱり、アマチュア19年やってるから（笑）。
- いわし
- 脈絡がなくて覚えにくいネタも
スラスラやってはるし。あと、表情です。
きょう、高校で演劇部だったと聞いて納得しました。
落語をやっていたというのも、強いなと思ってて。
演技や声の強弱によって、
舞台にお客さんを引き込む力がすごいんです。
どくさいさんのネタを見ていると、いつも、
気づいたら前のめりになっちゃう。
- どくさい
- えーっ、うれしい。
- いわし
- 私、どくさいさんが
「R-1」の決勝に進出された要因は、
その「芸のうまさ」だと思うんです。
お笑い賞レースのなかでも、
R-１のネタは千差万別で、わりと
「なんでもアリ」なところがありますよね。
THE Wにも同じことが言えますけど。
そのような大会だと、
ネタの内容を一定の基準で審査するのは難しいから、
最終的には芸のうまさが光るんです。
「どれだけこのネタをうまくできるか」が
大事やなと思います。
- どくさい
- たしかに、R-１やTHE Wは、
「この人じゃないとできない」芸を
見る大会だという気がします。
去年のR-１は「俺はモーニング娘。にいた」
と嘘をつくネタの人が優勝して、
今年は「辛いものが嫌い」
という歌を歌った人が優勝しましたからね、
不思議大会です（笑）。
- いわし
- 不思議大会ですよ。
- どくさい
- 僕は、会社勤めのかたわら、
アマチュア芸人として
「M-1」などの決勝に進出していた
「変ホ長調」さんが身近にいたので、
「事務所に入らずに決勝に進むには、
変ホ長調さんみたいに相当頑張って
実力をつけないといけないんだ」と感じていました。
その心づもりがあったから、
頑張れたところがあります。
逆に言えば「事務所に入ってないから無理」だとか、
「芸歴を重ねてないと無理」だとか、
そういうことはないんやなって思えたんです。
- いわし
- わぁ、変ホ長調さんのような前例が
近くにいらっしゃるのはありがたいですね。
やっぱり、事務所に入ってないと、
決勝進出者の話を聞く機会もなかなかないですから。
- どくさい
- フリーには、先輩も後輩もいないですからね。
- いわし
- 私たちは、THE Wの決勝に４回出て、
４回目で優勝したんです。
それまでの３回は、
全部決勝の初戦で敗退だったんですよ。
フリーでも、自分たちでライブを立てたり、
東京で武者修行したりして、
決勝まではなんとか行けたんです。
でも、３回決勝に出て
「決勝からの勝ち上がりって、
めっちゃムズいんかも」と痛感しました。
- どくさい
- わかります。
本番にならないとわからない決勝の雰囲気に、
自分をチューニングするのが難しいんですよね。
- いわし
- そうなんです。
事務所に所属している芸人さんは、
ふだんから同じ事務所のM-1決勝進出者や、
優勝者と寄席をしています。
だから、寄席で
「レジェンドみたいな先輩の前座で
めちゃくちゃスベる」という経験ができる。
どんどんどんどん、「このままじゃあかんな」って
構成を練り直していくチューニング力が、
寄席で鍛えられる。
そのチューニング力が、
賞レース決勝のチューニングでも
発揮されていると思うんです。 - 一方で、私たちみたいなフリーの芸人は、
ふだん、広くても80席ぐらいの劇場で、
賞レース決勝のネタを何度もやるんです。
だからウケやすいんですけど、
そこでウケたネタが、
賞レースのお客さんにもウケるかは測れません。
なので、賞レースで入賞するのは
自分たちには難しいなと思ったときもありました。 - でも、研究した結果、
「フリーの芸人が入賞するには２パターンある」
という結論に辿り着きました。
もともとネタが強くて、
勢いでバーンって決勝までのぼり詰めるか。
または、大会をめちゃくちゃ攻略するか。
どっちかやなと思ったんです。
それで、THE Wに関しては、
めちゃくちゃ攻略したんですよ。 - 一概には言えないですが、
THE Wの準決勝のお客さんは男性の方が多くて、
決勝だと女性が多いことに気づいたんです。
両方のお客さんにウケないといけないと考えた結果、
アイドルのネタにしました。
いま、どの性別や年代にも多いのが
アイドルを応援している方だと思ったので、
そのネタなら準決勝も決勝も攻略できるんじゃないかなと。
- どくさい
- 準決勝と決勝のお客さんの層が違う大会だから、
どっちにもハマるネタをつくった。
‥‥こ～れは、すごい話ですね。
- いわし
- えへへへ。
THE Wの出場を控えてる方はぜひとも、
これを参考にしてください（笑）。
（明日に続きます）
2025-09-19-FRI
