糸井

藤井先生といえば、葉っぱの写真で。

藤井

あれは秋田フキですね。

もともとはプロフィール写真を求められて、
夜中の１時半ぐらいに
「俺はこんなんしかないんだよ」と
ポチッと送ったら、案外みんな起きてるんですね。
そのまま採用されてしまって。

糸井

いいですね。あれでスター街道を（笑）。

藤井

僕がいつも「これをバズらせたい」とか思って
やることは、なんにも起こらないんです。
けれども「むしろ何にも反応ない方がいいな」と
夜中にスッとやるやつは広がってしまうという。

この前も『宣伝会議』という雑誌の取材で
「この写真を見て呼ぼうと思った」
って言われました。

糸井

わかります。なんというか、衣装の問題ですよね。
いい入口があると、それで
いろんなものが動くことってあって。

藤井

だから今日もこんな格好（作業着）ですけど。

糸井

すぐ土を掘れるような（笑）。

藤井

昔はこういう場面って、ちゃんとスーツで来てたんです。
だけど久米宏さんのラジオに出たときに
「君はスーツじゃなくていいでしょ」って。

僕からしても、スーツなんて日頃着ないものだから
クリーニング代がかかるし、
これでいいんだったら、もう大歓迎ですって。

糸井

それは葉っぱ代わりにもなりますし。

藤井

そうなんですよね。

なんだかみなさんが、僕にとって
どうでもいいところに価値を見出してたり、
僕にとって大切なものはみんなに価値がなかったり、
いろいろ発見があるんです。

糸井

藤井先生は今日、「ほぼ日の學校」に
来ていただくのが実は二度目で。

藤井

はい。そうですね。

糸井

僕自身、土についてやりたい気持ちは、
ものすごく昔からあったんです。

藤井

ああ、よかったあ。

糸井

だから「土、ほぼ日の學校でやろうよ」と言ったら、
横里さんというディレクターの方が
担当してくれて、前回のインタビューがあって。

ほぼ日の學校「ナウシカと宮沢賢治を追いかけて土の研究者になりました」

藤井

あのときもそれこそ『風の谷のナウシカ』や
『天空の城ラピュタ』の、
「汚れているのは土なんです」とか
「人は土から離れては生きられないのよ」
的な話を延々としてたんです。
宮沢賢治の話もしましたね。

糸井

あのお話もおもしろかったです。

ただ自分自身はというと、僕の悪い癖で、
思っただけでそのままというものだらけなんですね。
うちの本棚に、土について書かれた古い本が
ずっとささってるんですけど、読まないんですよ。

藤井

昔から、あんなに土を掘ってたのに。

糸井

そうなんです（笑）。

藤井

今日、これだけはしたいなと思ってたのが、
徳川埋蔵金のお話で（笑）。
僕は小学校のとき、あの番組を
ものすごく熱心に見てましたから。

糸井

あのとき、学者の方々もけっこう見学に来てたんです。
地面を50メートル掘ってますから。

藤井

あの地層、きれいなんですよ。
火山灰の年代が全部わかる形で見えてたので。

糸井

現場でも、ちょっとうっとりしてました。

藤井

まあ、僕が子どものころには、
まだそこには興味がなかったから
「お母ちゃん、今日絶対、埋蔵金出るよ！」
とか言いながら番組を見てて（笑）。

だけどうちの母親は常識人だから
「もしほんとに出てたら、
いまごろニュース速報になってるから、
絶対出ないわよ」とか言うわけです。

「いやぁ、なんて無粋なことを言う！
お母ちゃんはわかってない」
みたいに言ってたんですけど。

糸井

（笑）当時からもうUFOと同じ扱いでしたからね。

藤井

そうそうそう。
でもね、やっぱりいいんですね。
あんなに土が輝いて。

糸井

いや、そうです。
自分たちでも「世界初の土木番組」とか
言ってたんですけど。

藤井

しかもあれをやると、業者たちも光るじゃないですか。
「日本にはこんな土木の技術者たちがいて、
ひとりずつ呼んできて金属探知をしました」とか。
覚えてます。なつかしい。

糸井

地面を掘る大きな機械の絶妙なコントロールができて、
「これでワインも注げます」
みたいな人がいたりとか（笑）。

藤井

そういえばゴルフ場をつくるときとかも、
設計図とかはもちろんあって、誰かが
「このホールは５打で」とかイメージしながら
デザインしてるらしいんですね。

だけど、最後に結局どう作るかは「スイーパーさん」
っていうブルドーザーのおっちゃんの
「こうじゃないかな」みたいな手加減で
できてるらしいです。

糸井

言ってみれば、そのブルドーザーが
職人のコテというか。

藤井

そうそう、左官屋さんのサッサッサッであり。

糸井

もうアートですよね。
僕は当時そういう人たちと付き合ってて、
やっぱり面白かったんです。

その頃はまだ土について、
そんなには考えてなかったんですけど。

だけど、いつの頃からか土っていうのが、
なにやらUFOのように気になりはじめたんですよ。
「不思議だな。こんなに身近にあるのに、
実は何にも知らないな」って。

土は汚いものとされていて、子どものときとかも、
ちょっと触っただけで手を洗うわけです。
でも病原菌は見えないから、
あれは土を落とす行為に思えてて。

藤井

「ばい菌がいる」とかって言われてね。

糸井

そう。で、藤井先生は前回の授業ですでに
ひととおりのことはお話しくださってて、
すごく面白かったわけですけど。

ただ僕は僕で、先生の本も読ませていただいて、
さらに先生に聞いてみたいこともあったりして。

藤井

ありがとうございます。

糸井

なにかというと、僕がとくに興味を持ったのは、
藤井先生の本から伝わってくる、
好奇心の分散と連鎖。
同時にいろんなことを集約もしてる。
すごく前に置いておいたものも忘れずにつなげる。

この、膨大なジグソーパズルみたいな
好奇心のあり方が
「ほぼ日の學校」としても見本だと思ったんです。

藤井

いやいや。そう言っていただけると、
すごく救われる気持ちですけど。

糸井

専門の世界の方からしたら、そういう動きに
「お前そんなにウロウロしてないで、
もうちょっとここ掘ってくれ」
みたいなことはあるんでしょうけど。

藤井

でもね、それもむずかしくて。

やっぱり土って
「特定の微生物が土の中でどうふるまうのか」、
たとえば
「アンモニアを硝酸に変える微生物は、
どういう条件で活発化するのか」
みたいなことを調べてるだけでも、
研究者人生を終えられるくらいなんです。

藤井

でも僕は、そういうひとつの部分だけを
突き詰めるというより
「その微生物がタイの焼畑の村では
どう活躍してる？」とか
「日本の畑ではどう？」とかを、いろいろこう、
それこそ散漫にやりたいほうなんです。

で、そうやってると、
あるとき『名探偵コナン』みたいに
ピーッ！ となる瞬間があるんですね。
「あのときこうだったな」
「あのときこうだったな」
「あのときこうだったな」が急につながる。

糸井

へぇーっ。

藤井

これやっぱりね、いろんなことを同時にやってないと、
見えてこないところがあるわけです。
ひとつだけやっているのでは見えてこなくて。