気仙沼の漁師のみなさんをモデルに、
毎年、名だたる写真家が気仙沼に滞在して撮影する
「気仙沼漁師カレンダー」。
2014年の藤井保さんにはじまり、
浅田政志さん、川島小鳥さん、竹沢うるまさん、
奥山由之さん、前康輔さんが撮影し、
2021年版は幡野広志さんが撮りおろしました。

漁師カレンダーの企画や撮影ディレクションなど、
全体の進行役を担うのがBambooCutの竹内順平さんです。
ふだんは梅干し屋さんですが、その「よりそい力」をかわれ、
カレンダーづくりにたずさわることに。
2014年版からはじまり、
10年後の気仙沼の財産になるように、と奮闘する
順平さんにお話をうかがいました。

>竹内順平さんプロフィール

竹内順平

1989年生まれ。
玉川大学芸術学部PA学科卒業後、
ほぼ日で2年ほど勤務。
そのあとに「伝える」をプロデュースする会社、
BambooCutを設立、代表取締役をつとめる。
また、梅干しプロデューサーとして、
立ち喰い梅干し屋やオンラインストアなど
梅干しの魅力を広く伝えている。

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第3回 わかりやす過ぎない写真。

順平
最終的には、1700枚くらいあったと思います。
幡野さんが一回セレクトをして、
ぼくたちに投げてくれた写真は。
そこから、55枚にしぼりました。
──
どういう基準でしぼっていったんですか?
順平
全部印刷をして、
パッとみて惹かれたものを中心に、
幡野さんが文章を書くので
それぞれの写真の感想を聞きながら、
書きやすいシーンをピックアップしていきました。
あとは、デザイナーさんにお任せでしたね。
最初に出してくださったデザインから、
大きな変更はなかったです。
──
幡野さんは「セレクトに悩んだ」と
カレンダーに書かれていましたけど、
選ばれたものを見て、どう思われましたか?
順平
どうだろう……。
わかりやす過ぎる写真は、
選ばれていなかったかなと思います。
これまでもそうでしたけど、
わかりやすく「いい写真」を
写真家さんは好まないですね。
それよりも、ずっと見入ってしまうような、
そんな写真が多いと思いました。
──
わたしも、何度もカレンダーを
見返してしまいました。
何気ない表情がとってもよくて。
順平
見入っちゃいますよね。
そういうカレンダーにできたのって、
ひとつ、判型の効果もあると思っていて。
──
これまでと、判型が全然違いますよね。
横開きなのが、おもしろいなと思いました。
順平
去年、前さんのときに縦の見開きに、
写真を1枚載せたんですね。
その迫力が、漁師さんのスケール感とすごく合っていて、
今年も写真を大きくみせたいと思っていました。
あと、エッセイがはいるので、
写真を複数枚みせられたらいいな、と。
そうなると、これまでの縦レイアウトだと
上のページしか活用できないので、
デザインがすごく限られるんです。
そうしたらデザイナーさんが「横は?」と
提案してくれて。
──
カレンダーで横っていうのは、
あまりないですよね。
順平
そうですね。
幡野さんは「横」をえらく気に入ってましたね。
判型が決まるまでは時間がかかりましたけど、
そのあとの進行はすごく速かったです。
──
エッセイもあって、写真もたくさん載っていて、
一見すると雑誌のようだなと思いました。
順平
雑誌で活躍されているデザイナーさんなので、
横の使い方がうまいんですよね。
それが功を奏してというか、
幡野さんの文章や写真と合うデザインだったし、
この判型だから、写真のよさが際立ったと思います。
写真家のかたが文章を書くのも
判型が横っていうのもはじめてで、
デザイナーさんの感覚に頼らなきゃいけないことが
多かったので、そこが食い違わなくてよかったです。

──
デザイナーさんも毎年変わるんですか?
順平
毎年、違いますね。
写真家さんと合うかたに
お願いしています。
でも、幡野さんは写真のセレクトよりも、
文章を書くほうが大変そうでしたね。
──
文量が多いですもんね。
順平
〆切も短かったですし。
あとは、船酔いも辛そうでしたね。
──
それは、みなさん辛いんじゃないでしょうか。
むしろ大丈夫な人はいるのだろうか、と思うくらい。
順平
ぼくが、酔わないんですよ。
唯一プロデューサーとして、
適任だったと思うところです(笑)。
酔っても、すぐに降りられないですからね。
引き返してください、なんて絶対に言えないし。
乗って1時間でダウンして、
あと10時間乗ってなきゃいけない、
みたいなときもありましたから。
漁師のみなさんも、なりたての頃は
ほんとうにしんどかったと話していました。
──
漁師カレンダーなのに、
船の上や海辺じゃない写真もあったじゃないですか。
そういう写真にもとても惹かれて、
撮ってほしいシチュエーションなど、
オーダーすることはあるのですか?
順平
いや、ないですね。
好きに撮ってください、とお願いしています。
お互いに考えていることは事前に話をしますけど、
あとは好きに撮ってほしい。
もちろん漁師さんの要望とか、船の条件とか
制約はあるので、その「好き」を叶えるために
必要なことは僕が全部動きます。
なので、幡野さんはほんとうに自由に
撮ってくださいましたね。
途中で、旅行にきたのかと思っちゃうくらい、
どんな場面もシャッターをきっていました。
だから、今年の写真は旅感もあるんですよね。
──
ごはんの写真や、気仙沼の景色など、
いろんな写真がありましたもんね。
この、おふたりで食事をしている写真も好きです。
とってもやさしい表情で。

順平
このかたは、3回目にカキ漁を撮影したときに
お会いした漁師さんで、
船の上では全然話をしてくれなかったんですよ。
でも、幡野さんはもっと話が聞きたかったそうで、
4回目にもう一度撮影をセッティングしたら
奥さんも来てくれたんです。
──
写真を撮るため、というよりも、
お話をしたかったんでしょうね。
順平
おもしろい話でしたよ。
トークショーとかで、話してほしいですね。
あと、これだけつばき会さんを撮ってくれたのも
幡野さんがはじめてだったんですよ。
途中までアテンドしてくださった方とか、
出航送りのときとか、
こっそりカレンダーに写っています。

(つづきます。)

2020-07-24-FRI

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  • 渋谷PARCO8階のほぼ日曜日にて、
    写真展「幡野広志、気仙沼の漁師を撮る。」が
    2020年8月2日まで開催されています。
    幡野さんが撮影を担当した
    2021年気仙沼漁師カレンダーの予約や、
    気仙沼のおいしいものが
    食べられるイベントです。