人をだまし、嘘をつくことで、
笑い、驚き、感動を生む人たちがいます。
そんな嘘のスペシャリストたちに
「嘘論」をうかがうインタビュー企画です。
第3弾はパントマイムアーティスト
「が~まるちょば」のHIRO-PONさん。
ことばを使わず、セットも使わず、
見る人の想像力をあやつるパントマイム。
「嘘」というテーマを真ん中に置きながら、
パントマイムのこと、ソロ活動のこと、
五輪開会式でのピクトグラムのこと、
たっぷりじっくり全8回でうかがいます!
聞き手は「ほぼ日」稲崎です。

>HIRO-PONさんプロフィール

HIRO-PON(ひろぽん)

パントマイムアーティスト。

1999年に「が~まるちょば」を
元相方のケッチ!と結成。
サイレントコメディー・デュオとして、
世界の35カ国以上で公演を行う。
現在はデュオ活動に終止符を打ち、
HIRO-PONが「が~まるちょば」を継続。
黄色のモヒカンがトレードマーク。
東京オリンピックの開会式では、
クリエイティブチームのクリエイターとして
ピクトグラムの演出・構成を手掛け話題になる。

公式Twitter:@GAMARJOBAT_H

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02 不確かな余白がある。

──
はじめて知りました。
パントマイムとジェスチャーのちがい。
HIRO-PON
ジェスチャーはことばと同じで、
意味を伝えるものです。
でも、パントマイムは嘘だから。
嘘をついて「ほんとう」を伝えるもの。
──
嘘をついて「ほんとう」を伝える。
HIRO-PON
はい。
──
そもそも演劇って、
ぜんぶ嘘じゃないですか。
登場人物も、人間関係も。
HIRO-PON
セットなんかも嘘ですよね。
──
でも、演劇でつく嘘と
パントマイムの劇でつく嘘は、
ちょっと種類がちがいますよね?
HIRO-PON
ちがうというか、
セリフ芝居とパントマイム劇では、
お客さんに「伝えるもの」がちがうんです。
もっというと「伝えたいもの」もちがう。
──
そもそも出発点がちがう、と。
HIRO-PON
セリフ芝居は目的がはっきりしてます。
心動くストーリー展開があって、
人物たちの心情にあわせて、
セットやセリフが決まります。
──
はい。
HIRO-PON
それにセリフ芝居というのは、
誰が見ても伝わるものはだいたい同じです。
もちろん見る人の解釈で、
感じ方の幅はたくさんありますよ。
でも、作り手の思いとしては、
「こんなことを伝えたい」と
「こんなことが伝わってきた」は、
なるべくブレないようにつくるはずなんです。
──
あー、なるほど。
HIRO-PON
でも、パントマイムというのは、
もっともっと「不確かなもの」なんです。
だから同じシーンを見て、
笑う人もいれば、泣く人もいます。
──
真逆の反応があるんですね。

HIRO-PON
ぼくらの長編でボクシングをテーマにした
『BOXER』というコメディ作品があります。
最後に試合のシーンがあって、
そこでアホらしい必殺技を出すんです。
──
アホらしい?
HIRO-PON
パンチを打つ前に、
大げさなポーズを決めて、
それから必殺パンチをくり出す。
漫画でありそうな感じですね。
──
ほう。
HIRO-PON
見てくださった方はわかると思いますが、
必殺技を出すシーンなのに、
相手選手が空気を読まずに、
何度もパンチを打ってじゃまをします。
コメディ作品だったので、
そういう笑いの要素を入れたんです。
──
お約束をわざと破るわけですね。
HIRO-PON
ぼくは早く必殺技を出したい。
でも、相手だって負けたくないから、
お約束を破ってじゃましようとする。
そのおかしなやりとりを、
パントマイムでひとりでやるわけです。
──
あ、ひとりでやるんですね!
HIRO-PON
はい、ひとりで表現します。
相手のパンチが当たったリアクションをして、
相手の姿は見えないんだけど、
そこにいるかのように見せるんです。
──
おぉぉ、すごいテクニック‥‥。
HIRO-PON
相手のパンチも、ロープ際の攻防も、
ぜんぶパントマイムで全力で再現します。
すると、やってることは
古典的なコメディなんですけど、
見てる人はどんどん「ぼく」に
感情移入しはじめるんです。
海外でその公演をやると、
客席から「ゴー、チャンプ!」って
声援がたくさん飛んでくるんです。

──
ほんとうの試合みたいですね。
HIRO-PON
しかも相手の姿が見えない分、
みんなの頭の中には
それぞれの敵がいるわけです。
──
ええ、ええ。
HIRO-PON
その相手は嫌な上司かもしれないし、
ライバルの同僚かもしれない。
もしくは相手は人間じゃなくて、
じぶんの「越えるべき目標」かもしれない。
それくらい人によってちがいます。
そういう不確かな余白があるのは、
パントマイムならではだと思います。
──
その不確かさな要素って、
きっと多すぎてもダメですよね?
HIRO-PON
不確かな要素がふえすぎると、
今度は話がわかりにくくなります。
パントマイムってセリフがないので、
途中でわからないところがあると、
そこから話についていけなくなるんです。
──
そうか、セリフがないだけに‥‥。
HIRO-PON
ただ、それを恐れて説明過多にすると、
それはそれでつまらない作品になっちゃう。
──
そのバランスは
どうやって決めるんですか?
HIRO-PON
ものさしはどこにもないので、
そこはじぶんの経験に頼るしかないです。
ただ、舞台は1回で終わりじゃないので。
──
といいますと?
HIRO-PON
初日で「ちょっと説明不足かも」って感じたら、
次までにすこし変えたりもします。
だから初日と千秋楽で、
けっこう変わってる公演はありますよ。
──
どんどん変えていくわけですね。
HIRO-PON
やっぱり作り手としては、
もっとおもしろくしたいって
いつも考えますからね。
変えて前のほうがよかったとか、
そういうこともたまにありますけど(笑)。
──
舞台ならではですね。
そうやってつくっていくというのは。
HIRO-PON
説明は多すぎても、少なすぎてもダメ。
ちょうどいい「不確かさ」こそ、
パントマイムならではのおもしろさなんです。

(つづきます)

写真:タケシタトモヒロ

2022-01-29-SAT

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  • が〜まるちょばの舞台
    『PLEASE PLEASE MIME』
    名古屋公演、東京追加公演決定!

    現在、全国ツアー中のHIRO-PONさん。
    2月26日(土)に名古屋公演があります。
    本公演はショートスケッチ5作品と
    名作長編『指環』の2幕構成。
    ぼくも1月の東京公演に行ってきましたが、
    笑いも、涙も、驚きも、感動も、
    ぜんぶが詰まった素晴らしい舞台でした。
    1人で演じてるとは思えないほど、
    愛くるしい人たちが続々と登場します。
    東京追加公演は5月に決まったそうなので、
    ご興味のある方はおみのがしなく!

    チケット最新情報は公式サイトからどうぞ。