お正月の風物詩といえば、
1月２日、３日に開催される
「箱根駅伝」。
陸上ファンならずとも、
毎年欠かさずに観戦するという人は
多いのではないでしょうか。
襷をつなぐランナーの姿に
私たちはなぜ魅了されるのか。
大学時代、箱根駅伝５区で圧倒的な走りを見せ、
２代目山の神と呼ばれた柏原竜二さんと、
スポーツジャーナリストの生島淳さんが
「駅伝」という競技のおもしろさについて
とことん語り合います。
担当はほぼ日のかごしまです。
柏原竜二（かしわばら・りゅうじ）
1989年福島県生まれ。
東洋大学時代に箱根駅伝で三度の総合優勝に貢献し、
４年連続５区区間賞を獲得すると同時に、
４年次には主将としてチームを優勝に導いた。
卒業後は富士通陸上競技部にて活動し、2017 年に現役引退。
著書に『神シンキング＜4年連続5区区間賞の
箱根駅伝レジェンド柏原竜二が解釈する「60」のワード＞』
（ベースボール・マガジン社）がある。
生島 淳（いくしま・じゅん）
1967年宮城県気仙沼市生まれ。
1977年の箱根駅伝をNHKラジオで聴いて以来、
箱根駅伝に魅了される。
早稲田大学志望のひとつの動機となる。
2005年、「どうせ陸上で食べてるわけじゃないから」と
『駅伝がマラソンをダメにした』（光文社新書）を上梓。
どういうわけか、そこから陸上の仕事が広がり、
『箱根駅伝ナイン・ストーリーズ』（文春文庫）、
『箱根駅伝に魅せられて』(角川新書)などの
著書がある。
浦上藍子／ライティング
- 最後は、糸井さんから質問があります。
- うわぁ‥‥、緊張する！
- 糸井
- あ、糸井重里です（笑）。
今日はありがとうございました。
いやぁ、始まった途端に思いましたが、
お二方とも対談の名手ですね。
ずっと面白かったです。
- こういうテーマならいくらでも話せますもんね。
- 糸井
- すばらしいです。
思っていることの量が違うし、
また同時にその思っていることについて
確かめたり、考えたりしていることの量も違うし。
そして、それがいかに伝わらないものなのか
という経験を、
ものすごくしていらっしゃる。
いい試合を観戦しているような思いで、聞いていました。
- 糸井さんの前でこれまでの経験をお話しできたのは
よかったです。
- 糸井
- 僕からの質問ですけれど、
スポーツを見ていると、
観客が先にがっかりすることがあるんですよ。
自分の持っている引き出しが少ないがゆえに、
怒り出したり、
ネガティブな要素について強く考えたり。
「いや、負けない！」と思って見る場合もあるけれど、
それはどこか信仰みたいなもので、
神様に祈るような気持ちですよね。 - 選手はそうではなくて、
信仰ではなく「負けない」と思うことを繰り返し、
対する相手も、「相手の思うようにさせない」ということを
絶えず仕掛けている。
- そうですね。
- 糸井
- 気持ちを立て直すということの訓練と経験、
それについてのお話が聞いてみたいな、と。
つまり「観客なんか何も考えてねえんだぞ」ということを
教えてやってください、ということです（笑）。
- 僕らは、ほば負けるスポーツなんです。
野球をしていた兄貴に
「陸上っていいよね、３番で喜んでいるんだもん」
と言われたことがあります。
確かにそうで。
だから、負けて学ぶことも多いんですね。
次はこうしよう、ああしよう、という反省を
繰り返しているからこそ、
駆け引きがどんどんうまくなっていくのかな、と。
ずっと勝っていたら、
おそらく駆け引きは上達しないと思います。 - 僕は高校時代もずっと２番でした。
だから「どうやったらこいつに勝てるんだ」
と考え続けたことで、
駆け引きの引き出しも増えていったのかなと思いますね。
- スポーツの醍醐味って、勝利の喜びだけではなくて、
たくさん感情を揺さぶられることが
記憶のストックとなり
財産になっていくことにあると思うんです。 - 当時でいえば、東洋大学と早稲田大学のような
ライバルストーリーがあったり。
今なら、青山学院大学と駒沢大学とかね。
僕は、そのストーリーを構成して、
書くことがすごく好きなんです。
タイムや記録より、
そこからどんなストーリーが紡がれるか。
そういう視点になるのは、
長年観てきたからなのかな、と思います。
- 陸上競技って、劇的な逆転満塁ホームランってそうはない。
準備のスポーツだと思います。
その準備のスポーツを追っていくと、
「この子たちはこれだけ頑張っているんだ」
という信仰心も生まれますよね。
だからこそ、陸上競技ではプロセスを大事にして、
準備をしっかりしなければいけない。
大学はできているけれど、
実業団やプロではなかなかそれができていない
現状もあるのかなと思います。
- 柏原さんは、
その逆転満塁ホームランを放った人ですけれどね。
- でもその裏にあるのは、
毎晩寝ながらイメトレしているバカみたいな人間がいて。
自分なりの準備をし続けていただけだと思うんですよね。
- 糸井
- 今のお話を伺うと、
選手の信仰心というのも、とても強くある、
ということですね。
- 僕も大西智也さんという選手に憧れて、
「同じ大学で走って活躍したい」という
信仰心に近い思いで東洋大学に入学しました。
実は東洋大学が
どんなチームかもよくわかっていなかったんです。
- 信仰心と練習のリアリティが伴っていれば、強くなれる。
でも観客のことを考えると、
昔よりもネガティブに考えるファンが増えてしまったかな。
- 糸井
- ネガティブなデータのほうが集めやすいですよね。
でも、よく褒め言葉として
「メンタルの強い選手である」というのがありますけれど、
選手もみんなネガティブなデータも全部知っていながら、
それでも試合をしているわけで。
本当にメンタルが強い、気にしない人なんていないだろうと思っていたんです。
今日のお話を聞いて、
「ああ、やっぱりな」と思ったんです。
- 僕は現役のころ、毎日不安でした。
不安だから練習していた、というのもあります。
これだけやって負けたなら仕方がない、
と思えるくらいに、準備をする。 - 先をネガティブに考えて準備をしていくことが大事なので、
前日までは不安ばかりです。
「足首をひねっちゃったらどうしよう」
「これを食べてお腹を壊したらどうしよう」とか。
そして当日を迎えて「あ、今日、問題ないぞ」と思えたら、
一気にポジティブにスイッチが切り替わります。
それまではずーっとネガティブで、
走っているときはポジティブ、
走り終わったらまたネガティブにまた変わる。パチッて。
- 改めて柏原さんのお話を聞くと、
これだけストーリーを考えるランナーはそうはいない、
という気がしてきましたね。
自分の内面に向かって、
毎晩５区をシミュレーションする。
そのシミュレーションの蓄積も、
すべて強くなっている時間ですよね。
アメリカのジャーナリスト、マルコム・グラッドウェルは
「１万時間やれば誰もが何かの分野で一流になれる」
と言っていいますが、
まさにそれです。
- 頭のなかで散々シミュレーションしてきているから、
実際に走るときには、
イメージと感覚のすり合わせができるんです。
- 区間をストーリーで考える人ってなかなかいないと思う。
自分のなかでのシミュレーションは、
教えられるものではないんだな、と感じます。
- 最近、後輩たちには、
「考えていることと、
当日やれることの再現性が重要だ」と話すんですよね。
- 陸上って、相手はいるにせよ、
個人で完結できる競技でもある。
だからこそ、個人のストーリーを紡げる力が
表現力につながるんだ、ということを改めて確信しました。
またそういう視点で取材にあたりたいな、と。
- 僕はゲームや小説が好きで、
自分でも違う話を組み立ててみようと
考えたりしていましたけれど、
それも競技力にもつながっていたのかもしれないですね。
- 柏原さんの大学生活を振り返っても、
１年生で鮮烈の箱根デビューするという「起」、
２年生でもさらに記録で上回るという「転」、
３年生で怪我や不調を経験する「転」があって、
４年生で区間新記録を達成という「結」があった。
４年間で起承転結になっていたんですよね。
- それは偶然（笑）。
- でもそういうふうになっていたんじゃないかな、って
思いましたね。
それにしても、山の攻略にはストーリー力が有効だった、
というのは発見でしたよ。
- 糸井
- ありがとうございました。
ずっと楽しそうだし、本当に面白かったです。
- 仕事という感じがしませんでした。
楽しい時間でした。まだまだしゃべれますね(笑)。
- はい、でもこのへんでしょうか（笑）。
ありがとうございました！
- 一同
- （拍手）
（おわります。お読みいただきありがとうございました）
2024-12-27-FRI
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＜4年連続5区区間賞の箱根駅伝レジェンド柏原竜二が解釈する「60」のワード＞』