2019年8月、阪急うめだの
「カレーとカレーのためのうつわ展」で、
水野仁輔さんと糸井重里が対談をしました。
「カレーの取調室」と題した
水野さんがさまざまなかたと
話をするトークイベントで、
この回は、カレーにくわしい水野さんが、
糸井重里に「カレーの恩返し」の秘密を
聞いていくというものでした。
このときの話がおもしろかったので、
ほぼ日編集バージョンでご紹介します。
- 水野
- 実はぼくが今日、いちばん糸井さんに
聞きたかったことがありまして、
「カレーの恩返し」のブレンドの中味について
聞かせてほしいんです。
- 糸井
- 中に何が入っているかですか?
- 水野
- そうです。
ただ実は、こういう商品というのは便利で、
裏をひっくり返すと‥‥。
- 糸井
- 「原材料表示」のところに
書いてあるんですよね(笑)。
- 水野
- そう。だから「カレーの恩返し」の
糸井さんの秘密のミックスの内訳は、
ここを見ればおおよそわかるわけです。
しかも、この表記は
量が多い順に並んでいるので……。
- 糸井
- 実は、ほとんどバレている。
- 水野
- そうなんです。
ただ、今日はさらに詳しく聞けたらと。
- 糸井
- わかりました。
- 水野
- 「カレーの恩返し」の原材料表示を見ると、
特に多く使われているスパイスが、
カルダモン、クミン、コリアンダー。
この3つは同じぐらいですか?
それともカルダモンがいちばん多い感じですか?
- 糸井
- もう言っちゃいますけど、
「カレーの恩返し」は
圧倒的にカルダモンなんです。
- 水野
- あ、そうですか。
- 糸井
- どうしてそうしたかも、水野さんなら
わかると思うんですけど、
「すでにできあがってるカレーに
入れるものだから」なんですよ。
- 水野
- はぁー‥‥そうかそうか。
カルダモン以外もカレーにとっては重要だけど、
クミンやコリアンダーは、
市販のルウのなかにも入ってるから。
- 糸井
- そのとおりです。
「すでにおいしいカレーに加えるとしたら」
という視点で考えると、こういうことになるんです。
- 水野
- つまり、あまり入ってないカルダモンを
足してあげる。
- 糸井
- そう。カルダモンは値段が高いんで、
大量生産品を作るときに、
カルダモンをたくさん入れる会社は
ないんですね。
- 水野
- カルダモンって、本当に高いんですよ。
- 糸井
- で、使わないで値段を抑えてるのを、
僕は値段を度外視して
好きな量のスパイスを入れていったから、
「カレーの恩返し」には
カルダモンがたくさん入ることになったんです。
だから「カレーの恩返し」だけで
スパイスカレーを作ろうとすると、
すごくバランスの悪いカレーになるんですよ。
- 水野
- そういうことですよね。
そして、次に多いのが、ターメリック。
- 糸井
- これはもう、なくてもいいぐらい?(笑)
- 水野
- で、シナモン、ピンクペッパー、クローブ、
唐辛子、ローレル、フェンネル、フェネグリーク、
レモングラス‥‥。
なんだかすごいですね。
糸井さんが自分なりにあれこれやって、
たどり着いたことが伝わってきます。
フェンネルやフェネグリークを
ミックススパイスに入れようって、
なかなか思わないですよ。
- 糸井
- 買わないですよね。
- 水野
- ええ。それでもうひとつ糸井さんに
聞きたいことがあるんです。
糸井さんがこの「カレーの恩返し」をベースに
「ニュー恩返し」を作るとしたら、
何を加えますか?
- 糸井
- じゃあもう、面白いから言います。
実は「カレーの恩返し」には、
入れ忘れてたものがあるんですよ。
- 水野
- え、この商品に?
- 糸井
- はい。最近気づいたんですけど。
- 水野
- 現状のものには入ってない‥‥んですよね?
- 糸井
- 入ってないですね。
それはつまり、スパイスの中に勘定しないで、
料理の中に勘定するものを忘れ……。
- 水野
- あ、わかりました。
ジンジャーかガーリック!
どちらですか?
- 糸井
- 両方です。
どちらもけっこうたくさんです。
ぼくは自分の家でカレーを作るときには、
生のジンジャーとガーリックを
たくさん入れるんですけど、
それをここに入れてなかったんです。
- 水野
- はぁー。
そうすると「カレーの恩返し」を買って、
ジンジャー・ガーリックパウダーを混ぜ合わせると、
本当の糸井さんの
「恩返し」のミックスが出来上がる。
- 糸井
- そういうことですね。
- 水野
- そうですか、知らなかった。
- 糸井
- ただ、こういう「入れ忘れ」の隙があったのが、
僕はかえって面白かったと思ってるんです。
「各ご家庭で調節すればいい」という
幅ができたので。
- 水野
- 本当に完全に満たされた状態じゃなかったのが、
より楽しむ余地を生んだという。
- 糸井
- そうだと思います。
- 水野
- あと、そうだ。
「カレーの恩返し」のネーミングについても
聞きたいんですけれども。
- 糸井
- 実は、僕が会社でよくカレーを作っていたとき、
いつもスタッフたちに
途中まで手伝ってもらってたんですけど、
最終段階になると、毎回みんなを
「今から外に出ろ」って追い出していたんです。
- 水野
- みんなを追い出す‥‥?
- 糸井
- で、自分以外誰もいない状態にして、
このスパイスミックスを入れて仕上げてたんです。
いまの「カレーの恩返し」にあたるものを。
- 水野
- 誰にも知らせずに。
- 糸井
- そう。だから、秘密だったんです。
それを「鶴の恩返し」になぞらえて
「カレーの恩返し」と言ったものなんで。
- 水野
- そういうことですか。
- 糸井
- さらにいえば「カレーの恩返し」にはいま、
レトルトカレーもできてますけど、
似た遊びはレトルトでもやれるんです。
誰かにごちそうするときに、
このレトルトカレーをあたためて、
「私が作った」って言い張れば(笑)。
ジャガイモだとかニンジンだとかを
ちょっと入れれば、わかりゃしないんです。
- 水野
- 「ちょっと出ろ」と言えばいい(笑)。
- 糸井
- そうそう。私が作ったふりができます。
- 水野
- ‥‥なるほど、今日はいろんな話を
聞けてたのしかったです。
というわけで「カレーの取調室」
今回のゲストは糸井重里さんでした。
ありがとうございました。
- 糸井
- こちらこそ、ありがとうございました。
(おしまいです)
2019-10-13-SUN
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