フランス人の高名な演奏家に見込まれて、
弟子にと誘われ、断った小学生。
けっこうグレて、何度もアコーディオンを手放したのに、
コンクールでは優勝しちゃう中学生。
パンチパーマで黒特攻服な暴走族をやってた一方で、
一流ホテルのオーディションに受かってしまい、
一晩で９ステージをこなしていた、17歳。
それが「桑山哲也さん」。
いまでは、最高のアコーディオン奏者です。
シャンソンって敷居が高そうだよね、
めかしこんで聴きにいく音楽でしょ？
そんな固定観念は、古かった。
こんなにも親しみやすくて、おもしろい人がいたとは！
シャンソンの世界、奥深い予感‥‥！
ということで担当は「ほぼ日」奥野です。
桑山哲也（くわやまてつや）
日本唯一のベルギー式配列のボタンアコーディオン奏者。作曲家である父、桑山真弓より６歳からピアノ鍵盤式のアコーディオンを学ぶ。14歳よりフランス屈指のアコーディオン奏者、故デデ・モンマルトルに師事しボタン式アコーディオンに転向。情感あふれる表現力とテクニックで様々なジャンルのアーティストとの共演も多く、これまでに９枚のアルバムをリリース。2020年にはKis-My-ft2のアルバム楽曲「種」を作曲するなど作曲家としても好評を博している。2022年よりシャンソンの祭典「パリ祭」の音楽監督を務める。妻は女優の藤田朋子。仲良し夫婦としてメディアへの出演も多い。
- 桑山
- まあ、とにかくね、
アコーディオン弾きって少なかったんです。
- ──
- 急に戻ってきた（笑）。
- だ～いぶ遠まわりしたような気がするけど、
戻ってきました。
アコーディオン奏者は少ない、という話を
１時間くらい前にしてたんでした。
じゃ、大学でも教えるところができたから、
少しずつ増える傾向にあるんですか。
- 桑山
- そうですね、まあ、大学っていうよりかは、
チャラン・ポ・ランタンかな。
- ──
- あ、なるほど。
- 桑山
- チャラン・ポ・ランタンの小春ちゃんが、
2021年に、
アコーディオンを531台も売ったんですよ。 - 一晩で。
- ──
- それは‥‥どういうことですか？
- 桑山
- 「アコーディオンの裾野が広がらないのは、
値段が高いからだ」と言って。 - 楽器屋さんに置いてある、
まあ、お安い練習用のアコーディオンでも、
20万円くらいするんです。
- ──
- おお。それは、おいそれとはね。
- 桑山
- でしょ。若い人がはじめたいと思っても
急に20万は出せないじゃないですか。
ちょっとしたものになれば、50万とか。
ぼくらプロが弾くアコーディオンは、
高いものは300万円以上はしちゃうんですよね。
- ──
- ふつうにクルマみたいな値段するんですね。
- 桑山
- そういった状況をどうにかしたいと思った
チャラン・ポ・ランタンの小春ちゃんが
中国のメーカーに問い合わせて、
がんばって交渉に交渉を重ねて、
小春ちゃんプロデュースのアコーディオンを制作し、
１台10万円で販売したんです。
- ──
- おおー、すごい。
- 桑山
- そしたら、
チャラン・ポ・ランタンの人気も相まって、
531台も売れちゃったんです。
- ──
- なんと！
- 桑山
- 小春ちゃん曰く
成田空港の税関まで自分たちで取りに行ったり、
自分たちで車で運んだあとに、
すべての楽器の検品チェックして、発送して‥‥
と本当に大変だったようです。
「アコーディオンを普及させたい！」
という一心なので利益はまったくないそうです。
- ──
- そうなんですか。531台も売ったのに。
- 桑山
- アコーディオンって、
全国の楽器屋さん合わせても、
年間50台は売れないと思います。
ふつうだったらね。
つまり「531人」も増えたんです、一晩で。
アコーディオンを手にした人が。 - 小春ちゃんのすごいところは、
自分で、初心者のための教則本を出版して、
みんながやめないように、
レベルアップできるようにしているところ。
その結果、
アコーディオン奏者、いま増えてるんです。
- ──
- すばらしい‥‥。
- 桑山
- ぼくのライブに来た人にアンケートとると、
「チャラン・ポのYouTubeを見て」とか、
「チャラン・ポの小春ちゃんが」とか、
みんなが
チャランポチャランポ
チャランポチャランポ言ってるんですよ。
- ──
- わはは、チャランポチャランポ。
大人気ですね。
- 桑山
- ぼくの姪っ子も、まだ小学生のときには
「おじちゃん、アコーディオン、ダッサ」
とか言ってたのに、
ハタチになった最近じゃ
「おじちゃん、アコーディオン、
おっしゃれ～っ」みたいなこと言ってる。
- ──
- それだけイメージというか、
価値観が変わってきているんですね。 - ちなみにですけど、ボタンと鍵盤とでは、
何がどう違うんですか。
- 桑山
- 中身は同じなので、音色も一緒ですけど、
鍵盤とボタンだと運指が変わるので、
フレージングが変わってきます。
基本的には、
ぼくはどっちでもいいと思ってはいます。 - いまのアコーディオンが壊れても、
鍵盤のアコーディオンでも演奏できるし。
- ──
- ちなみに左手は何をしてるんですか。
- 桑山
- 何って（笑）、伴奏してます。
- ──
- そっちからも音が出てるってことですか。
- 桑山
- そりゃそうですよ。
- こんなにボタンついてて音出なかったら、
バカみたいじゃないですか！
- ──
- いや（笑）、あの、すみません。
何か、どんな仕組みなのかなあと思って。
- 桑山
- じゃあ、かんたんアコーディオン講座。
- 右手は、すべて単音が出るボタン。
１個のボタンを押すと１つの音が出ます。
だから、和音を出したいときには、
複数を押して、音を組み立てるんですね。 - で、左手は、120個ついてるんですけど。
- ──
- 120個！？
- 桑山
- 内側から外側に向かって３列は単音ボタン。
右手と同じで、１個の音しか出ない。 - で、外側の３列はひとつ押すと和音が出る。
この単音と和音を組み合わせて
伴奏とメロディを奏でる、という楽器です。
- ──
- その間、蛇腹を動かしながら。
- 桑山
- そうです。蛇腹で風を送ってあげることで
音を出すんですけど、
弱く引っ張ると弱い音が出る。
強く引っ張ると強い音が出る。 - 簡単に言うと、そういう仕組みの楽器です。
- ──
- ギターなんかだと、曲調によって
エフェクターで音色を変えたりしてますが、
アコーディオンの場合って‥‥。
- 桑山
- はい、鍵盤の後ろにスイッチがあって、
音楽に合わせて音色を選んでいるんですね。
シャンソンのときに使うのは、この音。 - ２つの音が同時に鳴っていて、
微妙にチューニングを変えているので、
ちょっと揺れたような音が出る。
これが、シャンソンには合うんです。
ボサノヴァとかジャズをやるときには、
こういう音で。
シャンソンの音でやっちゃうと、
ボサノヴァやジャズの気だるさが出ない。
元気な感じになっちゃう。
- ──
- なるほど‥‥。
- 桑山
- で、こうやって低音を足すと演歌ですね。
そんな具合で、
弾くジャンルによって音色を選んでます。
▲取材現場で桑山さんがアコーディオンの実演をしてくださった様子を、すこしだけ動画でお届けします。
- ──
- 右手でメロディー、左手で伴奏しながら、
蛇腹で風を送って音を出す。
- 桑山
- で、顔は笑顔。
- ──
- 顔は笑顔（笑）。大事ですよね。
- 桑山
- はい、大事です。そこは、とっても。
この曲も、きっと聴いたことがあるはず。パトリック・ヌジェ「私の回転木馬」です。
（つづきます）
2025-09-17-WED
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これまでジャズやロックに挑戦してきた演歌歌手の神野美伽さんが、今度はシャンソンを歌います！ ただいま絶賛準備中、チケットはもう発売中。本番までに「ほぼ日」でシャンソンを楽しく学んで、当日はみんなで「オー・シャンゼリゼ」を歌いましょう！ きっと素敵なコンサートになります。ぜひ、足をお運びください。