
準備しようと思ってはいるんです、防災バッグ。
でも実際、なにを入れればいいんだろう、
というところで立ち止まってしまうんです。
そこで、防災について日ごろから意識しているみなさんに、
防災バッグの中身を見せていただきました。
非常食や簡易トイレだけでなく、
たとえば気分が落ち着く本やお気に入りの枕など、
災害時に「必要」なものは人によって違うようです。
もしかしたら、防災バッグに入れる「必需品」には、
その人らしさが表れるのかもしれません。
この連載を、自分にとっての必需品を考える、
きっかけにしてみてくださいね。

友利新 ともりあらた
内科・皮膚科医。
医師の立場から美容と健康を追求し、
テレビ、YouTube出演などを中心に、
美しく生きるためのヒントを発信している。
X:@ArataTomori
YouTube:@aratatomori
友利さんの防災バックの中身


サプリメント
(Active Supplement ビタミンA+D)

日焼け止め、リップ
(LA ROCHE POSAY UVイデア XL プロテクションBB、ドクターケイ ABC-G リップセラム)

アイブロウ

コットン
(クレ・ド・ポー ボーテ ル・コトン)

拭き取りタイプクレンジングシート
(クレ・ド・ポー ランジェットデマキアントヴィサージュ)

スキンケアキット
(POLA COSMOLOGY)

アロマキャンドル
「そのあと」も私が生き続けるために、
必要なものはなんだろう。
- ──
- 友利さんは、ご自身のYoutubeチャンネルで
「見落としやすい防災グッズ」
を紹介なさっていました。
災害時は、
食品や水などの基本的なものがあればいいと
思いがちですが、友利さんの動画には
スキンケア用品なども登場していて。
「あまり気にしていなかったけど、
たしかにあったほうがいいな」
と感じるものばかりでした。
- 友利
- 私は、東日本大震災のあと、
日本ロレアルグループさんが被災地に向けて始めた
「移動式美容室」に
ボランティアとして参加したんです。
そのとき、被災された方から
「震災のあと、毛布などの支援はあったけれど、
化粧品のようなものはなかった」と
お聞きしました。
災害の直後はそれどころではなくても、たとえば
顔が洗えない、まゆ毛がかけない、
口紅ができない‥‥そういったことが、
前向きになれない原因になっていたと。
だから「移動式美容室」で化粧品をお渡ししたとき、
すごく喜んでいただけました。
- ──
- 友利さんの動画を見て、初めて
「そうか、いま私が被災して
化粧品がなかったら、まゆ毛がない状態で、
毎日人と接することになるんだ」と気づきました。
ふだん、すっぴんで過ごすのは
誰とも会わない日だけなので、
「人前で見た目を整えたくてもできない」
という状況が続くと、
だいぶ塞ぎ込んでしまいそうだなと
実感が迫ってきました。
- 友利
- そのような方は
たくさんいらっしゃるかもしれませんね。
けれど、被災された方は、
震災後の大変な状況のなかで
「顔を洗えないのがつらい」
「まゆ毛をかけないのが困る」とは、
なかなか言い出しづらかったそうです。
それを聞いたときに、
「いままでふつうにしてきたことが
まったくできなくてつらい、と発信すると
『いや、生きてるだけでいいじゃないか』
と言われることもあるだろうな。
そう返されることが、余計に精神的な落ち込みに
つながるのかもしれない」と感じて。 - 私たちのふだんの生活を思い浮かべると、
「必要なこと」は、食料や水だけではありません。
顔洗って歯を磨いて、身体を拭いて、
軽いメイクをして‥‥といったことも、
生活には当たり前にあることです。
「当たり前にしていたことができなくなる」
というのは、
災害時の大きなストレスになると思うんです。
- ──
- 生活を立て直すためには、
震災直後の数日間だけを考えるのではなく、
そのあと「当たり前」を取り戻すことが
大事になってくるんですね。
- 友利
- 被災を長い目で見て備えることは
重要だと思います。
私が被災地にうかがったのは、
震災から半年くらい過ぎたあとでした。
でも「本当にここに住宅があったのか」と驚くほど、
復興には遠い状況でした。
半年以上経っても
「被災者として生きていかなければならない」
方々の現実を目の当たりにして、
「防災グッズは一時的なもの」というイメージが
変わりました。
- 友利
- もちろん、政府が推奨している
食料や水の備蓄はものすごく大事です。
一方で、「被災」は
想像以上に長い期間を指すので、
ある意味「ふつうの生活の一部」として
考えることも大事だと思います。
スキンケア、メイク用品、生理用品などは
「備蓄品」のリストから抜けがちですが、
私は食料品などと分けて用意しています。
スキンケアが1本で済むお化粧水や
日焼け止め、まゆ毛をかくものも、
基本的に防災バッグに入れてあります。 - とはいっても、
災害時は水が使えないこともあるので、
ふだんとまったく同じものを
用意するわけにはいきません。
たとえば洗顔用品は、水が必要ない
拭き取りタイプのクレンジングシートにしたり。
変わったところでは「宇宙でも使えるように」と、
POLAさんがNASAと一緒に開発した
スキンケア用品があって、
それも水なしで使えるんですよ。
- ──
- えっ、そんなものがあるんですね。
市販されているのですか?
- 友利
- はい、宇宙飛行士さんでなくても買えます。
宇宙って、水がないですし、
けっこう乾燥しているらしいんです。
そんな極限状態にも耐えられる製品なので、
災害時も役立つと思います。 - 日常的に使わない化粧品は、
いざ使うときに使い方がわからなかったり、
使用期間が過ぎていたり、
意外と肌に合わなかったりすることがあるので、
私は「ふだん使う用」と「備蓄用」の
ふたつ買っておくことが多いです。
- ──
- 完全に防災のためのものを揃えているというよりは、
日常でもときどき使うようにしているんですね。
- 友利
- そうです。
出張がよくあるので、
出張用のコスメポーチと同じように
防災ポーチを置いています。
たまに出張に持っていくこともあります。
何度か使って少なくなってきたら、
日常使いに回して、新しく備蓄用を買ったり。
- ──
- 「災害のような嫌なことに対して
準備するのは腰が重い」という方も多いですが、
「旅行や出張の準備にもなる」と思うと、
前向きな気持ちで用意できそうです。
- 友利
- 備蓄品を事前に試しておくのは、
非常時の安心にもつながりますね。
備蓄用の食品についても、
賞味期限もありますし、いざ災害時に食べてみて
おいしくなかったら、気分が下がってしまいます。
だから、日常的に食べるもののうちいくつかを、
災害用に少し多めに置いておくイメージです。 - それから、被災したときに手をきれいに保てるか、
拭くものがあるかわからないので、
コットンも用意しています。
大変な状況のときこそ気分を上げたいと思って、
クレ・ド・ポーさんの、
ちょっと高級なものにしました。
けっこうお高いので、これは、
ふだんはあまり使わないんですけど‥‥。 - あとは、歯磨き用のシートも入れています。
水がなくても、手で歯を磨けるシートがあるんです。
- ──
- へえー!
- 友利
- 水が使えなくてうがいができない状況でも、
口腔内をきれいにしておかないと、
感染症のリスクも高まります。
手磨きのシートは持っておくことをおすすめします。 - そして、日ごろ飲んでいるお薬のストックは、
必ず置いてあります。
東日本大震災のとき、
ボランティアで行った病院で
「糖尿病や高血圧のお薬がなくなってしまった」
と来院なさった患者さんが多かったんです。
薬の効果が切れてしまうと、病気によっては
倒れてしまうこともあります。
持病の薬は、1ヶ月分くらい
多めに処方してもらったほうがいいと
感じた経験でした。
私自身は持病はないのですが、
たとえば頭痛薬のような、
「なくても命にはかかわらないけれども、
あると助かる薬」を備えておくと、安心です。
災害時はふだん以上にストレスを感じたり、
運動量や食事量、水分量が減ったりしてしまうので、
便秘薬などもあるといいですね。
- ──
- 友利さんのYouTubeでは、
サプリメントや青汁もご紹介なさっていました。
ビタミンや野菜の栄養素を
意識なさっているのでしょうか。
- 友利
- はい。ビタミンや整腸剤、
それから、子どもが食べられる
グミのような栄養補助食品を用意しています。
コラーゲンのゼリーなども、常温で保存できるので、
置いておくようにしています。
- ──
- そういったものがあると、
災害時にも、きちんと自分の体調をケアしている
実感が得られそうです。
- 友利
- あとは、生理中にナプキンをつけずに履ける
吸水ショーツというものが、最近普及していて。
便利なだけでなく、
ボクサーパンツのような見た目なので、
女性ものの下着らしくないんです。
女性の下着を干していると
犯罪の被害に遭うことも多いので、
その対策にもなるかなと思って、
防災バッグに加えました。
- ──
- 「災害時、絶対マストなもの」
として紹介されることは少ないけれど、
最低限の生命活動だけでなく、
健康や安全、気持ちを保ちながら生活を続けるために
不可欠なものは、たくさんあるんですね。
- 友利
- 避難所では気が張っていてあまり落ち込まなくても、
ある程度状況が落ち着いたあとに、
もとの日常には戻れないと実感してしまって、
メンタルの不調が起こる場合もあります。
私は「自分が被災したあとの生活で落ち込むのは、
どんなことだろう」と考えたら、
いま当たり前のようにしているスキンケアや
メイクができなくなることだろうな、と思って。
だから、基本的な防災グッズ以外に、
プラスアルファのものを準備するようになりました。
- ──
- たしかに災害時は、
「『命があるだけでありがたい』と
思わなきゃいけない」
と考えてしまいがちです。
どうしても家族などを優先してしまい、
自分のことに手が回らないというお話も、
被災された方からよくうかがいます。
自分をケアするときに、
後ろめたい気持ちがあると。
- 友利
- そうなんです。
もちろん、災害時に備えて
子どもたちの使うものは準備しています。
でも、それだけでなく、
自分のものも用意しておいたほうが、
私はメンタルを保てるように思います。
- ──
- ご家族がいらっしゃると、
防災グッズも多くなりそうですが、
災害時に使うものは、ご自宅ではどのようなところに
置いているのでしょうか。
- 友利
- 私の場合は、自分のものは
洗面所の棚にストックしています。
備蓄の食料品は台所に、
子どもの服などはリュックにまとめて、
子ども部屋に置いています。
それから、プレゼントなどで
アロマキャンドルをいただくことがあって。
もったいなくてなかなか使えないので、
インテリアとして飾っているのですが、
以前、停電したときに
そのキャンドルをつけてみたんです。
そうしたら、子どもたちも大喜びで、
香りもよくて、停電中も明るく過ごせました。
なので、ふだんはインテリア、
非常時には実用するものとして、キャンドルを
家のいろんなところに配置しています。 - あとは、トイレですね。
簡易トイレをつくるメーカーの方に
「簡易トイレは、
意外と使い方がわからない人が多いから、
平常時に一度試すといい」と聞いたんです。
メーカーによって、簡易トイレに入っている
ポリマーの固まり方が違ったりして、
使ってみないとわからないことが多いと。
それ以降、災害用の簡易トイレは、
トイレの棚に常備しています。
子どもたちに「我慢して」とは言えないので、
トイレが使えないのはいちばん怖いです。
- ──
- 私たちも、このあいだ
簡易トイレを何種類か試しました。
やっぱり「使わないとわからない」とお聞きして。
- 友利
- そうそう!
とくに子どもは、簡単に使えるとは限らないので、
よりしっかりと選ぶ必要がありそうです。
どれが自分に合っているのか知るだけでなく、
使用期限が切れていないか確認する意味でも、
習慣的に使ってみるのが大事だなと思います。
- ──
- ふだんから、防災バッグの中身を
定期的にチェックしておられるのでしょうか。
- 友利
- 季節によって、災害時に
必要なものは変わってくるので、
なるべく、春夏と秋冬で
中身を変えようと思っています。
「あれがあったらよかった」というものが、
被災してから初めてわかるかもしれないので、
できるだけ、日常のなかで想像して、
備えるようにしています。
「私、こんなにいつもYouTubeで
『日焼け止めを塗りましょう』
と呼びかけているのに、
自分の防災バッグに入れていなかった‥‥」などと
気づくこともあって。 - それに、化粧品って、
ついいろいろほしくなっちゃいません?
「これ、備蓄品として買っておこう」ということが、
買う理由になるので、
自分のお買いもの欲に言い訳ができるんです(笑)。
- ──
- あはは、たしかに!
「ちょっと買いすぎちゃったかもしれないけど、
防災グッズになるし」って。
どのみち防災グッズを揃えるなら、
たのしめるに越したことはないですね。
- 友利
- うん、そう思います。
「ちょっときょう、ごはんつくる体力がないな」
というときに、
備蓄品として多めに置いておいた食品を
「みんなで食べてみようよ」と出してみたりして
日常になじませると、子どもたちも慣れてくれます。
- ──
- 「ふだんの生活のなかで、
災害時の想像をする」ということに
慣れていない人も多い気がしています。
友利さんは、きょう教えてくださったような
「いざというときに必要なもの」を
こんなにも具体的に想像できるのは、
どうしてなのでしょうか。
- 友利
- うーん‥‥
私自身が寒がりだったり、
おなかがすくと気力がわかなかったりと、
「元気に、快適に動ける幅」が
狭いからかもしれないです。
だから、災害が起こったときしっかり動けるように、
自分にとって必要なものをふだんから考えます。 - 「親」という職業をしていると、
この考え方に慣れている方は多いと思います。
子どもたちも「快適の幅」が狭いから、
暑かったらすぐ「暑い」と言うし、
疲れたら「疲れた」と言います。
子どものことをいちばんにケアできるのは、
「言ってくれるから」だと思うんです。
だけど「自分がなにを感じているか」って、
考える機会があまりなくて、
ケアも後回しになりがちです。
一度、「自分が一番つらいことってなんだろう」
「まわりの人に迷惑をかけないためにも、
自分が元気で機嫌よくいるためには
なにが必要なんだろう」
と考えてみると、
自分にとっての「災害時に必要なもの」が
見えてくるかもしれません。
- ──
- なるほど。
最初のお話にあったように、災害時、
健康や美容に関することを口にすると、
「そんなことを気にしてるなんて」
と言われる不安があります。
でも、災害が起こった直後だけでなく、
「さらにその先を生きていく」ことを考えて、
健康や美容、自分の気分を保つもの、
テンションを上げるものを準備しておくのは、
なにより現実的で、たくましい対策ですね。 - きょうのお話のおかげで、
防災バッグの可能性がさらに広がりそうです。
友利さん、ありがとうございました!
(おわります)
2025-09-01-MON