暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 「やってみたい」を原動力に。 プオルッカミル 折小野美貴子さん

 
京都府、大山崎町。
大阪と京都の境目、天王山のふもとの
静かな町の住宅地に
かわいらしい看板を掲げたお店があります。

 
Puolukka Mill(プオルッカミル)は、
2016年にオープンしたセレクトショップ。
編みもの教室「プオルッカさんの編み物教室」も同じ場所で営まれています。
今回の主役、折小野美貴子さんは
店主として、講師として、
ここで日々ニットにふれながら過ごしています。

 
「プオルッカミル」は2階建てで
1階にはお洋服に小物、コーヒー、お花など、
魅力的なセレクトアイテムが所狭しと並びます。
2階は毛糸と編みもの道具、そして編みもの教室のスペース。
毛糸は手に取りやすい国産の糸から、
折小野さんが愛する海外の糸まで、豊かに取り揃えています。
道具類も、お話に登場する「COCOKNITS」をはじめ、
折小野さん自身が使ってよかったものが並んでいます。
 
仕事でもプライベートでも
編みものを楽しむ折小野さんですが、
教室でつくる作品と、
自分自身で編む作品は、
すこしテイストが違うそう。

 
「仕事として、
教室の生徒さんやキット向け作品を考えるときは
できるだけシンプルな編み方で、
かわいく出来上がるものを。
そして、ちょっとずつ学びがあるように、
基礎やあたらしい技法を取り入れながら
デザインします。」

 
近々行われる展示にむけて、
生徒さんと編んでいるのが
手のひらサイズのくつしたです。
 
「ちっちゃいけれども、
くつしたを編むために必要な技法が詰まっています。
かかとも引き返し編みなんですよ。
いい機会なので、あわよくばこの難しい技法を
ここでマスターしてほしいなと願っています」

 
一方で、ご自身のために編む作品は
「やってみたい」という気持ちが
原動力になることが多いそう。

 
「この毛糸を使ってみたい、
 こんな編み方見たことない、とか、
 まだ経験したことのないものに惹かれます。
 伝統的なニットがすごく好きなので、
 技法など、ぜんぶ知りたくなってしまいます」。

『世界の伝統ニット①アイスランド ロピ セーター』日本ヴォーグ社 『世界の伝統ニット①アイスランド ロピ セーター』日本ヴォーグ社

 
アイスランドの伝統ニット、ロピカーディガンは
アクセントになっている、
きれいなミントグリーンの糸を
使いたくて編み始めた一着。
コートのような暖かさなので
寒い時期によく羽織っているという、
折小野さんの冬のユニフォームみたいなニットです。
 
「海外の糸の、
ざらっと獣感ある肌触りも大好きです。
ロピの糸は、空気をたくさん含んでいるので
厚みがあるわりに軽いんです」

 
「これは、ラトビアの毛糸を使ったミトンです。
中田早苗さんの本に載っている作品なのですが、
ふりふりした裾が楽しいですよね。
この裾をやってみたくて、編み始めました。
現地では、こういった手袋は花嫁道具として
結婚する時に持っていくそうです」。
 
日々、世界のさまざまなニットに触れ、
ぐんぐん吸収し続けている折小野さん。
オリジナルのデザインについては、
こんな思いが込められています。

 
「いままで見てきたものから
ヒントをもらうことが多いです。
映画や絵画鑑賞が好きなので、その衣装や色合いとか。
あとは自然のなかで過ごすのも好きで、このセーターは
そこからアイディアがふくらんでいきました。」

 
「このセーターは、
春に開催したグループ展のために編んだ作品です。
模様はスウェーデンのシンプルな伝統柄ですが、
なんだかテントが並んでいるように見えてきまして。
そしたら明かりが入ってるテントもあったらいいなあ、と
黄色をぽつぽつ差し色に入れてみました。
展示のテーマは『ウェア』だったのですが
私は手袋が大好きなので、どうしても編みたくて
くっつけて編んでしまいました。
着ると、指先がまったく使えなくなるので
デジタルデトックスしたいときにおすすめです(笑)」

 
愛用の道具を見せていただくと
ここにも折小野さんの
カルチャー愛が、顔をのぞかせました。
 
「糸切りバサミのカバーは、
うちのお店でもお取り扱いのある作家さんが
作ってくれたものです。
『ウエスト・サイド・ストーリー』が好きだと話したら
いちばん素晴らしいダンスシーンを
とくべつに刺繍してくれました」

 
ほかにも、お道具箱には
便利さと見た目の素敵さが
同居したグッズが詰まっています。
 
「いろんな道具を使ってるので、ごちゃまぜですが‥‥。
ハサミは京都の菊一文字のものです。
アメリカのCOCOKNITSは、お店でも扱っていますが
『なんだこれは!』というくらいかわいくて、
かつ使いやすくて。」

 
旅行中も編める、ということをコンセプトにしていて
多くのアイテムは、磁石でくっつくようにできています。
とじ針もマーカーもカウンターも、
このスマートウォッチみたいな台座につけておけるんです。」

 
「やっぱり道具はスムーズに編めることが大事ですよね。
さらにかわいかったら、最高!」

 
見せていただく作品にも道具にも、
ご自身の「好き」が散りばめられている折小野さん。
それぞれに込められた思いを、やわらかな口調で
きらきらと楽しそうに話してくださいました。

(次回は編みもの遍歴、
そして編みものを学ぶために訪れた
スウェーデンで得たものについてご紹介します)

写真・川村恵理

2022-12-21-WED

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