暮らしの中の小休止のように、
夢中になって没入できる編みものの時間。
ぎゅっと集中して、気がつけば
手の中にうつくしい作品のかけらが
生まれていることを発見すると、
満たされた気持ちになります。
編む理由も、編みたいものも、
編む場所も、人それぞれ。
編むことに夢中になった人たちの、
愛おしい時間とその暮らしぶりをお届けします。

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前編 一度好きになると、のめり込んでしまう。  横田株式会社デザイナー・牧野貴子さん

 
「DARUMAの糸」でおなじみの、横田株式会社。
1901年に創業、品質・カラー・素材など
使いやすい一流の手縫い糸を作り、
ほかにも布、裁縫道具などオリジナルの
手芸用品を販売している大阪の会社です。
横田の企画課で、グラフィックデザイナーとして
15年以上働いている牧野貴子さん。

 
デザイナーといえども仕事の幅は広く、
シーズンごとの新しい商品の企画、色、パッケージ、
メインビジュアルからサイトやSNS、本に至るまで、
DARUMAの世界観を作り上げている重要人物。
その、やわらかく、すっきりとした品のある雰囲気は、
牧野さんご自身からも感じられます。

 
そんな雰囲気ですが、実は編みものに対しては
ストイックなスタイル。
土日休みは一日中家にこもり、
電子レンジを待っている数十秒の合間も編むほど
「編みものに夢中なんです」と話してくれた。

 
「今は編むことが、楽しくて仕方なくて。
初めて編みものをしたのは中学生のとき、
『non・no』という雑誌に掲載されていた
「一目ゴム編みのマフラーを編もう」という
特集で、マフラーを編みました。
おもしろかったのですが
どちらかと言えば興味は手芸の方に向いてしまい、
シャツやワンピースばかり作っていました」

 
「自分にとって身近なプロダクトをデザインしたい」
という思いから、横田さんに入られます。
「入社して、編みものを勉強するようになりました。
どういうプロダクトにどんな色が合うんだろうとか、
どんな糸でどんな作品が作れるんだろうとか。
次第に、編みもののおもしろさに引き込まれていきました。

 
料理も好きなのですが、
化粧水だったりちょっとした小物だったり、
基本的に自分で作ることが好きなんだと思います。
好きなものが明確にあるので、
ブラウスがほしいと思ったら
「こういうデザインで、色と襟ぐりはこんな感じで…」
と想像したことが形になるのって、とっても楽しくて」

 
月に1つはカーディガンやセーターといった大物を、
合間に靴下や手袋など小物を編んでいる牧野さん。
編んだ作品が並ぶと、
牧野さんの“好き”が浮かび上がってきます。

 
「今回の撮影のために集めてみたら、
ベージュやグレー、黄色ばかりで驚きました(笑)。
ベーシックカラーで、
ケーブルや模様が入っているものが好きなんです。
糸はすべて、横田のもの。
作品に合わせて糸の種類を選んでいます。
人にあげてしまうこともありますが、
“着たいな!”と心が動いて編むことがほとんどなので、
編んだら目一杯着ます。
お気に入りのスズランの靴下は5足近く編みました。
ほつれてしまったらダーニング(刺繍糸で穴を塞ぐこと)
をすることもよくあります」

 
羽織っているコートがわりのニットベストや、
ワンピースに重ねたニットパンツも
牧野さんが編んだもの。

 
「ニットベストは
自社のオンラインストアのニットキットから、
ニットパンツは年に一度発行している
DARUMA PATTERN BOOKで、
ニット作家さんと一緒に作ったパターン。
かわいいなと思って、一生懸命編みました。
ワンピースはatelier naruseのもの。
一度好きになるとのめり込むタイプのようで、
ほぼ毎日このブランドの服を着ているくらい
お気に入りです。
着ていて安心するし、やさしい感じがします」
どれも好きなものとのテイストがぴったり。
探究熱心で、軽やかに編みものライフを
楽しみながら、そのどれもを、
大切そうに着ている姿も印象的です。

(次回は牧野さんの気になる編む人たちのこと。)

写真・川村恵理

2022-02-17-THU

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