
俳優の坂口涼太郎さんが、初めてのエッセイ
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』を刊行されました。
軽やかに真剣に綴られたエッセイの根底には、
坂口さんが尊敬する、みうらじゅんさんの
「あきらめること」についての教えがありました。
久しぶりにお顔を合わせた坂口さんとみうらさんの
「あきらめ活動」対談は、ツッコミ不在、脱力必至。
そしてふしぎな説得力に満ちていました。
読めば、全肯定できない「自分」も、
キラキララメラメと輝いて見えてくるはずです。
みうらじゅん
1958年、京都府生まれ。イラストレーターなど。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど、多方面で活躍。
1997年には「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2018年、仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
著書に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』
『「ない仕事」の作り方』
『アウト老のすすめ』など多数。
坂口涼太郎(さかぐち・りょうたろう)
1990年、兵庫県生まれ。俳優。
趣味は読書、映画演劇アート鑑賞、旅、短歌。
特技はピアノ弾き語り、ダンス、英語、
アルトサックス、パーカッション。
おもな出演作に、ドラマ 朝の連続テレビ小説
「なつぞら」「エール」「おちょやん」(NHK)、
「ビリオン×スクール」、「愛の、がっこう。」(フジテレビ)、
映画「ちはやふる」シリーズ、
「SUNNY 強い気持ち・強い愛」、「アンダーニンジャ」
舞台「ヴェローナの二紳士」、「モダンボーイズ」、
木ノ下歌舞伎「勧進帳」「三番叟」「三人吉三」など。
2025年、エッセイ
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』を発売。
衣装協力:HYUGA
スタイリスト:takashi sekiya
- みうら
- きょう坂口さんに見せたいものがあって、
(マネージャーさんを向いて)
すいません、ちょっとぼくのかばんを
持ってきてもらえますか。
- 坂口
- あ、みうらさんのお好きなカルピスのバッグ。
- みうら
- カルピスブームだったもんで(笑)。
ぼくは以前、街の看板の文字から「般若心経」の文字を
すべて集める「アウトドア般若心経」っていうのを
やっていたんですが、坂口さんがお好きな
あきらめるの”諦”の漢字が、意外に看板になかったんですよね。
難しそうな「羯」などの字より
なかなか見つからなかったんです。
- 坂口
- たしかに、ありそうであまり見ないです。
- みうら
- 看板って、だいたいは宣伝ですから、
世間的にはマイナスのイメージがある「諦」を
使わないんでしょう。
「アウトドア般若心経」は、
のちに本にしようと思ってましたので、
マイ締め切りがあったんですよ。
「諦」が見つからなくて大変、困ってました。
しかも、般若心経のなかには4つも出てくるわけで。
それで結局、「帝」でズルしてるんです。
- 坂口
- えっ、そうだったんですか。
- みうら
- まわりの誰も気がつかなかったのは、そのことに
誰も興味がないからだと思います(笑)。
- 坂口
- わっ、悔しい。私、気づきたかったです。
- みうら
- でも、ぼくはそのことがずっと後ろメタファーでね。
だから、本が出たあと、
2周目の「アウトドア般若心経」をやってるんですよ。
今回はマイ締め切りもないもので、
焦って見つけなくていい。
「そのうち見つかるかな」
と思っていたところ、ありました!
「諦」の字。
- 坂口
- えっ、どちらに?
- みうら
- ほら、これ。
- 坂口
- あっ! 「結婚式をプロデュース」の看板に。
- みうら
- そう。
「あなた、結婚を諦めてませんか」
っていう問いかけがあったんですよ。
- 坂口
- 「あきらめる」の逆なら、看板にあったんですね。
「あなたあきらめてませんか」、ドーン、
みたいな。
- みうら
- 『笑ゥせぇるすまん』ふうに(笑)。
- 坂口
- ドーンあきらめ。
- みうら
- あきらめの文字が、
ブライダルショップにドーンと。
それから次々と見つかるようになったんです。
- 坂口
- あんなに見つからなかった「諦」の字が、
急に見つかり出したんですね。
- みうら
- それはやっぱり、
ぼくが「無欲」になったからだと思うんです。
- 坂口
- 「字を見つけたい、探さなきゃ」という欲が。
- みうら
- 無欲になると、字のほうから
スッと来てくれるんだと思いました。
- 坂口
- すばらしいー。
やはり、なにごとも「あきらめ」ですね。
私が「あきらめ」のすごさを知ったのは、
さきほどお話ししたとおり、
みうらさんの『さよなら私』がきっかけでした。
- みうら
- ビックリするほど薄い本でしたけどね。
いやぁ、坂口さんのエッセイ本はこんなに厚くて、
立派なのに(笑)。
- 坂口
- いやいや、この厚みが、
まだ私には煩悩があることの現れだと思ってます。
煩悩の厚みです。
- みうら
- これだけ書き溜めるのは、大変なことです。
何年ぶんのエッセイですか。
- 坂口
- 2年間、途中からは週刊連載で書き続けたものです。
私、このエッセイで初めて
「文章を書く」という行為に向き合ったんですけど、
書きたいことが多すぎて、
5時間で5千字くらい書いちゃったんです。
編集の方に「1回で載せきれないです」と言われて、
前後編にして出していただいたりしました。
- みうら
- いいなぁ。ぼく、
半日かけてもなんにも書けなかったこと、
何度もありますから(笑)。
- 坂口
- それは、私もありますよ!
毎週の「締め切りさん」に
どつかれていたおかげで、書けたんです。
- みうら
- やっぱり、締め切りは大切です。
- 坂口
- 締め切りさんに「おまえいつ出すんだ」って
どつかれるたびに、もう泣きながら
ロイヤルホストに逃げ込んで、
ドリンクバーを頼んで一所懸命書いて。
- みうら
- でも、「締め切り」の「締」っていう字、
「諦」と違って、やたら怖くないですか?
- 坂口
- 「締」怖いです。
- みうら
- 締めていいのは、サバくらいでしょ(笑)。
ぼくらが締められてどうするのって話ですよね。
- 坂口
- しかも、「切る」ですからね。
恐ろしいです。
- みうら
- でもね、その締め切りをがんばって守ったからこそ、
ぼくはいままでに180冊ぐらいの本を出してもらえたんです。
そのほとんどの本は、
締めた上に切られちゃってると思うんですけど。
- 坂口
- え、どういうことですか。
- みうら
- 本って、断裁ってやつがあるんですよ。
- 坂口
- 断裁?
- みうら
- 出版社さんが
「もうこの本は売れないな」と決めるとね、
在庫処分するんですよ。
もういっぺんもとのパルプに戻すというか。
それが断裁というやつです。
- 坂口
- ‥‥マジですか。
- みうら
- だから、断裁を受けたぼくの本は、たぶん
東野圭吾さんの新刊になったりしてることも
あるんじゃないかと思ってます(笑)。
- 坂口
- 断裁は悲しいですけど、
東野圭吾さんの本になれるのは光栄ですね。
- みうら
- 少しでもお役に立てると(笑)。
でも、やっぱり断裁は悲しいものです。
断裁されないようなおもしろい本を書かなくちゃと
思うわけです。
(明日に続きます)
2026-02-11-WED
-
独自の魅力で俳優として人気と信頼を集める、
坂口涼太郎さんが初エッセイを刊行なさいました。
坂口さんがそのときどきに考えていたことが、
豊かなエンタメ精神とともに、
素直に綴られています。
笑いながら読み進めるうちに、
不安がひとつふたつと減り、
なんだかよくわからないけど
キラキラしたものに変わっている。
そんなエッセイで、読み終えたとき
「きょうはこの本を読めたからいい日だったな」
としみじみ感じました。
友だちといい話ができたあとのような
幸せな読後感、味わってみてください。

