1945年5月24日、城南空襲。
東京の品川区や大田区、
目黒区などに対する大規模な空襲です。
同年3月10日の東京大空襲より
たくさんのB-29が飛来したとされる
この空襲について、
体験者の毒蝮三太夫さんに聞きました。
若い世代へ向けて戦争を語り続ける、
御年89歳のマムシさん。
当然、重たい話も多かったんですけど、
聞く側の緊張がやわらぐような、
おだやかな取材の場になったのは、
ひとえに、そのお人柄のなせるわざ。
大切なお話を、うかがいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
毒蝮三太夫（どくまむし・さんだゆう）
本名：石井伊吉（いしいいよし）。1936年大阪で生まれ、生後すぐに東京に転居。12歳のときに舞台「鐘の鳴る丘」で子役デビュー。1966年、1967年『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の隊員役で人気を博す。1968年「笑点」出演中に立川談志の助言で本名から改名。1969年スタートのTBSラジオ「ミュージックプレゼント」は56年目、現在も生放送中。聖徳大学客員教授。
ホームページ「まむちゃんの部屋」
YouTube「マムちゃんねる」
著作『70歳からの人生相談』（文春新書）『ババア川柳』『ジジイ川柳』（河出書房新社）ほか多数
- 毒蝮
- あなたはいま、いくつ？
- ──
- 1976年生まれで、今年49になります。
- 毒蝮
- 戦争に興味があるの？
- ──
- 学生のころにヴェトナム戦争のことを
研究していたことと、
祖父が海軍でラバウル方面に行ってたり、
戦艦武蔵に乗ったりしていたんです。 - 無事に帰ってはきたんですけど、
やっぱり、
戦争のことは詳しく話してくれなくて。
- 毒蝮
- そうか。おじいさんっていくつ？
- ──
- もう亡くなっていますけど、
生きていれば100歳くらいだと思います。 - 祖父から聞いてうっすら覚えているのは、
塹壕か何かに隠れていたら、
上官だか先輩だかにどけって言われて、
しぶしぶその場を譲ったら、
そこへ爆弾が落ちてきて
九死に一生を得た話とか、
太腿を銃弾が貫通した話とかくらいで。
- 毒蝮
- 戦争を知らない時代に生まれた世代に
戦争への関心を持ってもらうことが、
俺は、すごく大事なことだと思ってる。 - でないと、伝わっていかないからね。
ただ20年くらい前までは、
俺も、あんまり戦争の話はしなかった。
- ──
- やっぱり、語りたくなかったですか。
- 毒蝮
- うん。でも、いま、まわりを見渡すと
しゃべれる人がほとんどいない。
同級生は、だいたいもうダメ。
生きてたって、
うまくしゃべれなくなった人もいるし。 - だから俺も、自分の経験したことを
こうしてしゃべれるうちにしゃべって、
あとに続く人に伝えていきたいんだ。
- ──
- 大学でも教えてらっしゃいますよね。
- 毒蝮
- たぶん、いまの若い学生さんたちには、
80年前の話なんか、
もう江戸時代くらいに聞こえるんだよ。 - なかには「日本って戦争に負けたの？」
なんて言う子もいるくらい。
どんだけ伝わってないか。
これはね、
いかに俺たち経験者がサボってたかって、
そういうことだと思う。
- ──
- いえ、そんなことはないと思うんですが、
でも、それまでは
積極的には語らなかったマムシさんが、
戦争の話をしはじめたのは、
やっぱり若者との交流がきっかけですか。
- 毒蝮
- 大学で介護の話をしてくれって言われて。
介護保険がはじまったばかりのころ。
女子大だから受けたんだよ。
男ばっかりだったら絶対に断ったけど。
- ──
- はい（笑）。
- 毒蝮
- その子たちは将来、介護士になるわけだ。
つまり
俺くらいの年寄りを世話することになる。
だったら、俺の生まれた時代のことを
知ってたほうが何かといいだろ。
俺としても、知ってほしかったしね。
だから講義５回のうち１回は、
戦争の話をするようにしているんだよね。
- ──
- なるほど。
- 毒蝮
- 老人ホームやなんかへ行ったときとかに
「戦争の時代は大変でしたね」って、
話の接ぎ穂として持ってなさいよってさ。 - そういう意味でもね。
- ──
- いまも続けてらっしゃるんですか？
- 毒蝮
- うん。はじめた当時の学生たちはみんな、
おじいちゃんにも、
こんな話は聞いたことないって言ってた。 - だからいまの学生なんか、なおさらだよ。
空襲で逃げ回った話とか、
兄貴が戦争から帰って来たときに
俺たち家族がどれだけよろこんだかとか、
さっきの靴を拾った話だとか、
あとでレポートを読むと「驚いた」って。
- ──
- そうでしょうね‥‥。
- 毒蝮
- それで、
ああ、こういう話をし続けていくことが
大事なんだなと思ったんだ。 - それから、テレビとかラジオとか、
チャンスがあったら、話すようになった。
- ──
- マムシさんが話してくれるっていうのも、
やっぱり大きい気がします。 - 何といいますか、キャラクター的にも。
- 毒蝮
- まあ、あのころは毎日が大変だったとか、
生きるのが苦しかったとか、
涙なくして聞けないなんて話ばかりじゃ、
若いもんは嫌がるよ。そりゃあそうだよ。 - リアリティは大事だけど、
リアルすぎると聴いていられないでしょ。
かといって、ふざけてもいけない。
リアリティは持たせつつ、
聞いてもらえるように
うまいこと伝えることが大事なんだよな。
- ──
- そこはマムシさんの話術でしょうし、
ジジイババア言っても怒られない、
マムシさんのキャラクターもあるし。
- 毒蝮
- 人生89年の知恵と経験だよ。
あと、この美貌な。
- ──
- 美貌、重要ですね（笑）。
- 毒蝮
- そう。チャーミングさっていうのかな。
- だっていずれ介護される立場になるなら、
「あの人、お風呂に入れてあげたいな」
とか
「一緒に買いものに行ってあげたいな」
って思われる、
かまわれるジジイババアにならなきゃね。
- ──
- あ、なるほど。そういう意味でも。
- 毒蝮
- 戦争のことを伝えることは当然大事だよ。
だからいまもやってる。 - でも、俺たちの時代は辛かったよだとか
そんなことばっかり言ってたら、
そのうち誰も話を聞いちゃくれなくなる。
- ──
- チャーミングな
おじいちゃんとかおばあちゃんになって、
若い世代にかまわれながら、
戦争のことや生命のかけがえのなさとか
大切なことを伝えていく作戦ですか。
- 毒蝮
- そのためには、頭もしっかりしてないと。
- いま俺がよく言ってるのは、
認知症にならない、
あるいは
その症状を遅らせるために大事なことに
「３つのベル」があるよと。
- ──
- ベル？
- 毒蝮
- つまり「しゃべる、食べる、調べる」だ。
- ──
- なるほど～！
- 毒蝮
- まず「しゃべる」ってのは、わかるよな。
人と会って話すこと。 - それも、おたがい顔と顔を突き合わせて、
ちゃんとしゃべる。
たまにパソコン越しに話したりするけど、
あれじゃ伝わるもんも伝わらない。
- ──
- ご経験からですね。なるほど。
- 毒蝮
- 次の「食べる」は、口から食べること。
点滴とかなんとかじゃなく、
口から食べなきゃ立ち上がれないよね。 - そして、最後に「調べる」。
昔は広辞苑とかで調べたんだろうけど、
今はスマホがあるんだから簡単だろ。
とにかく、
わかんなかったら調べる習慣を持てと。
- ──
- その「３ベル」が秘訣ってことですね。
- マムシさんには、
いまのようにチャーミングなまんまで、
これからも
戦争のお話を伝えていってほしいです。
- 毒蝮
- とにかくさ、はじめるのは簡単だけど、
やめるのが難しいもんなんだよ、
戦争っていうのは。
戦争のころの政府を見てればわかるよ。 - いまは、ロシアとウクライナが、
そのことを実感してるんじゃないかな。
- ──
- そうかもしれません。
- 毒蝮
- だから、「はじめちゃいけない」んだ。
戦争っていうのは、何よりも。
そのためにも、
若い人たちに話を聞いてもらえるような
ジジイとババアを増やしていくことが、
いまの俺の使命だと思ってやってるよ。 - 俺も、そういうジジイになりたいしね。
（おわります）
2025-07-14-MON
-
ヴェトナム戦争／太平洋戦争にまつわる
読者のみなさんからのお便りを募集いたします。ご自身の戦争体験はもちろん、
おじいちゃんやおばあちゃんなどご家族や
ご友人・知人の方、
地域のご老人などから聞いた戦争のエピソード、
感銘を受けた戦争映画や小説についてなど、
テーマや話題は何でもけっこうです。
いただいたお便りにはかならず目を通し、
その中から、
「50/80 ヴェトナム戦争と太平洋戦争の記憶」
の特集のなかで、
少しずつ紹介させていただこうと思います。
-
撮影：福冨ちはる
