ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第5回 ローツェ、マカルー、 カンチェンジュンガ。

──
では、世界で3番目に高い山、
カンチェンジュンガをお願いします。

KANGCHENJUNGA ©Naoki Ishikawa KANGCHENJUNGA ©Naoki Ishikawa

石川
ネパールとインドの国境にある山で
8000メートル峰の中では、
いちばん東側にあって、遠いんです。
──
なるほど。手元の資料によると、
標高は8586メートル。で、遠い。
石川
山頂付近が、ノコギリの刃みたいに
ギザギザに連なってるので、
どれが本当の山頂かわかりにくい。
ベースキャンプも
標高5500メートルくらいで高いし、
日当たりも悪くて、
まあ、いろんな意味で大変な山です。
──
で‥‥山頂を間違っちゃった。
石川
はい。間違った。
──
8000メートル峰の14座というのは
ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に
集まってるわけですけど、
ひとつの山に登ったら、
あとの13座を一望できたりとかって。
石川
あ、それは無理ですね。
ネパールと中国の国境沿いにある山と、
パキスタンにある山では、
距離的にめちゃくちゃ離れてますから。
ネパールと中国の国境にある山なら、
晴れてたら、けっこう見渡せますけど。
で、4番目はローツェ。
──
はい。石川さん、初期に登ってますね。
標高は8516メートル。

LHOTSE ©Naoki Ishikawa LHOTSE ©Naoki Ishikawa

石川
エベレストのすぐ手前にあって、
エベレストと双子みたいな山なんです。
最後のキャンプまでは
エベレストと同じルートを使いました。
で、最後に、枝分かれする。
──
へえ、こっちへ行ったらローツェです、
こっちへ行ったらエベレストです、と。
石川
そう。漫画の『岳』では、
ローツェ南壁を登るのが、
最大の目標になってましたね。
ぼくが登ったふつうのルートとは
比べものにならないくらい難しい壁で。
エベレストとローツェの稜線の縦走なんかは、
まだ誰もやった人がいないんです。
いったん8000メートル前後の
サウスコルっていう平坦なとこに下ってから
連続で登る人は結構いるんですが。
──
縦走ということはつまり、
エベレストとローツェは繋がっていると。
石川
5番目、マカルー。
──
8485メートル。
とりわけトンガってる山でしたっけ。

MAKALU ©Naoki Ishikawa MAKALU ©Naoki Ishikawa

石川
そうですね。
鉛筆の先みたいな山頂を持つ山です。
最後はもう、ツッルツルの芯の先に
座る感じでしか立てない、みたいな。
狭いので、ひとり立ったらいっぱい。
交替で登って写真を撮る感じ。
このへんから
正確な順位がわかんなくなりますが、
順不同でいくと、マナスル。
──
はい、えー、マナスル。
資料によると、標高8163メートル。
世界第8位ですね。
さっきも話に出ましたが、
日本人の今西壽雄さんとシェルパの
ギャルツェン・ノルブさんが初登頂した。

MANASLU ©Naoki Ishikawa MANASLU ©Naoki Ishikawa

石川
そう。名前の由来は、
サンスクリット語の「Manasa」で、
「精霊の山」という意味。
はじめは「この山に登るな」って、
村の人たちから
石を投げつけられたりしたそうです。
──
神聖な山だから。
石川
村の人たちにわかってもらうまでに。
めっちゃ苦労したらしいです。
──
でも、そこまでして、登りたかった。
石川
14座の山のうちのひとつに
世界初登頂する、
そのことを、日本の登山家たちは、
大きな目標にしていたんでしょうね。
いまもシェルパなどから
「マナスルは日本人の山だよなあ」って
言われたりします。
次は‥‥じゃ、ガッシャブルムⅠ。
──
Ⅰということは、Ⅱもある?
石川
Ⅱもあります。
ともに8000メートルを超えています。
──
ええーと、ガッシャブルムⅠが
標高8080メートルで、世界11位。
ガッシャブルムⅡが、
標高8034メートルで、世界13位。

GASHERBRUM I ©Naoki Ishikawa GASHERBRUM I ©Naoki Ishikawa

石川
ⅠとⅡも対をなすような山で。
技術的に難しい部分は
そこまでないのですが、
Ⅱの最後で、
くの字に登ってかなきゃいけなくて。
あとⅠも最後がむちゃ長く‥‥。
そのへんが、ちょっと大変でした。
Ⅰは、2023年に登ったんですけど、
「頂上に着いたな」と思って
あたりを見回したら、
さらにでっかい壁みたいな斜面が
目の前に見えたんですよね。
──
また間違えそうに!(笑)

GASHERBRUM II ©Naoki Ishikawa GASHERBRUM II ©Naoki Ishikawa

石川
本当の頂上には登りましたが、
途中でギブアップするか、しないか‥‥
みたいな、
ギリギリのところで登った山ですね。
帰りは4日間、歩きづめで村まで帰って。
ちなみに、ガッシャブルムには
ⅢもⅣもVもⅥもあるんですよ。
──
なんと、6つ子さんだったんですか。
ガッシャブルムきょうだいだ。
ただ、ⅢもⅣもVもⅥも、
8000メートルには満たないんですね。
石川
はい、他は7000メートル台かな。
山野井(泰史)さんが登ったG4とか、
めっちゃ難しくて美しい山だけど。
──
さっき「Ⅰは、2023年に登った」と
おっしゃってましたが、
Ⅱを登ったのは、いつごろなんですか。
石川
2019年です。
二度目のK2に挑戦して失敗して、
そのまま帰るのが嫌だったんで、
近くに登れそうな山はないかなあって。
──
それで、ガッシャブルムⅡに。
石川
はじめて登頂できたパキスタンの山だったので、
思い出に残ってます。
Ⅱのほうが、比較的、登りやすいです。
Ⅰは人が少ないんですよ。
ジャパニーズ・クーロワールといって、
日本のクライマーが拓いたルートもあります。
ぼくらもそのルートを行ったんですが、
けっこう危なかったです。
──
石川さん、いつも飄々としていて
淡々と話してくださいますが、
実際には、
きっと危険な目に遭ってますよね。
石川
んー、まー、遭ってなくはないですよね。
毎回、大変です。で、ダウラギリ。
──
「で、」(笑)。はい、ダウラギリ。
標高は8167メートルで、世界第7位。

DHAULAGIRI ©Naoki Ishikawa DHAULAGIRI ©Naoki Ishikawa

石川
アンナプルナとダウラギリって、
大きな谷を挟んで、並んでいるんです。
その谷は「大地溝帯」と呼ばれている、
めっちゃ深い谷で、
ヒマラヤがどうやってできたか
その造山活動の痕跡が見てとれます。
──
へええ。
石川
世界ではじめて8000メートル峰に
登頂したフランス隊は、
当初、アンナプルナとダウラギリ、
どっちに登ろうかって
偵察を繰り返したんですよ。
結局、アンナプルナに登ったんですが、
もしかしたら、
「人類がはじめて登った8000メートルの山」
が、
ダウラギリになる可能性もありました。
──
たまたま、選ばれなかっただけで。
石川
ダウラギリに、もう10回以上とか
挑戦し続けている
スペイン人の80歳をこえた
おじいちゃん登山家がいて、
まだ、登れてなかったりするんですよ。
運を味方につけないと登れない山です。
──
それだけ、難しいと。
石川
難しい。でもぼくらはサクッと登れた。
幸運にも。

(つづきます)

2024-01-27-SAT

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  • インタビューでもたっぷりふれてますが、
    いま、石川さんは、
    世界で「14座」ある8000メートル峰
    すべてに登るという挑戦をしています。
    現時点では、
    あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
    14座達成、というところ。
    この展覧会では、
    これまでに、石川さんが撮影してきた
    14座の写真に加えて、
    「その山を初登頂した人の書いた本から、
    登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
    という、じつに興味深い内容です。
    その「本」自体も、展示されています。
    2024年2月18日までの開催ですが、
    展覧会って
    行こう行こうと思っているうちに
    知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
    ぜひ、おはやめに。
    詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。

  • 特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

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    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

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    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

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    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由

    014 ヤジマオサム/クルマ。

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