ポリネシアの海、
日本各地に伝わる来訪神、洞窟壁画‥‥。
10代のころより、幅広い興味関心から、
さまざまな世界を旅してきた
石川直樹さんが、
いま、この地球上に14座ある
8000メートル峰すべての登頂を目指し、
挑戦を続けています。
写真家が向き合っているもの、第15弾。
石川直樹、14座。
担当は「ほぼ日」奥野です。

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第1回 目の前で雪崩が起きた。

──
Instagramで拝見したんですが、
世界14座ある8000メートル峰のうちの、
最後の1座、
シシャパンマへ登っているときに、
目の前で大きな雪崩が起きた‥‥って。
石川
そうなんです。最後の14座目で。
──
世界でもわずかな人しか達成していない、
8000メートル峰、全14座登頂に向けて
ヒマラヤに
通い続けていることは知ってましたが‥‥。
まずは、ご無事でなによりでしたが、
そのとき何が起こったのか、
あらためてうかがってもいいでしょうか。
石川
ぼくは2023年夏の段階で、
14座のうちの12座まで登ってたんです。
残りあと2座、
チョ・オユーとシシャパンマに登頂できたら、
14座をすべて登り切るという状況でした。
──
いわゆる「14サミッター」目前。
石川
チョ・オユーには、
どうにかこうにか登れたんですけど、
最後のシシャパンマの頂上直下で、
雪崩が起きて‥‥。
ぼくらの目の前にいた2つの隊が
流されてしまった。
それで、ぼくらも撤退したんです。
──
雪崩に遭ってしまったのは、
ともに、アメリカの女性登山家の隊。
石川
ふたりはすでに13座を登頂していて、
ともに、
シシャパンマが最後の山でした。
つまりアメリカ人女性初の14座登頂、
というタイトルがかかっていた。
アンナとジーナっていう、
ふたりとも、ぼくの知り合いです。
彼女たちは、それぞれ
2人のシェルパと登っていました。
ジーナはテンジェン・ラマという
最強のシェルパを雇っていたんです。

──
両隊は「競っていた」という面も?
石川
はい。ジーナのほうは
すでに第二キャンプにいて、
ぼくたちはその後を追うかたちでした。
でも、第二キャンプで彼女たちが
休んでいるあいだに、
ぼくたちと
もうひとつの隊が先頭に立ちました。
その先は、雪が深かったので、
何人もの人が、
交替で道を拓いていきました。
そうしたら、頂上に近くなったところで、
ジーナたちが追い付いてきて。
──
雪崩が起きたとき、
アンナさんとジーナさんは、
別々のルートで
頂上をめざしていたんですよね。
で、最初にアンナさんが雪崩に遭い、
それを受けて
石川さんが撤退を決めたあとに、
ジーナさんが、
また別の雪崩に遭遇してしまったと。
石川
ジーナやラマは、
アンナたちを襲った1回目の雪崩に
気づいていなかったかもしれないと、
ぼくは思っています。
そのことも含めて、結果的に、
2回目の遭難につながってしまった。
──
でも、石川さんたちは、
1回目の雪崩が起きた時点で撤退を。
石川
目の前で
知り合いが滑落してしまったわけで。
それ以上進むわけにはいかなかった。
結果的に、
この二度の雪崩による遭難で
今季のシシャパンマは閉鎖しました。
──
先行していたふたつの隊はもちろん、
石川さんも「頂上」すなわち
14座達成はすぐそこ、だったのに。
石川
そうですね。時間にすれば、
あと30分か40分‥‥くらいで
頂上だったはず。
雪崩っていうと、
大きな斜面ごとドッカーンと流れて、
いろんなものが
巻き込まれていくようなイメージが
あると思うんですが、
今回、起こったふたつの雪崩は、
まるで狙いすましたかのように、
ふたつのチームのいる場所を
ピンポイントに流してしまいました。

──
そんなことがあるんですね‥‥。
ちなみに、このときの石川さんって、
直前のチョ・オユーから
シシャパンマの間は、帰国せず?
石川
うん、帰ってきてません。
それどころかほとんど連続で。
14座って、大まかにいうと
ネパールとパキスタンとチベットに
わかれているんです。
ネパールに7つ、パキスタンに5つ、
そしてチベットに2つ。
──
ええ。なるほど。
石川
チョ・オユーとシシャパンマって、
その2つのチベットの山なんです。
つまり、場所的に近かった。
──
いっぺんに登ってしまったほうが
楽‥‥というか、
2回行く必要ないのはわかるけど、
でも、身体的にはキツイですよね。
石川
まあ、そうなんですけど、
去年もぼく、
8000メートル以上の山に5つ、
登ってるんですよ。
──
そうですよね(笑)。
石川さんのInstagramを見ながら
「え、また!?」って。
石川
今年(2023年)も、
アンナプルナ、ナンガ・パルバット、
ガシャブルムⅠという
3つの8000メートル峰を
登ってからの、
チョ・オユー、シシャパンマでした。
体力的にキツくないんですかって
みんなに聞かれるけど、
何か、別にそんなこともないんです。
もちろん楽じゃないけど、
身体が「高所順応」しているうちに、
連続して登ったほうが、
ぼくは逆にやりやすいっていうか。
ひとつ登って、
じゃあ1年後にまた来ますとかだと、
高所順応を、
また0からやり直さなきゃいけない。
──
なるほど‥‥。
ちなみにチョ・オユーに登ってから、
シシャパンマに登るまで、
下で、どれくらい休んでるんですか。
石川
1日。
──
え(笑)、そんなもんなんですか。
休まなすぎじゃないですか、それ。
石川
もちろん1週間くらい休んでいけば、
完璧に戻りますけど、
1日2日でもまあまあ回復しますね。
──
ひゃー‥‥そういうものなんですか。
石川
まあ、たしかに
身体的にはボロボロに近かったんですが、
でも、行けると思ったんです。
実際に、頂上直下まで行けましたし。
──
そうですよね。
じゃあ、あの雪崩が起きなければ。
石川
登頂できたと思います。ぜんぜん。

(つづきます)

2024-01-23-TUE

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  • インタビューでもたっぷりふれてますが、
    いま、石川さんは、
    世界で「14座」ある8000メートル峰
    すべてに登るという挑戦をしています。
    現時点では、
    あと「シシャパンマ」に登頂できれば、
    14座達成、というところ。
    この展覧会では、
    これまでに、石川さんが撮影してきた
    14座の写真に加えて、
    「その山を初登頂した人の書いた本から、
    登頂の瞬間の描写を抜粋し展示する」
    という、じつに興味深い内容です。
    その「本」自体も、展示されています。
    2024年2月18日までの開催ですが、
    展覧会って
    行こう行こうと思っているうちに
    知らぬ間に終わっちゃってたりするので、
    ぜひ、おはやめに。
    詳しくは公式サイトで、ぜひチェックを。

  • 特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

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    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

    011 本城直季/街。

    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由

    014 ヤジマオサム/クルマ。

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