いまなお、多くの人の心をとらえて離さない
『MOTHER』シリーズの音楽。
その音を紡いだのが鈴木慶一さんと田中宏和さん。
開発者の糸井重里を交えて
たっぷりとひもといてもらいましょう。
その経緯を。とっておきの秘密を。込めた情熱を。
一見のほほんとした「おじさん」たちは、あのとき、
あきらかにムキになって戦っていた!鬼だった!
なお、ときたま登場する「ムケてない」ということばは
「大人になりきれていない」という意味で使います。
あまり余計なことなど想像せぬように。

第8回

「知られざるエピソード」

僕が糸井さんという人を始めて知ったのはマザー2でした。
2をやったあとに1をやったんですが、
全然色褪せてなかったし。
音楽が最高すぎますし。
2の名前入力画面で「OKですか?」って
聞かれてびっくりしたし。
(Nob)

ランダムでかまわないんですけど、
当時の知られざる話とかありますか。

糸井
あの、名前入力するところに、
ぼくの「OKですか?」っていう声が
入ってるじゃない?
あれ、田中さんに騙されて録音されたんだよ。

え? 録音してると知らずに?

糸井
うん。いつ録音されたかわかんないんだ。
あれ、少なくとも、
録音用にセッティングしたんじゃないよね?
どうやって録ったの?
それさえもおぼえてないもん。
田中
うーん、いつどんな状況で録音したか‥‥
忘れちゃいましたね。
糸井
とにかく勝手に録って勝手に入れたんだよ。

そういえば、あれ、
かしこまった声じゃないですね。
つぶやき声みたいな感じ。

糸井
あれは「OKですか?」って
言わせたくて、計画したの?
田中
いや、まあ、とりあえず素材として
いろんなスタッフの声を
録音しまくってたような‥‥気は‥‥。

セッティングして、マイクテストみたいな感じで
「OKですか?」とか言ったんですかね?

糸井
ぜんっぜん、おぼえてない。
田中
いや、僕もおぼえてないです。

誰もおぼえてない(笑)!

糸井
たぶん、セリフというよりは、
日常会話を勝手に田中さんが録ってて、
そこから拾ったんじゃないかなあ。

糸井さんはいつ気づいたんですか。

糸井
なにかのときに、テストプレイで、
「おい、これ、俺じゃん!」って。
一同
(笑)
糸井
そしたら、「いや、録ったんですよ」って。
鈴木
たしか、ひろかっちゃんが
「糸井さんの声入れよう」って
言い出した記憶があるな。
スーファミになって、
サンプリング音源も使えるようになったんで、
そりゃ、やりたくなるでしょう。

はあ~(笑)。
ほかにこっそりやったこととかあります?

田中
あの、ダンジョン男の中で聞こえる音楽に、
鼻歌が混じってるの、ご存知ですか?
あれ、糸井さんが歌ってんの。
糸井
えっっっっっ?!
鈴木
(笑)

糸井さんは知らずに(笑)?

糸井
知らない、知らない。
‥‥いまのいままで知らなかった。
いまのいままで知らなかった!
いまのいままで!!

取り乱しているようです。

糸井
オレなの?!
田中
そう、糸井さんなんですよ。
糸井
「OKですか?」は知ってるけど、
え? ダンジョン男の中で?
田中
言葉‥‥というか‥‥ただ
「レッツ ファーフォーマンー」という
フレーズなんですけど(笑)
なんだか意味わかんないですけどね、
でも歌ってます。
「ダンジョン男」って設定いいなあ‥‥
って思って
なんかそれって糸井さんじゃないだろかと、
ピン!とひらめいて(笑)
ダンジョン男が歩くシーンの曲、
ダンジョン男の中のダンジョンのBGMの2曲で、
糸井さん登場します。
糸井
‥‥知らなかった。
オレ、よく歌うたってるからなぁ。
鈴木
知らないうちにいたずらされてんの(笑)。
あ、エンディング・テーマにも
糸井さんの声入れたような記憶が。
糸井
ええ?
寝てるうちに孕んでた、みたいな。
産んだのはアタシよ、みたいな(笑)。
‥‥えーーーっ?!
ほ・ん・とかよーー?!

取り乱してるようです。

田中
あと、ま、声でいうと、ゲップーとかね。
糸井
ああ、それはわかる。
ゲップーは、ちゃんといるんですよ。
ゲップの上手いヤツがスタッフにいたんです。
ほんっとにイヤがられてたの、ゲップするんで。

それは、その、日常生活において?

糸井
日常生活においてさ。
‥‥屁とかもするんだよ。
田中
そう、屁も録ったんだ。使ってないけど。
糸井
それで、あまりにもイヤなゲップをするから、
「おまえ、正式にゲップしろ!」って言って
録ったんだよね。
で、「いいですよ。‥‥ゲップ!」って(笑)。
悪いやつじゃぁないんです。

来たメールを読んでてわかったんですけど、
ゲップーのゲップはいまだにイヤがられてますよ。

糸井
イヤがられたねえ(笑)。

初めてゲップーの声を聞いたとき、
あまりにも気持ち悪い声なので、
のどの奥が酸っぱくなっていました。
(真由美)

ゲップーはほんと
あれ以上ゲームで気分が悪くなったことってないかも・・
(あし)

あ、でも、ひとりぐらい、
すごい好きだっていう変わった人もいましたね。

MOTHER2を買ったのは小5でした。
ゲップーが好きであのゲップを
どこまで真似できるかというのを
テープに録音してまで友達と競っていました(笑)
結局カビクサイマン程度しかできなかったんですが・・。
(ATS)

ほかになんかありますか?

田中
う~ん、ムーンサイドのボルヘスの酒場では、
隠れメロとして、
アメリカ国歌、『星条旗よ永遠なれ』。
変な音に隠れてるけど‥‥。
鈴木
あ、そうだ、そうだ、そうだ!

ありましたありました。
気持ちわるーい感じの。

田中
よく聴くと 聞こえるんですよ。
ヘロヘロのジミヘンが、こっそり溶けてる‥‥
というイメージですね(笑)

音楽の好みがこっそり反映されてますね(笑)。

田中
あとね、P.I.L
(※元セックス・ピストルズの
ジョニー・ロットンがジョン・ライドンと
改名して結成したバンド)
の元ベーシストが好きで、ええと‥‥。
鈴木
ジャー・ウォーブル。
アメリカ国家にしろ、
ポスト・パンクだよなあ、ひろかっちゃん。
田中
いやいやー(笑)。
とくにジャーウォーブルのベースが好きで
ほんっとに低い音がガンガン鳴って、
なんか潜んでいるような音の中を、
疾走するようなね、あの感じが大好きだった。
で、そっから、彼を追いかけて
レゲエ、とくにダブに行ったんですよ。
ダブって、音を抜いていくもので、
歌とかもないんだけど、
逆にイメージはどんどん膨らむんですよ。
それで、『MOTHER2』の病院は──。
糸井
ああ、病院! 病院は現代音楽入ってる。
田中
ほんとはね‥‥
なんか病院のBGMには、ふさわしくないと
ずーっと思ってたんですけど‥‥
他に使う所なかったんで
無理やり入れました(笑)
病院は「ビコーズ・アイ・ラブ・ユー」のダブ版、
フォーサイドは。それのサルサ版です。
(*ビコーズ・アイ・ラブ・ユーは、
ギーグを倒した後に流れるBGMです。)

いやぁ、いろいろありますねえ。
効果音関係はどうですか?

田中
うーーーん、ああ、
最後の、ギーグが痺れる音って、
放電の音なんだよね。

放電!

田中
うん。バチバチバチッていう放電の音なんですよ。
あの音を、たまたまサンプリングしてたの。
それをもとにして、いろいろキー変えてくと、
声みたいに聞こえだして。
すると、あの放電の持ってる、よくわかんないけど
放電現象の「エネルギーの声」みたいな感じがして
なんかギーグとの最終戦闘のシーンに、
合ってるのではって思って。

それは、絵からのイメージだけで?

田中
あのへんはセリフというか、
ことばのやりとりで感じるイメージからですね。
糸井さんから、できあがったシナリオが
回ってくるから、慶一さんとふたりで、
「こういう順番にしようか?」とか、
「怖い感じかな?」とか、
セリフのイメージを広げてつくりました。
糸井
はー。そのへんの話ってさ、
つくってる最中に絶対に聞こえてこないから。
田中
わざわざ自分から言うことでもないしね(笑)。
糸井
あっ、あとあれがあったね。
ポーキーのノックの音!
田中
ああ(笑)。
あのー、最初、
確か、ポーキーがネスの家の
ドアを叩くところがあるんだけど、
あそこで、「お・ま・え・は・ア・ホ・か」
のイントネーションで
叩いてる部分があるんですね(笑)

横山ホットブラザーズ(笑)!

糸井
それ、田中さん、ずーっと言ってたんだよ(笑)。
田中
もう、関西人としては、
なんとしても後世に伝えなきゃあって‥‥
もう、あふれんばかりの使命感(笑)
ノコギリじゃないんだけど、ドアを叩くシーンを
シナリオで見つけた時、ああ ここだー!
「ド・ド・ド・ド・ド・ド・ドッ!」って。
糸井
もう、当時ね、かたくななまでにやりたがってて。
それ聞いて「おまえがアホじゃ」と思った(笑)。
そんで、「やろう、やろう!」って。
一同
(笑)

トンズラブラサーズ。
ツーソンからスリークに行くとき。
バスに一度乗るとわかる。
そうじゃなくても、スリークって怖い。
でも、通っちゃうんだよなぁ。トンズラ。
面白かった。手叩いて膝叩いて、
スリークに向かったの覚えてる。

ムーンサイド。

こそようこそよう
ムーンサムーンサ

‥打ってるだけでぞわわ~って来る。
こっっわかったんだから。
未だかつてゲームでここまで怖かったことはないですよ。
これが何の骨か知っていますか?
貴方の骨。私の骨。骨、骨、骨。

ここの音がまたぁ‥不気味。そうだ、ホテルに泊まったとき!
目覚め悪そ~な音でさぁ。
ママに電話したりエスカルゴ運送呼んだりして頑張った。

‥あと、これはずせない。
エイトメロディーズ。

てか、これを聞く為に、今三度目のプレイ中。
今はスカラビに向かうところ。

それと、最終戦。ギーグ。
一番最初にあいつと対峙したときの事は忘れまい。

ああ、楽しかった。
思い出になりつつありますが、
思い出から何かを作ることもあります。
結局いい思い出とは、
人がまた何かをするときに役立つのだろうと。
思います。
(はろるん)

(続きます!)

2003-06-09-MON