映画『モテキ』を、 ほめさせてください。(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根仁さんプロフィール 大根仁監督 × 糸井重里

第8回 きれいなOLにほめられたい!
糸井 脚本が大根さんということは、
セリフは基本的に大根さんが書いたんですか?
大根 まず、原作者の久保ミツロウさんが
漫画のラフに書いたセリフがあります。
それは当然、
漫画のキャラクターがしゃべっている言葉なので
生身の俳優がしゃべるときにどうするか、
というアレンジをぼくがやります。
糸井 なるほど。
大根 あとはまあ、
久保さんの生理とぼくの生理は
またちょっと違うので、
そこの差異を埋めるような作業はありましたね。
ですから映画には、
ぼくが書いたセリフも
久保さんがラフで書いたままのセリフも、
どっちもあります。
糸井 そうですか。

「サインを出している」
みたいなセリフがときどきまじっていて、
そのまざり具合がとてもよかったんですよ。
大根 サインを出している、ですか。
糸井 つまり、
「ある世代の人はこれ、感じるでしょ?」
っていう、しゃべり言葉とか。
大根 あ、はいはい。
いろんな世代のしゃべり言葉が好き
というのはけっこうあります。
糸井 音楽の選択もそうなんですけど、
「わかる人はピンときてね」
っていうもののまぜ方が、
誰が観ても嫌がらない具合になってるんですよ。
「わかる人だけわかればいい」をやりながら、
わからない人を突き放さない。
あれはけっこう、
練り込んでるなぁと思いました。
大根 ありがとうございます。
糸井 たとえばあの、
音楽業界の人たちが集まるシーンとか。
ああいう場面には、
小生意気なサインっぽい言葉を
いくらでも入れられるわけです。
業界用語を並べて、わかりにくくできる。
でもそこは、
ギリギリで誰にでも通じるようにしてますよね。
大根 そうですね。
伝わらないことがすごく嫌というのは、
テレビ出身だからかもしれません。
糸井 伊丹さんもそうでしたよね。
大根 ああ、そうです、伊丹さん。
伊丹さんは、
セリフがすごくうまいですよね。
糸井 うまいです。
伝わらないセリフをつくらない。
あと、
「ここをほめてね」ってセリフもつくらない。
大根 そうですね。
『マルサの女』はとくにそうですけど、
専門用語が出てくるんです。
それを取材した人なんかは、
おぼえた専門用語を
ぜんぶいれたくなると思うんですね。
でも伊丹監督はその取捨選択がすごい。
あと、そういうシーンでは最後にかならず
抜いてくるんですよ。
最後ギャグで落として次に渡していくとか。
むずかしい会話が
むずかしい会話のまま終わらない。
糸井 やっぱり、客席が見えてますよね。
大根さんの作品もそうだと思うんですけど、
そういうのは、どこで鍛えたんですか。
大根 うーん‥‥。
わりあい天然の部分だとは思うんですけど‥‥。
どこでどうやって鍛えたのか。
うーん‥‥
もうちょっと低いとこにいたいというか、
いやちがうかな、なんて言うんだろうな‥‥
糸井 今のはちょっとわかる気がする。
もうちょっと低いところにいたい。
大根 はい。
糸井 批評家にほめられたい人だっているわけだし、
カンヌだ、外国だっていう監督もいるし。
そういう意味では、
ノーターゲットですよね。
大根 そうですね(笑)、
ぼくにはそこ、なにもないですね。
糸井 それがとても気持ちがいいんです。
大根 ぼく、前に、ある取材の仕事で
カンヌに行ったことがあるんですよ。
糸井 ほぉ、そうですか。
大根 カンヌの映画祭って
どんなところだろうと思って行ったら、
なんか‥‥熱海のお祭りみたいだったんです。
「なんだ、このたいしたことのなさは」
って思っちゃって。
「これが世界最高峰の映画祭なのかー」と。
糸井 熱海が悪いわけじゃないけれど(笑)。
大根 もちろん熱海は悪くない。
だからほんとに失礼な言い方なんですけど‥‥。
糸井 平気です、素直にそう思ったんだから。
大根 そこに集まることがステータスっていうのが、
まず気持ち悪かったし。
「あ、たいしたことないんだなあ」と。
糸井 それを早く知ったのは、得でしたね。
大根 そうですね。
映画というものはもちろん
すばらしい文化だと思ってますけれど、
ぼくはもっと軽く見たいというか‥‥。
糸井 だから大根さんの映画には、
ほめられどころのウインクがないんですよ。
「ここでほめてね、パチッ」
というウインクを、
才能のある方々はみんなおやりになるんだけど、
大根さんはそれをぜんぜんやらない。
だいたいは、ふざけてますよね(笑)。
大根 ふざけてます(笑)。
糸井 低いところにいたい。
大根 ぼくにとってはもう、あれです、
きれいなOLにほめられるのが、
最高の栄誉なんです(笑)。
とにかく、きれいなOLにほめられたい!
糸井 (笑)なるほどねー。
大根 すみません、こんな話で。
糸井 いやいや、ぼくだって気持ちとしては、
ひとりのOLとしてほめさせてもらってますから。
大根 そうでしたか(笑)、
ありがとうございます。

(つづきます)


2011-10-13-THU


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