映画『モテキ』を、 ほめさせてください。(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根仁さんプロフィール 大根仁監督 × 糸井重里

第7回 地震のあとに撮る、決意。
糸井 この映画の、
クランクインはいつでしたか。
大根 ことしの4月30日ですね。
糸井 で、クランクアップが?
大根 6月の15日。
糸井 まさしく、
「これをやってていいのだろうか」
という時期ですね。
大根 ええ、そうです。
3月11日の地震のときにはちょうど、
助監督と打ち合わせをしていました。
シナリオの第6稿ができて、
それについて話しているときに地震が起きて‥‥。
まず思ったのは、
「飛ぶな、この映画」
糸井 思うでしょうね。
大根 こんなことをやってる場合じゃない、と。
糸井 「飛ぶな」ですよね、まず思うのは。
大根 いっしょにいた助監督に、
「この打ち合わせは無駄になるかもな」
と話したのを覚えてます。
糸井 うん‥‥。
大根 それで次の日、
プロデューサーに
「なくなりますよね」と電話をしたら、
「なに言ってんですか、やりますよ」って。
開口一番でした。
「この映画はぜったいにつぶしません」
そう言われて、
「あ、やるんだ」と。
糸井 プロデューサーのその決意もすごいですね。
大根 ですよね、あの時期での即断ですから。

で、やるとなったら、
目の前にあるシナリオを
とにかくなんとかしなくちゃならない。
その時点での第6稿が、まったくだめで。
糸井 そんなにですか。
大根 ドラマ版のヒロインが登場するシーンを
まだ残してたりするんです。
糸井 そうか、元カノが(笑)。
大根 すがってたんですよ、6稿まで。
でもそれを7稿でバッサリと。
糸井 切りましたか。
大根 切りました。
糸井 切れたんですね。
大根 あのタイミングで、
なにかのスイッチが入ったんだと思います。
糸井 地震のニュースが流れているなかで
そのスイッチが入った。
大根 そうですね。
あとは明確に、
「ハッピーエンドにしよう」とも思いました。
糸井 そうか、
その決意は、ぜったいにするでしょうね。
大根 ‥‥この映画に関することで、
震災の話はあまりしないようにしてるんです。
でもやっぱり、まちがいなく、
あの地震があったからできた内容ではありますね。
糸井 観ていてそれをすごく感じたんですよ。
描いてることに根性があると思って。
で、ブレてない。
監督をはじめとしたスタッフ全員が
はっきりと正面を向いて、
「これはいい映画だ」と言っている。
それが伝わってきたもんだから‥‥
ああ、地震が育てるっていうことも
あるもんだなぁと思ったんです。
大根 ありがとうございます。
糸井 「2011年のあの地震の年に、
 『モテキ』っていう映画があってさ」
っていう話を、
ぼくはきっと何年か先に言ってますよ。
大根 ‥‥ほんと、すごくほめられてますね(笑)。
糸井 ほめさせてください、
おもしろかったんだから!(笑)
大根 恐縮です。
糸井 役者さんたちはどうでした?
やっぱり根性があったでしょう。
大根 うん、ありましたね。
糸井 ちなみにその時期うちのかみさんは、
NHKの朝ドラを撮ってたんです。
つけっぱなしのテレビのニュースを見ながら
収録に出かけていくわけです。
余震もまだ続いているのに、
平気に出かけてるようにさえ見える。
でも、平気なわけがないんです。
大根 はい。
なにか、とにかく「待ってろよ!」という
気持ちで作りました。
糸井 現場では主人公の若い女優さんが、
一所懸命セリフを覚えているわけですよ。
なんだろう‥‥あの時期に、
ただただ、ひたむきにやることの大事さというか、
決意というか。
映画『モテキ』には確実にそれがありますよね。
大根 あると思います。
糸井 意識してメッセージを入れたわけじゃないけど。
大根 メッセージは入れてないです。
でも、明確に、ぜったいに、
真っ当なエンターテインメントにしようと、
そう思っていた部分はありますね。
糸井 「不謹慎」なんていう言葉も
さんざん聞こえてくる時期につくるわけだから、
「不謹慎」と言われたら、
「どうぞ言ってください」
と応える覚悟がないと撮れない映画ですよね。
大根 でも、その覚悟はやっぱり、
地震があったからできたわけで。
それまではずっと、
「これ、ドラマよりおもしろいのか?」
って悩んでましたから。
糸井 そんなにジタバタしてたんですか。
大根 6稿とか、恥ずかしくて読み返せないです。
「墨さんの結婚式」
っていうシーンがあったんですよ。
墨さんが結婚することになって、
そこにドラマ版のヒロインたちが集まってくる。
糸井 ああ‥‥そのシーンは決意がないですよね。
大根 ないです(笑)。
糸井 で、時間をつぶすには最高のカットが撮れます。
大根 そう、そうなんです。
糸井 そのテクニックで乗り切った場所は
この映画にはまったくないでしょう。
けっきょくはみんなの決意だらけで。
大根 はい。
糸井 ぼくもね、そういう決意を
ちょっとだけ持っているつもりなんですよ。
つまり、
「いま、ふざけるんだったら
 俺はケツの穴を締めてふざけるぜ」みたいな。
大根 なるほど。
糸井 いやぁ、それにしても、
チームの決意や覚悟っていうものは、
ちゃんと映画にあらわれるものなんですねぇ。
すばらしいですよ。

(つづきます)

2011-10-12-WED


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