映画『モテキ』を、 ほめさせてください。(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根仁さんプロフィール 大根仁監督 × 糸井重里

第4回 長澤まさみさんの、量感。
糸井 ドラマが良すぎて、
映画のよさをなかなか見つけられずにいた。
大根 そうですね、最初しばらくは。
糸井 でも、なんて言うんでしょう‥‥
久保さんの原作の段階で
すでにそうなんですけど、
『モテキ』っていう作品は、
性と愛がいっしょくたじゃないですか。
大根 ああ、それは、はい。
糸井 性はいけなくて愛はいいとか、
愛は生ぬるくて性はどうだ、とかじゃなくて、
もう、どっちがどっちだか
わからないものを出してますよね。
大根 うん、そうですね。
糸井 森山未來くんの演じる主人公が
嫌われないでみんなに観られているのは、
その「わからないもの」が
みごとに描かれてるからだと思うんです。
で、さて、
成人指定になる映画かというと、そうではない。
でも内容は十分に性だらけですから、
原作者と監督はそこのところを
すごい綱渡りで走り抜けてますよね。
その走るふたりに、お客さんがついていくんです。
だから、性はある。
そして、これまで『モテキ』は、
その性というものを
「汚い」とか「悪」のほうにも入れたりしながら、
「どうせ私はけがれた女よ」的な表現を
ぜんぜんしないで描いてきました。
そういう良さが映画になったとき、
ぼくはぜんぶ
長澤まさみに凝縮したような気がしたんです。

(c)2011映画『モテキ』製作委員会
大根 ああー、はい。
糸井 映画化の迷いはあっても、
ヒロインに長澤まさみさんは決まっていて、
「これで行ける」と思ってたわけですよね。
大根 そう‥‥そうですね。
彼女が演じるヒロイン、
みゆきをどういうキャラクターにするかで
最初によく言ってたのが、
ドラマ版『モテキ』のヒロインたちの
いいところをぜんぶ合わせたような‥‥
糸井 合体ですよね。
大根 合体。
合体してできた、いちばん強いやつ。
糸井 で、合体したのを同じサイズにおさめると、
ふつうは余るんですけど、
長澤まさみは体が大きいんですよ。
大根 そうですね(笑)。
糸井 そう。
ぼくはもう、そればっかり感心して(笑)。
明らかに‥‥どうだろう、
メジャーをあてたら太ももで10センチぐらい
長さが違うんじゃないかって。
大根 はいはいはい。
糸井 そこがもう、
あの映画が大きくなった理由でしょう。
彼女の、大きさ。
それをこの監督は頼りにして撮ってるなぁって。
大根 そうですね(笑)。
糸井 まったくそうでしょう?
大根 たしかに、頼りました。
糸井 映画の中では、
長澤まさみさんの顔を映してる時間も
すくなくはなかったはずなんだけど、
顔じゃなくて、
ボディ全体がいつも映ってるような‥‥
そういう印象がありました。
だから、そう、
やっぱりあの役は、
小さい人だったら持たないですよね。
大根 うん、持たないですね。
糸井 女優さんのああいう感じが出ている映画は、
なかなか他にないですよ。
大根 そうですか。
糸井 なんて言うんだろう‥‥‥量感?
長澤まさみの量感。
大根 量感。
糸井 大根さんっていう人は、
その量感のことをよーくわかってて、
ほんとうにぼくは呆れましたよ。
なんて‥‥なんてスケベなんだ。
大根 はははははは。
糸井 いや、失礼に聞こえたらごめんなさい。
こころから感心してるんです。
長澤まさみさんを
あの魅力で見せたのはすごいですよ。
大根 ありがとうございます。
糸井 考えてみれば大根監督は
『週刊真木よう子』のときから、
顔じゃなくてボディ全体、
という撮り方をされてますよね。
大根 そうですね。
糸井 モデルでもなく
女優でもない女性の撮り方。
それがうまい人だなぁと思ってたけど、
今回も、また‥‥。
大根 長澤まさみに「エロい」っていうイメージは、
あんまり一般的じゃなかったと思うんです。
でもぼくはもう終始、昔から、
エロいなあと思ってたんですよね。
糸井 それはやっぱり、量感ですか。
大根 そう。
糸井 立っているだけで芝居になる。
あの量感は、
彼女のものすごい得意技ですよね。
大根 はい、そうそう、そうです。
糸井 あの‥‥あそこのシーン、
幸世の部屋で上着を借りて
着る場面があったじゃないですか。
大根 はいはいはい。
糸井 あそこでサイズ感が、ものさしが合うんです。
大根 ‥‥すごいな、さすがですね。
さすがです(笑)。
はい、もう、そのとおりです。
糸井 もうね、あのシーンは息を呑んだ。
どうしてこの監督は、こうスケベな(笑)。
大根 ありがとうございます(笑)。
そうなんです、あのシーンは、
幸世の服を着て立ち上がったときに
みゆきのサイズ感がわかるんです。
「あ、この子、こんなに大きいんだ」って。
糸井 そう。
女の子に対する幻想が深すぎる人が
あのシーンを撮るとね、
シャツをだぶだぶにして撮るんですよ。
大根 ああー、そうですね。
糸井 「そのだぶだぶ加減がいい」っていう、
つまり、
明石家さんまさんの美意識に(笑)。
大根 なるほど(笑)。
糸井 そこを大根監督は、
男女を同じくらいのサイズにして見せた。
体当たりするシーンにしちゃった。
同じサイズの大きいふたつがバーンとぶつかる、
「キングコング対ゴジラ」みたいな。
映画の最初のほうでそれをみせられたんで、
そこから先はもう、
ぜんぶが期待できるようになったんです。

(つづきます)

2011-10-09-SUN


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