愛と言うには  ちょっと足りない。  『モテキ』をめぐる、とても自由な座談会。

第3回 愛と言うにはちょっと足りないもの。

久保 今日の座談会は、
「愛と言うにはちょっと足りないもの」
って聞いたんですけど。
森山 あ、そうでしたよね。
ハマケン え? そうなの?
愛と言うには‥‥なに?
糸井 「愛と言うにはちょっと足りないもの」
そういうテーマでお話ししましょうと、
前もってご連絡してたと思います。
ハマケン あ、そうだったんですか。
すみません、ボーッとしてた。
久保 わたし、それを聞いて、
ずっと下を向いてしまって。
いやー、愛かぁ。
まず「愛」があるのが前提っていうところで、
やっぱり糸井さんとは
話が合わないかもしれないって(笑)。
糸井 いやいや、そうじゃないんです。
愛が前提じゃない。
ぼくは最近ツイッターをはじめて
そこでも書いたんですけど、
要するに「愛」っていうのを
人々は言いすぎるってぼくは思ってるんです。
久保 言いすぎる。
糸井 このマンガには、それがないんで。
森山 たしかに。
糸井 愛にはちょっと足りないものしか描いてない。
久保 ああー、そうか‥‥。
糸井 いままでそういうのを見たことなかったんですよ、
マンガの中で。
だからこれはすごいなぁーと思って。
ものすごく複雑じゃないですか。
森山 そうですよね。
糸井 「それは愛?」って訊かれたら、
「ちがうかもしれない」って思うもので
動いてるじゃないですか。
久保 はい(笑)。
糸井 で、よくよく考えてみたら、
女はみんなそうだと思ったんです。
愛じゃないかもしれないもので動いてる。
男はそこで間違うんですよ。
ハマケン うーん。
糸井 「これが愛だ」とかね、すぐ思いたがる。
ハマケン それはおもしろいっすね、
幸世が完全に勘違い。
森山 幸世は明確なものがないから‥‥
いや、もしかしたらあるのかもしれないけど、
ほんとにばぁーっと散らかってるから、
演技していて、整理しようと思うと
破綻するんですよ。
一同 (笑)
久保 申し訳ない(笑)。
森山 いや(笑)、だから整理しないことにしたんです。
考えてみたら人ってそんなもんだっていうか、
「好き」って言った一秒後に
「きらい」って言っちゃうこともあるわけで。
そういうのを整理しようとすると破綻するから、
もう、そのまま場面ごとにやっていくというか。
糸井 そういうふうにするしかないんでしょうね。
森山 この前、いっしょに出演してる
リリー・フランキーさんと話をしていて、
「結局この幸世という男は、
 無自覚的にせよ嵐をつくりたいんだ」
っていうことになったんです。
ハマケン へえー、そういう話してるんだ。
森山 嵐をいっぱいつくって、
海の上でバーッと嵐と嵐がぶつかって
最終的に一瞬こう、
ふっと、凪ぐ(なぐ)。
海が凪ぐ瞬間を求めてるんだよね、幸世は。
みたいな。
そんな感じになったんです。
糸井 うん。
久保 そっかぁ。
ハマケン たしかに、そういう感じかも。
糸井 ハマケンはどう? 愛を信じるタイプ?
ハマケン ‥‥愛は。
なんかこのマンガの感じだと思ってましたよ。
おれの人生は。
一同 (笑)
ハマケン すいません、えらそうに。
‥‥いやぁ、愛を信じるかって、
むっずかしい質問ですねえ。
糸井 歌の中にはいっぱい出てくるし、
ぜんぶ愛でまとめちゃうけど‥‥
そんなことはないよね。
久保 わたしは歌を聞いてると、
拒否されてると感じることのほうが多いです。
モテない人の歌かと思いきや、
いつかぼくも結婚するとか、
急に自分とは違うと思わされたり。
なんか、愛を歌われたところで、
ぜんぜん自分と
シンクロするものがなかったりとか。
糸井 それはね、まさしくぼくの気持ちですよ。
一同 え?
久保 そうなんですか?
糸井 うん。
ぼくはRCサクセションがすごく好きで。
久保 はい。
糸井 忌野清志郎くんは詩人としても
すばらしいと思うんだけど、
結局「キミ」がいるんですよ、いつも。
久保 あー、そうそう、そこです!
糸井 どんなひどい目にあったって、
キミだけはわかってくれるとか。
その世界はそれで、もちろんすてきなんだけど。
久保 はい。
糸井 でも、ふつうは
その「キミ」がなかなかいないんで。
森山 そうか。
糸井 で、ぼくはそれに対して、
『さんざんなめにあっても!』っていう歌を
歌ってもらったことがあるんです。
つまり、なんにもない、
おれを信じてる女もいないって状態で、
さんざんな目にあっても、という歌を。
ぼくが詞を書いて彼が歌ったんですけど、
そのときぼくはちょっとだけ、
「清志郎くんにはわかるもんか」
って思った(笑)。
一同 わー(笑)。
ハマケン すごい話ですね、それ。
久保 いや、でも、そうですよね。
ものをつくるときって、そんな気持ちですよね。
糸井 うん(笑)。
久保 描きながら、だれにもわかるもんか!
バンッ!(扉を閉める仕草)みたいな感じで。
一同 (笑)
ハマケン でた!
糸井 なんか、持ってますねぇ、扉を(笑)。
しょっちゅうお城にこもりますねえ。

(つづきます!)

2010-07-19-MON


まえへ
このコンテンツのトップへ
つぎへ

(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社