MOOMIN LOVE
重松清×『ダ・ヴィンチ』横里隆+「ほぼ日」武井 おじさん3人、ムーミンを語る。

第3回  みんな、流れてきて、ここにいるんだ。

    武井 ムーミンがスナフキンに憧れて、
いなくなっちゃうのが嫌な反面、
わりと平気で、フローレンと
付き合い出したりするじゃないですか。
 
わりと平気で‥‥(笑)。
    重松 うん、うん。
 
    武井 あの、男の友情や憧れと同時に、
女の子と付き合ってく、みたいなことも、
ムーミンの世界には、
じつは丁寧に描かれてますよね。
その微妙な気持ちとかが。
 
    横里 ああー。なるほど。
 
    重松 たぶんムーミンってね、
すごく繊細だよね。
性格づけというか。
 
    横里 今、ここにある幸せはずっと続くものじゃなくて、
絶対的なものじゃなくて、別れもあるし、
何か起こると覆るっていうことが、
全ての根底にあるような気がしますよね。
 
    重松 ムーミン谷って、誰かがやってきて、
また去っていき、っていうさ、
不思議な空間だよね。
頼りなげなところが残ってて。
 
  横里 うろ覚えなんですけど、
ムーミンシリーズの一番最初のお話として
トーベ・ヤンソンが、洪水の話を書いてるんです
『小さなトロールと大きな洪水』)。
ムーミンシリーズの根底になったものがたり。
ムーミンパパが家を作ったんですね。
ところが洪水が起こって、
作った家が山の奥の方、谷間まで、
流されちゃう。
 
    重松 おう。
 
    武井 えーっ。
 
    横里 で、家族がみんなで移り住む。
そのときスニフもいて、一緒に移り住む。
それがムーミン谷になるんです。
 
     
    重松 ムーミン谷創世記だ。
 
    横里 だから、あの谷に昔からムーミン族とか、
スノーク族とかがいたわけじゃなく。
 
    重松 なくて。
 
    武井 流浪の一族なんだ。
 
    重松 みんな、流れてきて、ここにいるんだ。
 
    横里 トーベ・ヤンソンの根底に何かそういう、
流れるとか、形をとどめないであるとか。
 
    重松 移動するとか。
 
    横里 そういうものが、あるような気がするんです。
 
    武井 今、スニフが一緒に住んでたって
話だったでしょう。
確か、ミイも養女になったりして、
家族の形態が、曖昧ですよね。
 
    重松 曖昧だよね。うん。
 
    横里 うん、うん。
 
    久保 トーベ・ヤンソンも
たくさんお客さんがいらっしゃるお家で
常に鍵が開いてたりといいますね。
何かそういう家族の付き合い、
他人との付き合い方とかっていうのが
あるのかもしれないですね。
 
    横里 それと、フィンランドの歴史。
 
    重松 そうそう、たぶんフィンランドが持ってるね、
スウェーデンがあり、ロシアがあり、
ドイツがありっていう歴史があるよね。
フィンランド行くとさ、
トーベ・ヤンソンみたいな、
いかにもスウェーデン系の
鼻がすっと通った人と、
ちょっとほっぺが
膨らんだような人がいるよね。
 
    武井 そうです、そうです。
ほとんどが、その、ほっぺの膨らんだ系の
フィン人で、
そこにスウェーデン系の人がいて。
 
    重松 北方にはサーミの人がいるしね。
標識もスウェーデン語とサーミ語と
フィンランド語3つで表記している。
 
     
    武井 そうです。公用語なんですよ。
 
    重松 ちょうど1年前に行ってたんですよ、
ラップランドの方で、
冬至の日に、聖ルチア祭を見て、
1日中日が上らないさ極夜を体験して。
ずーっと見てた。ほんとに真っ暗なの。
寒かったよ。
 
    武井 さぞや寒いでしょう。
 
    重松 ほんとに寒かった。
暗くて寒くて、
ほんとに冬眠したくなった。
 
    横里 (笑)。
 
    重松 あれは冬眠したいわ(笑)。
 
    武井 それか、サウナに入るか。
 
    重松 そう、サウナに入るか、
冬眠か、しかないね。
イナリっていう町があって、
そこから少し行ったところで、
湖がたくさんあるんだけれど、
その湖が完全に凍っちゃうんだ。
そこでオーロラを見て。
流れ星がポンポンポンポン、行くんだ。
 
    横里 うーん、いいなあ。
 
    重松 それを見ながらね、ウォッカを1人で飲んで。
真っ暗で、音がしないしね、
ちょっとスナフキン入ってるかな? っていう。
 

今回はじいっと
おとなしくしていましたが、
おとなしくしてたのは、
ここでどかんと
炸裂させたかったからです。
そのときの重松さんのこと。

フィンランドの北の果てに佇みながら、
ふとおっしゃられたのです。

「この風はさ、
 誰にも触れてきてない風なんだよね」

とてもさりげなく。
それを聞いて、うぉーっ!
と思ったのですが、
ご本人に言うわけにもいかず、
私は雪のなかを
ズボズボはまりながらも走りました。
走って走って、そして宿のお母さんに
その言葉を伝えて、
家の中で二人して
「いいわねえ」
と感激していたのでした。
スナフキン。

     
    横里 いいですねー。
 
    重松 「今、スナフキン入ってんな、オレ」
 
    武井 ひとりで(笑)。
 
    重松 そう、ひとりスナフキンだった。
 
    武井 スナフキンはずっとひとりですもんね。
ムーミン谷にいるときだけ
ムーミンがちょこまかしてる。
 


2011-12-28-WED

まえへ
このコンテンツのトップへ
まえへ


ツイートする
感想をおくる
ほぼ日ホームへ