HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 謎の爺 と ふしぎな「どうぶつたち」。80歳の版画家・望月計男さんの作品がすごい。
──
芹沢銈介さんから教わったことで
いちばんのことって、何ですか?
望月
そうだね、やっぱりさ、
何でもチャレンジしろってことだね。
──
なるほど。
望月
考えてみりゃあさ、あの人だってさ、
年食ってからも
新しいもの、はじめてのものに
いろいろとチャレンジしてたんだよ。

最後のほうはシルクで作品やったり、
陶芸なんかも、やろうとしてたよ。
──
そうなんですか。
望月
だから俺も「マンネリ」になるのが
いちばんイヤなんだ。

何かしら、チャレンジしてねえとね。
──
望月さんにとって
動物って、どのような存在ですか?
望月
わかんないけど、
タヌキやらフクロウやらゾウの尻やら
いろいろやってるとさ、
人間も動物も、同じような気がするよ。
──
それは、どういう意味で?
望月
いや、まあ、たとえばだけどさ、
サルなんか見てると
ハッキリと「親分子分」があるわけだ。

腕っぷしが強けりゃあ天下だってんで
サル山のてっぺんで
にらみ効かせて威張り散らしてるけど
弱けりゃ、エサにもありつけない。
──
ええ。
望月
やつらの、そんなようなのを眺めてると、
俺たちの社会の縮図だ、
人間の世界と同じじゃねえのって思うよ。

人間は動物がでっかくなったもんだしさ、
動物は人間がちっちゃくなったもんだよ。
──
多摩動物園に通って、動物を見てたら
そう思うようになったってことですか。
望月
こないだなんか
知り合いが入ってる養老院に行ってさ、
いろいろ聞いてきたけど
ああいうとこにも親分と子分がいて、
「あいつは好きだの、
 こいつは好きじゃねえだのって
 ごちゃごちゃやってて
 こっちはもう80のジジイなのに困る」
なんつってさ、嘆いてたよ。
──
そうなんですか。
望月
人間と動物で、同じことやってるんだよな。

俺たち人間だ人間だって威張ってったって
所詮は動物だって思うし、
下等な動物だっつっても
けっこう利口だよって思うこともあるしね。
──
そういう気持ちでつくってるから
望月さんの動物って
なんかこう‥‥
人間みたいに見えたりするのかも。
望月
そうかい。
──
望月さんは、絵を描く人で言うと
どういう人が好きだったんですか。
望月
グタイのヨシハラ。
──
グタイ‥‥の、ヨシハラさん。
望月
そうそう、グタイ。昔の。
知ってるでしょ、グタイ。
──
すみません、
はなはだ不勉強で存じ上げないので
すぐにスマホで検索します。

‥‥具体美術協会の、吉原治良さん。
望月
そう。
──
あ、この真っ赤なマルを描いた絵は
竹橋にある
国立近代美術館で見たことあります!
望月
生誕100周年のときは
大きな美術館で回顧展をやってたり、
有名な人なんだけど
その吉原さんが親方やってた
具体美術協会ってグループの考え方が
好きだったんだ、俺。
──
どんな考え方だったんですか?
望月
「ぜんぶ新しいものでなきゃあダメだ。
 古いものは捨てろ。
 自分でなきゃならねえものを、やれ」
──
おお。
芹沢さんの教えとも通ずる感じですね。
望月
俺も、そういうふうにやりたいけど、
なかなか、うまくいかないねえ。
──
じゃあ、望月さんが
次にやりたいことって、何ですか?
望月
最近「木口木版」はじめたんだよ。

輪切りにした木の切り口を版面にする
版画の方法なんだけどね。
──
それで、どのような作品を?
望月
今は森とか樹木の姿を刷ってるけれども
動物だっていいし、
あとでまた、
人間のイヤな顔でも描きてえと思ってる。
──
またイヤな顔ですか(笑)。
望月
うん。
──
でも「イヤな顔」って、
いい意味でおっしゃってるんですよね?
望月
まあ、いい意味も悪い意味も、
イヤな顔って、いちばん難しいんだよ。

人間の顔のなかでも。
──
いつも「顔」を観察してるんですか?
望月
別に、誰かの顔ってわけじゃねえけど
自分の顔と混ぜたり、
電車のなかで
知らないばあさんの顔を描いたりさ。
──
へえ。
望月
電車で顔を見てると、おもしろいよ。

「この親父、
 母ちゃんと夫婦喧嘩してきたけど、
 知らーん顔して乗ってるな」
とか、いろんなことを想像するんだ。
──
なるほど(笑)。
望月
俺、よく「青春18きっぷ」で行くんだ。
2150円で博多まで行けるし。
東北だったら、青森まで行けるわけよ。
──
‥‥行くんですか、今でも?
望月
行くよ。青森まで行くってなると、
乗り換えがね、
何しろ10回以上あると思うんだ。

夜中の11時ごろに着くんだけど
安酒を持ってさ、
ビール半ダースくらい持ってさ‥‥。
──
持っていきすぎじゃないですか(笑)。

でも、そうやって、
えんえんと鈍行電車に揺られながら、
人の顔を観察してるんですか。
望月
まあ、顔だけじゃねえけどね。

あるときなんかさ、
夜中で酒のつまみがねえなと思ってたら
真夏で暑いもんで
目の前のばあさんの「花柄のパンツ」が
丸見えになってたんだよ。
──
‥‥‥‥‥‥。
望月
もう、まいっちゃってさ、
とんだ酒のつまみがあったもんだなって
友だちと笑ってさ。

‥‥で、何の話だったか?
──
いや、望月さんがお元気なのって
やりたいことがあるからなんでしょうね。
望月
そろそろ、ご臨終だけどね。
──
なかなか、そうならなさそうな感じが
すごくしますけど(笑)。
望月
まあ、またこのギャラリーで
展覧会やらしてもらう約束があるんだ。

来年になるか、再来年になるか。
──
おおー、2年後に個展ですか!

それじゃあ
まだまだお元気でいるしかないですね。
望月
まあ、うん、しょうがねえよ。

でもさ、このごろ、
同級生が、バタバタ死ぬんだよ(笑)。
──
な、なるほど。
望月
このあいだも同級会があったんだけど
「最後に残ったやつが
 誰からも香典もらえなくなる前に
 このへんで
 集まりもやめとくか?」って(笑)。
──
ともあれ、楽しみにしてます。
2年後の個展。
望月
どうなることやらわかんないけど、
まあ、がんばってやるよ。

畑も今年いっぱいはがんばってやって
身体も動かそうと思ってんだ。
去年なんかは
スイカつくるのもイヤだったんだけど。
──
体力づくりですね。いいですね。
望月
うちの女房なんかさ、6キロのスイカ、
半分は食っちゃうんだよ、1日で。
──
3キロも? すごいですね‥‥。
望月
だから俺もあの元気を見習ってさ、
来年だか再来年だか、ま、がんばりますよ。


<おわります>
2015-05-14-THU