会社をつくるということは。お金と、投資と、どう生きるか、の話。

みなさんもご周知のとおり、
今年の3月16日に「株式会社 ほぼ日」は
東証ジャスダックに上場いたしました。
そんなお祝いムードも
すっかり落ち着いた9月某日、
みずほ証券の今泉泰彦会長
東京証券取引所の岩永守幸常務
おふたりをオフィスにお招きして、
糸井重里とおしゃべりしていただきました。
はじめは「株の買い方」や「投資の心得」など、
現実的なことを話すつもりだったのですが、
いざ3人で集まってみると、
話のテーマは思った以上に深い方向へ‥‥。
お金のこと、経済のこと、
いまだから話せる上場のことなど、
思わず「へぇー」や「なるほどー」という
エピソードがたくさんとびだしましたよ。
全6回、どうぞ気楽におたのしみください。

06

売れっ子の先。

2017-10-31-TUE

糸井
上場のプロセスでは、
証券会社からも東証からも、
いい質問をいっぱい受けました。
スリルはありましたが、
ぜんぶおもしろかったです。
ぼくは東証に通うのは
ぜんぜんいやじゃなかった。
いい検事さんに取り調べを
受けているような気分でしたから(笑)。
岩永
検事ですか(笑)。
でも「いい」って、
ついているからいいのかなぁ。
糸井
「いい」がついてたらいいんです。
だって、社会正義と本人のための
審査なわけですから、
ぜんぜんいやじゃなかった。
岩永
それこそ昔は、
落としてなんぼみたいな時代も
あったみたいなんです。
でも、そんな時代じゃないことは
みんなもわかっていますから、
いい会社にたくさん上場していただいて、
日本を元気にしたい、
そういう感覚なんだと思います。
糸井
相手にちゃんと気をつかいながら、
それでいて手加減なしに質問するセンスは、
すごいと思いましたね。
どんなにフワフワした言葉をつなげても、
ぜんぜん聞いてもらえなかったです。
それはメディア以上だと思いましたね。
岩永
担当者たちにとっては、
もしその会社が上場することになれば、
今度は自分がサポートする側になるわけですから、
まずは社長さんのことを、
深く正確に理解したいんだと思います。
糸井
なるほどね。
岩永
それに上場したあとに、
なんらかの不祥事が起きたときは
「あの会社を通したのだれ?」
ってなりますので(笑)。
糸井
「おまえだろ」って(笑)
岩永
そういうこともあるので、
とにかくぜんぶ知りたい、
という気持ちなんだと思います。
糸井
いまこうして振り返ってみると、
ぜんぶがおもしろかったですね。
会社説明のために、
たくさんの機関投資家とも
お会いしましたし。
今泉
「ロードショー」ってやつですね。
糸井
はい、あのロードショーも、
おたがいの小説を読み合うみたいな
ところがありますから、
「ああ、この人はこういう作家なんだ」
という感じで、
こっちも審査してたりするんですよね。
数が多くてたいへんだったけど、
それはそれですごくおもしろかった。
それで、ひととおりおわって、
今泉さんとお食事をいっしょにして、
ようやく大事なことの話ができたときは、
ほんとにうれしかったです。
今泉
ああ、そうでしたか。
きびしい時期が長かったですからね。
糸井
もともときょうの企画は、
株の買いかたとか、
口座のつくりかたとか、
そういうのができたらな、
と思っていたんです。
でも、それよりは
「きみも会社がやれる」ということが、
きょうのテーマかもしれないですね。
今泉
それは、すごく重要なことです。
株に投資するというのは、
どうしても「お金を増やす」ことに
焦点があたりがちですが、
なぜみんなが投資をするかというと、
それは「会社」があるからなんです。
糸井
そうですよね。
今泉
事業を起こすというのは、
非常にすばらしいことなんです。
アイデアを実現させることは、
ひとりでもできるかもしれませんが、
ちゃんとした組織をつくって、
そのために必要なお金をあつめて、
お取引先の信用も得て、
そしてお客さまによろこんでもらう。
こういうことに、
ひとりの人として人生をかけていく。
これは、すごく重要なことです。
糸井
はい、重要です。
今泉
事業が大きくなればなるど、
自分の思い遂げたいものが
広がっていくわけですから、
それにかかわる人も増えてきます。
お金もたくさん必要になります。
そうなってきたときに、
会社を上場させるという選択が、
自然とみえてくるんだと思います。
糸井
その広がりというのは、
ひとりじゃ味わえないんですよね。
最近「フリーランスではたらきたい」
という人によく会うんです。
自分もそうだったから
よくわかるんですが、
コピーライターでも編集者でも、
フリーランスというのは
下請け仕事でもあるわけだから、
乱暴ないい方をすると、
いくら大成功しても、
けっきょくは売れっ子になって、
それでおしまいなんです。
岩永
ああ、なるほどー。
糸井
ぼくは、それ、
ちょっとつまんないと思うんです。
それだけいろんな仕事を
引き受けられる人だったら、
そのもうひとつ上のレイヤーというか、
さらに上のビジョンを
見てもいいと思うんです。
もっとできることがあるってことを、
みんなにも知ってほしいんですよね。
今泉
個ではなく、組織とかチームとかで。
糸井
はい、チームですね。
ぼくもそうだったからよくわかるんです。
やっぱり団体戦のほうがおもしろいんですよ。
そういう意味では、
「売れっ子になった先」
というのもちょっと
考えてみてほしいなぁと思いますね。
今泉
個人として売れっ子になるのと、
チームとして売れっ子になるのとでは、
やれることの規模や社会への影響力も、
またぜんぜんちがいますからね。
糸井
ぜんぜんちがいます。
ほぼ日が上場して、そのことを
あらためて実感した気がします。
いやぁ、きょうはおもしろかったなぁ。
またこういうのやりましょうよ。
岩永
ぜひぜひ、とてもたのしかったです。
ありがとうございました。
今泉
どうもありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。
(おわります。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました!)

今泉泰彦

みずほ証券株式会社 取締役会長。
1956年生まれ。
1980年、東京大学経済学部卒業後、入社。
株式会社みずほフィナンシャルグループ副社長執行役員、
株式会社みずほ銀行取締役副頭取などを歴任後、
2014年に「みずほ証券株式会社」の
取締役副社長兼副社長執行役員 法人営業統括副社長、
2016年に取締役会長に就任。
現在に至る。

岩永守幸

株式会社東京証券取引所 取締役 常務執行役員。
1961年生まれ。
1984年、慶應義塾大学卒業後、東京証券取引所入社。
90年米国ロチェスター大学でMBA所得。
東証と大証の経営統合後に発足したJPXにおいて、
CFOとしてグループ財務戦略の策定や
組織運営におけるコスト適正化を推進。
現在は、マーケット部門の責任者として
市場運営を総括すると共に、
投資者層拡大の責任者も務めている。