ウォルター・ウィック × 糸井重里  A Pure Joy For Me  『ミッケ!』の作者と翻訳者の対談。
 
#4 私にとって純粋なよろこびです。
 
糸井 やっぱり、写真からぜんぶがはじまるんですね。
撮れた1枚の写真のなかに、すべてがある。
いちばん重要なのは写真なんですね。
ウィック そのとおりです。
やっぱり、突き詰めていくと、
写真家としての自分がいちばんです。
前提としては、前後のページと
きちんとつながりがあったり、
ゲーム性があったり、
物語性があったりという要素も
違ったレベルでもちろん大事なんですけど、
ぜんぶのなかで大事なのは写真です。
写真だけを飾って、
ことばも、ものを探す遊びも抜きにして、
それ単体で自分が満足できるような
ものでなくてはならない。
糸井 なるほど、なるほど。
ウィック 私の写真は、美術の厳格な決まりというか、
伝統みたいなものに
沿っているものではありません。
なぜなら、自然主義的な感覚といいますか、
ありのままにしたいんです。
こういう部屋がほんとにあるんだなと
信じられるような感じに。
自然な写真であるために、
ドラマティックな構図が
犠牲になってもかまわないんです。
もっというと、そういうふうに撮ることこそが、
自分の特別なところなんじゃないかな、と。
糸井 ぼくは写真については素人なんですが、
おっしゃっていることにはすごく共感します。
ウィック ああ、うれしいです。
だから、私の写真を子どもが見たとしたら、
つくり込まれたものだと
思ってほしくないんです。
そうじゃなくて、どこかにこういう世界が
あるんだな思えるような、
そういう写真にしたいんです。
糸井 だからこそ、読む人は、
その写真に没入することができるんですね。
目の前の写真に写った世界を
自然なものとして受け止めたからこそ、
そのなかで安心して
「あれはどこだ?」と探すことができる。
ウィック そうですね。
糸井 写真から、はじまるんですね、やっぱり。
ことばも写真から導かれるし、
写真に写らないものをいくら準備しても無駄だし、
写真以外のものは、変えることもできる。
ウィック まったくそのとおりです。
糸井 この本にとって、たった一つのルールが
写真なんだっていうことがよくわかる。
ウィック はい。
糸井 だからこそ、その写真を撮るということは
たいへんな作業なんでしょうけど。
ウィック そうですね。
思いついて、ストーリーボードを描いて
作業をはじめたときは
とってもたのしいんですけど、
工程が進むにつれて、追い詰められてくる(笑)。
実際に撮影しようとすると、
ストーリーボードにはいろんなものが
抜け落ちていることがわかるんです。
だから、模型もできて、
ほとんどの要素がそろってるのに、
たった1センチ四方の場所がうまくうまらなくて
そのプロジェクト全体が
危うくなってしまったり‥‥。
そんなときは、もう、すべてを
投げ出してしまいたくなります。
だって、6人のスタッフを雇ってて、
彼らがスタジオで私の指示を待っているのに
私は1センチ四方の場所をどうすればいいのか
わからなくて悩んでいるんですから。
糸井 まさに、作家の苦悩ですね。
ウィック 最新刊の『タイムトラベル』でも
ずいぶん苦労しました。
たとえば、ストーリーボードを描いたときには、
このあたりをどうするか、
まったく決めていないんです。
けっきょく、手伝ってくれたアーティストが
つくり込んでくれたんですけど。
糸井 あ、ここにつかってるのは
ババロアの型かなにかですね。
ウィック そうです、そうです。
同じものをここでもつかってます。
糸井 これも、最初は決まってなかったわけですね。
ウィック そう。なんか、いろいろやっているうちに
これに落ち着きました。
糸井 おもしろいなぁ。
ウィック (笑)
糸井 ウィックさん、仕事はたのしいですか。
ウィック ええ、たのしいです。
苦しいところ、投げ出したくなるところを
なんとか乗り越えて、ひとつひとつのものの
置き方、構成を決めていく‥‥。
それはもう、私にとって、純粋なよろこびです。
糸井 ああ、いいですねぇ。
ウィック どのオブジェクトを、どこにどう置くか。
小さな要素をひとつずつ検証して、
ぜんぶの位置を決めていく。
そういうこと、大好きです。ずっとやってられます。
‥‥ああ、いま見てたら、
ここの写真の、ここのブロックを
もう少し減らせばよかったかな‥‥と‥‥
いや、まぁ、いいんですけど。
糸井 ははははは。
もう、最後の質問にしますけども、
ウィックさんが『ミッケ!』に
つかっているエレメントのなかで、
一番好きなものはなんですか?
ウィック ‥‥「ビー玉」ですね。
ほら、ここにもあります。
ここにも、あちこちにある。
たぶん、何年も何年も前から、
私の写真のなかにずっと登場していると思います。
糸井 ああ、ビー玉かぁ。
ウィック ビー玉って、それだけでひとつの惑星のようで、
覗き込むと、そのなかに
独自の宇宙が広がっているようで。
糸井 うん、うん。
ウィック 私はやっぱり、シンプルなものが好きなんですね。
単純な積み木のブロックとか、素朴なオモチャ。
最近のオモチャは、遊び方とか目的が
はじめから規定されているようで
あまり好きじゃないんです。
なんというか、もっと広がりのあるものがいい。
糸井 ぼくもまったく同じですね。
ウィック ああ、そうですか。
糸井 ぼくは、「ボール」がいちばん好きなんですよ。
ウィック ああ、ただのボール。はい。
糸井 ボールはなんでもできる。
ウィック うん、いいですね。
糸井 ビー玉も同じですね。
ウィック そうです、そうです。
糸井 いや、とってもおもしろいお話でした。
『ミッケ!』のシリーズって、
あと何冊くらい続くんだろう?
ウィック わかんないですねぇ(笑)。
糸井 (笑)
(お読みいただき、ありがとうございました。)
 
こんなものをつくってみました。 すごく時間があまってたらあそんでください。  ほぼにち ミッケ!
2013-03-01-FRI
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