「代々木公園でみちくさ」編  今回の先生/柳生真吾さん プロフィールはこちら
名前その8 スミレの仲間
雨上がりの代々木公園。
吉本さんが、またスッとしゃがみこみました。
立ち止まる柳生さんも、ゆっくりとしゃがみます。
さて、吉本さんが見つけた次のみちくさは?
 
吉本 ね、柳生さん、
こんなちっちゃな子がいます。
柳生 ん? どこですか?
吉本 ほら、ここに。
柳生 はいはい、
ああ、これはかわいいや。
吉本 かわいい。
連れて帰りたくなっちゃいますね(笑)。
柳生 ね(笑)。
スミレの仲間ですよ。
 
スミレの仲間
分類/スミレ科 スミレ属   開花期/3〜5月
吉本 やっぱり。
スミレかなあと思って。
なんていうスミレなんですか?
柳生 うーん、スミレはねえ、種類が多くて
ちょっと特定できないですね。
吉本 そうなんですか。
柳生 でもほら、ここ見てください。
見えるかな?
白い花だったと思うんですが
これ、スミレのタネがはじけたあとなんです。
 
吉本 はじけるんですか。
柳生 うん、3つにはじけるんです。
こうやって、ぱーんと。
 
吉本 へええ〜。
柳生 音が聞こえるぐらい、パチーンてはじけるんです。
で、はじけたタネはどうなると思います?
吉本 それは‥‥発芽しますよね。
柳生 はい。その発芽の場所がおもしろいんです。
はじけたタネはね、アリが運ぶんですよ。
吉本 アリ? 昆虫の?
柳生 そう。
スミレのタネをよく見ると、
まわりに白いつぶが、ちっちゃいのが、
ちょんとついてるんですね。
 
吉本 なにか蜜のような?
柳生 あれは、アリにとっては
ユンケルとかゼナみたいなやつなんでしょうね。
吉本 あ、元気のもと(笑)。
柳生 そう、滋養強壮剤なんですよ。
それをアリがせっせと運ぶでしょ。
で、巣の中で食べる。
そして、巣の中で発芽するんです。
吉本 へええええ。
柳生 植物っていろんな方法で自分のタネを
遠くまで広げようとするんですど、
アリに運ばせるって、なんだかいいですよね。
吉本 そうですか、アリさんに‥‥。
柳生 だから、スミレのあるところには
必ずアリの巣があるはずなんです。
吉本 なるほど‥‥この、もごもごした土は?
柳生 ああ、穴、あるじゃないですか。
ね? ほら、これアリの巣ですよ。
 
日本にはスミレの種類が、50以上あるのですとか。
それがスミレだと見わけるのもむずかしいですが、
いまは「スミレのタネはアリが運ぶ」
ということだけでも、おぼえておきましょう。
スミレ、奥深いですねえ。
花の咲く季節に、
またここで取り上げられたらいいなと思います。

次のみちくさは、来週の月曜日に。
月・水・金でお届けいたします。
 
吉本由美さんの「スミレ」
 

買い物にはいつも裏道を通って行く。
ある年の春、その途中にある古いお宅の石垣に
スミレがいくつも咲いていた。
石の間の、土などひとかけもないように見える隙間に
点々と根付いていた。
このお宅にはもう人が住んでいない。
何年も前から戸が閉ざされている。
だからスミレに所属先はないと見た。
少しならウチに来てくれてもいいのではと思った。

翌日、竹串、湿らせたティッシュペーパー、
ビニール袋を持って抜きに行く。
元気の良さそうなものを何株か、
根のあたりを竹串でこちょこちょくすぐり、
弛んだところをそっと抜いて、ペーパーに包み、
ビニール袋に入れて持ち帰った。
2年後にはウチの庭の片隅がスミレ畑となり、
春先には紫色の花が咲いて
微かにだけれどいい匂いを漂わせるようになった。

だからこれはニオイスミレだろうと思う。
しかしくっきりしたハート型の葉を思えば、
タチスボスミレのようでもある。
色も形も一番似ているのは洋スミレだが、
洋スミレに匂いがあるのかはよく判らない。
スミレに関しては牧野先生のみならず
その他諸々の植物図鑑で調べてみたが、
とにかく種類が多いし異なる点も微妙なので、
いつも頭がぼんやりしてきて、判らず仕舞いになる。

しかしここで本当は"スミレ"ではなく"菫"と書きたいな。
菫という文字を見るだけで、
あの独特の、冷たく沈んだ甘い匂いを嗅いだ気がする。
す・み・れという響きを聴いただけで、
宵の薄闇に佇んでいる気がしてくる。
おお、青褪めた小さきヴィオラよ!
‥‥と、そのロマンティックぶりが好みなのだけれど、
しかし名前の由来は、
今咲こうとしている花の形が大工さんの使う
「墨入れ」に似ているから、と超現実的。
すみいれ‥‥‥すみれ‥‥‥確かにねえ。

2008-12-19-FRI
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