HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー

画家junaidaさんの最新作は
「絵本」でした。「画集」ではなく。
ひとりの画家があたためていた
アイディアとコンセプトは、いかにして、
一冊の「絵本」として結実したのか。
その旅路、道行き、具体化の過程を、
junaidaさん、この絵本をデザインした
グラフィックデザイナーのハル・ユデルさん、
福音館書店の編集者・岡田望さんに
振り返ってもらいました。
絵本のタイトルは『Michi』と言います。
ひとりの少年とひとりの少女が、
色とふしぎにみちた世界を、
真っ白い道に導かれて旅する物語です。
担当は「ほぼ日」奥野です。

第5回 世界を自由に旅してほしい。

──
ようやくできあがった本を見て、
岡田さん、どうですか。
岡田
いやあ、本当にうれしいですね。
とってもいい出来栄えで。

でも、今から振り返ると、
このかたちしかなかったなって
思うんですけど、
実際は、いろいろ別案があって。
junaida
ねえ(笑)。
──
junaidaさんの最初のアイディアは、
いろんな「道」をたどって、
最終的に、
こういうかたちにたどり着いたと。
ハル
でも「ケース」は最初からあった。
──
ああ、そうなんですよね。

最後の最後で「つくろう」と決めた
「特装版」のケースは、
アイディアとしては最初からあった。
ハル
そう。ね、どちらからも読める本を
どうやってつくろうか、
いろいろ考えていたときに、
真ん中から開く、
前も後もないケースに入れておけば、
シンメトリーが実現できる‥‥。
──
でも、コストやらなにやらが合わず、
いったんは「お蔵入り」になり。
岡田
と思ったら、発売1ヶ月前に、
ほぼ日さんの
junaidaさん原画展の目玉のひとつとして、
つくっていただけることになって。
──
不死鳥のように蘇った、と(笑)。

中央で開く「印籠型」という形状も
めずらしいと思うんですが、
それ以上に、
あの「特装版」のケースって、
「本を収めるハコ」以上のものだと
思うんです。
junaida
ああ、そうかもしれない。
──
本は本として完成しているわけです。
ひとつの世界観として。

でも、その本を、
あのケースに収めるということで、
気持ちの面で、もうひとつ、
何かがプラスされる気がしたんです。
junaida
やっぱり、最初のコンセプトの中に
あったものですから、
ある意味では、
絵本を「完成」させてくれるような、
そういうものかもしれない。
──
なるほど。
ハル
本のケースって、
ふつうは、片方がクローズでしょう?
──
ええ、で、反対側が開いてますよね。
ハル
そういうハコから、
絵本がスライドして出てきたら‥‥
まぁ、自然に、
出てきた方の面が表紙になりますね。
──
前と後ろ、表と裏が決まっちゃう。
ハル
でも、ああやって印籠型にすれば、
前と後ろ、表と裏はなくなるから。
junaida
どっちから読んでもいいというのが、
やっぱり最大のコンセプトなので。

男の子側から読んでもいいし、
女の子側から読んでもいいんです。
本というものの型や制約から、
できるだけ自由につくりたかった。
──
あのケースは、
そのコンセプトを補完してくれてる、
ということですね。
junaida
そうなんです。
その上で、絵の世界、物語の世界に、
すっと入っていってもらいたい。

そして、世界に入ってからは、
自由に歩きまわってもらいたいです。
岡田

本来自由であるはずの「本」というものの、
とても大事な「かたち」のところで、
わたしたちは、
流通のためとか、慣例などの理由で、
いろんな制約をかけてしまっていたことを、
今回、あらためて痛感しました。

しかも、それがほんとうにその本にとって
必要なのか、
その本の大切なところを損なっていないか、
そういうことも考えないまま、
無自覚に従順になってしまっていたんです。

──
つまり、あのケースは、
絵本や、読者や、本の読み方というものを
より自由にしてくれるような‥‥。
junaida
そうですね。
──
物語そのものもとても自由ですけど、
本のつくりにも、
自由に読んでいいってメッセージが、
込められているんですね。
junaida
はい。
──
何と言うか、あのケースって、
その存在に必然性を感じるんです。
junaida
ただの「豪華ボックス」ではなくて、
最初のコンセプトから生まれて、
ハルさんや岡田さんと
一緒に道を歩いてきたケースなので。
──
ケースの両面の絵を、
男の子と女の子の後ろ姿にしたのは、
どうしてですか。

絵本の中身とは、
ガラッと印象がちがいますよね。
junaida
絵本の絵が細かいので、
ケースも、同じ世界観で描くという
考えもありましたが、
ハルさんから、
「男の子と女の子だけを、
 引っ張ってくるのもいいかも」と。
──
なるほど。
junaida
で、その方向性で考えているうちに、
ふたりの後ろ姿で、
シンプルで強いものにしよう‥‥と。
ハル
表紙と本の中身とで、
スケールが、急に変わるんです。

そこが、すごーくおもしろいと思う。
──
一貫して、顔を描いてませんね。
ケースの絵も「後ろ姿」ですし。
junaida
はい、絵本の中でも、
正面からはっきりは描いてません。

読んでくれる人たちも、
そのほうが自分を投影しやすいと
思ったからです。
──
ああ、たしかに。
junaida
男の子なのか、女の子なのか、
どちらかに
自分を重ねて読んでもらえると
いいなあと思います。

この本を開いたときの気持ちで、
きりっとした顔をしてるのか、
にこやかな顔をしてるのか、
イメージする楽しみもあるかなと。
──
どういう男の子なのか、
どういう女の子なのか、
とっても豊かに想像させますよね。

雑誌の表紙にしたって、
アルバムのジャケットにしたって、
後頭部ってなかなかないけど、
絵だからこそ成立する世界観です。
junaida
顔を描いてしまうことで、
不自由になる部分が、あります。

よくもわるくも、
キャラクターになってしまうので。
──
急にしゃべり出しそうな。
junaida
そう、顔や表情を描くことによって、
どこそこの誰々さん‥‥
つまり、特定の個人になるんです。
──
そういったつくり手側の思いや、
絵の描き方、本のつくりが、
「読む人を自由にさせてくれる絵本」
という最初のコンセプトに、
みごとに、つながっているんですね。
ハル
何をイメージしてもいいから、
何回でも、
おもしろがれる絵本だと思う。
junaida
自分で物語を考えてほしいですね。

今は、一方通行で
与えてくるメディアが多いから、
そういうことは苦手だって人も
いるかもしれないけど。
苦手も含めて自由なんだと思って。
──
特装版を読む人は、
男の子か女の子の「後ろ姿」から
物語世界へ足を踏み出し、
どこへ続くのかもわからない道を、
歩いていくんですよね。
junaida
ええ。
──
そうすることで、
この物語は、自分の話でもあると、
いっそう思える気がします。
junaida
うん、うん。
岡田
自分を投影しやすいですよね。
junaida
そうやって、物語の主人公になって
知らない道をたどって
知らない場所へ行って、
ドキドキしながら、
ふしぎな世界を、旅してほしいです。
──
知らない場所に行くって、
子どもたちの毎日そのものですしね。
junaida
そうですね。この物語のなかでは、
最短距離をとってもいいし、
寄り道、回り道をしてもいいです。

行ったことのない道をわざと選んで
思いがけない出会いにつながる、
そんな「体験」のできる、
自由に旅してもらえる本になったら、
いいなあと思っています。
<おわります>
2018-11-25-SUN

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『Michi/みち』原画展
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画家・junaidaの新作絵本『Michi』を
とくべつなケースに収めました。