- ──
- ようやくできあがった本を見て、
岡田さん、どうですか。
- 岡田
- いやあ、本当にうれしいですね。
とってもいい出来栄えで。
でも、今から振り返ると、
このかたちしかなかったなって
思うんですけど、
実際は、いろいろ別案があって。
- junaida
- ねえ(笑)。
- ──
- junaidaさんの最初のアイディアは、
いろんな「道」をたどって、
最終的に、
こういうかたちにたどり着いたと。
- ハル
- でも「ケース」は最初からあった。
- ──
- ああ、そうなんですよね。
最後の最後で「つくろう」と決めた
「特装版」のケースは、
アイディアとしては最初からあった。
- ハル
- そう。ね、どちらからも読める本を
どうやってつくろうか、
いろいろ考えていたときに、
真ん中から開く、
前も後もないケースに入れておけば、
シンメトリーが実現できる‥‥。
- ──
- でも、コストやらなにやらが合わず、
いったんは「お蔵入り」になり。
- 岡田
- と思ったら、発売1ヶ月前に、
ほぼ日さんの
junaidaさん原画展の目玉のひとつとして、
つくっていただけることになって。
- ──
- 不死鳥のように蘇った、と(笑)。
中央で開く「印籠型」という形状も
めずらしいと思うんですが、
それ以上に、
あの「特装版」のケースって、
「本を収めるハコ」以上のものだと
思うんです。
- junaida
- ああ、そうかもしれない。
- ──
- 本は本として完成しているわけです。
ひとつの世界観として。
でも、その本を、
あのケースに収めるということで、
気持ちの面で、もうひとつ、
何かがプラスされる気がしたんです。
- junaida
- やっぱり、最初のコンセプトの中に
あったものですから、
ある意味では、
絵本を「完成」させてくれるような、
そういうものかもしれない。
- ──
- なるほど。
- ハル
- 本のケースって、
ふつうは、片方がクローズでしょう?
- ──
- ええ、で、反対側が開いてますよね。
- ハル
- そういうハコから、
絵本がスライドして出てきたら‥‥
まぁ、自然に、
出てきた方の面が表紙になりますね。
- ──
- 前と後ろ、表と裏が決まっちゃう。
- ハル
- でも、ああやって印籠型にすれば、
前と後ろ、表と裏はなくなるから。
- junaida
- どっちから読んでもいいというのが、
やっぱり最大のコンセプトなので。
男の子側から読んでもいいし、
女の子側から読んでもいいんです。
本というものの型や制約から、
できるだけ自由につくりたかった。
- ──
- あのケースは、
そのコンセプトを補完してくれてる、
ということですね。
- junaida
- そうなんです。
その上で、絵の世界、物語の世界に、
すっと入っていってもらいたい。
そして、世界に入ってからは、
自由に歩きまわってもらいたいです。
- 岡田
-
本来自由であるはずの「本」というものの、
とても大事な「かたち」のところで、
わたしたちは、
流通のためとか、慣例などの理由で、
いろんな制約をかけてしまっていたことを、
今回、あらためて痛感しました。
しかも、それがほんとうにその本にとって
必要なのか、
その本の大切なところを損なっていないか、
そういうことも考えないまま、
無自覚に従順になってしまっていたんです。
- ──
- つまり、あのケースは、
絵本や、読者や、本の読み方というものを
より自由にしてくれるような‥‥。
- junaida
- そうですね。
- ──
- 物語そのものもとても自由ですけど、
本のつくりにも、
自由に読んでいいってメッセージが、
込められているんですね。
- junaida
- はい。
- ──
- 何と言うか、あのケースって、
その存在に必然性を感じるんです。
- junaida
- ただの「豪華ボックス」ではなくて、
最初のコンセプトから生まれて、
ハルさんや岡田さんと
一緒に道を歩いてきたケースなので。
- ──
- ケースの両面の絵を、
男の子と女の子の後ろ姿にしたのは、
どうしてですか。
絵本の中身とは、
ガラッと印象がちがいますよね。
- junaida
- 絵本の絵が細かいので、
ケースも、同じ世界観で描くという
考えもありましたが、
ハルさんから、
「男の子と女の子だけを、
引っ張ってくるのもいいかも」と。
- ──
- なるほど。
- junaida
- で、その方向性で考えているうちに、
ふたりの後ろ姿で、
シンプルで強いものにしよう‥‥と。
- ハル
- 表紙と本の中身とで、
スケールが、急に変わるんです。
そこが、すごーくおもしろいと思う。
- ──
- 一貫して、顔を描いてませんね。
ケースの絵も「後ろ姿」ですし。
- junaida
- はい、絵本の中でも、
正面からはっきりは描いてません。
読んでくれる人たちも、
そのほうが自分を投影しやすいと
思ったからです。
- ──
- ああ、たしかに。
- junaida
- 男の子なのか、女の子なのか、
どちらかに
自分を重ねて読んでもらえると
いいなあと思います。
この本を開いたときの気持ちで、
きりっとした顔をしてるのか、
にこやかな顔をしてるのか、
イメージする楽しみもあるかなと。
- ──
- どういう男の子なのか、
どういう女の子なのか、
とっても豊かに想像させますよね。
雑誌の表紙にしたって、
アルバムのジャケットにしたって、
後頭部ってなかなかないけど、
絵だからこそ成立する世界観です。
- junaida
- 顔を描いてしまうことで、
不自由になる部分が、あります。
よくもわるくも、
キャラクターになってしまうので。
- ──
- 急にしゃべり出しそうな。
- junaida
- そう、顔や表情を描くことによって、
どこそこの誰々さん‥‥
つまり、特定の個人になるんです。
- ──
- そういったつくり手側の思いや、
絵の描き方、本のつくりが、
「読む人を自由にさせてくれる絵本」
という最初のコンセプトに、
みごとに、つながっているんですね。
- ハル
- 何をイメージしてもいいから、
何回でも、
おもしろがれる絵本だと思う。
- junaida
- 自分で物語を考えてほしいですね。
今は、一方通行で
与えてくるメディアが多いから、
そういうことは苦手だって人も
いるかもしれないけど。
苦手も含めて自由なんだと思って。
- ──
- 特装版を読む人は、
男の子か女の子の「後ろ姿」から
物語世界へ足を踏み出し、
どこへ続くのかもわからない道を、
歩いていくんですよね。
- junaida
- ええ。
- ──
- そうすることで、
この物語は、自分の話でもあると、
いっそう思える気がします。
- junaida
- うん、うん。
- 岡田
- 自分を投影しやすいですよね。
- junaida
- そうやって、物語の主人公になって
知らない道をたどって
知らない場所へ行って、
ドキドキしながら、
ふしぎな世界を、旅してほしいです。
- ──
- 知らない場所に行くって、
子どもたちの毎日そのものですしね。
- junaida
- そうですね。この物語のなかでは、
最短距離をとってもいいし、
寄り道、回り道をしてもいいです。
行ったことのない道をわざと選んで
思いがけない出会いにつながる、
そんな「体験」のできる、
自由に旅してもらえる本になったら、
いいなあと思っています。
<おわります>
2018-11-25-SUN