HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー アイディアのたどる、未知の道。ーjunaidaさん最新作『Michi』はいかにして「絵本」になったかー

画家junaidaさんの最新作は
「絵本」でした。「画集」ではなく。
ひとりの画家があたためていた
アイディアとコンセプトは、いかにして、
一冊の「絵本」として結実したのか。
その旅路、道行き、具体化の過程を、
junaidaさん、この絵本をデザインした
グラフィックデザイナーのハル・ユデルさん、
福音館書店の編集者・岡田望さんに
振り返ってもらいました。
絵本のタイトルは『Michi』と言います。
ひとりの少年とひとりの少女が、
色とふしぎにみちた世界を、
真っ白い道に導かれて旅する物語です。
担当は「ほぼ日」奥野です。

第2回 道を途切れさせないために。

──
担当編集として、岡田さんは、
けっこうなご苦労があったのかなと、
造本を見ると、思うのですが。
岡田
そうですね(笑)。
──
本は、はじめのイメージのとおりに、
できあがった感じですか?
岡田
いや、こういう仕上がりになるとは、
想像できてなかった部分もあります。
──
当初の想定とは、けっこうちがった?
岡田
基本のコンセプトは変わりませんが、
やはり、つくりや仕様の部分で。
──
思い切ったことをしてますもんね。
岡田
そうですね、かなり。
junaida
この本のアイデアと、
そのアイディアを実現したい思いと、
そういうものが
たくさん詰まっていたので、
最初から、
ふつうにつくることができない本に
なってしまっていたんです。
──
本の「前後」がなかったりとか。
岡田
そこがですね‥‥(笑)。
junaida
いわゆる「両A面」じゃないですが、
どちらの側も
等しく「表紙」にしたかったんです。

その「無理難題」に、岡田さんと
ハルさんが取り組んでくださって。
──
どっちの側からも読める絵本‥‥を、
流通に乗せるためには、
思った以上に、
超えるべきハードルが多かった、と。
岡田
そうですね、ふつうの本の場合には
バーコードや価格を、
裏表紙に印刷するわけですけど、
それをやってしまうと、
必然的に、
そちらが「後ろ」になっちゃうので。
──
絵本の「前後」が、決まってしまう。
どうされたんですか。
岡田
きれいに剥がせるステッカーを貼り、
そこに、すべてを印刷しました。
──
すべて。
岡田
はい、すべて。
──
バーコードだけを
剥がせるステッカーに印字した本は、
たまに見ますけど。
岡田
そうですね。

今回は価格やバーコードだけでなく、
版元名や「ISBN」も印刷し、
さらに
「このシールは、剥がしてください」
という但し書きまで印刷しました。
──
つまり「このシールは剥がせます」
ではなく、
もう「すぐ剥がして!」と(笑)。
junaida
はい、「お願い」の感じで(笑)。
岡田
これが‥‥ちょっと異例だったので、
ドキドキしてたんですけど、
会社が、OKを出してくれたんです。

版元として、
ありがたい判断をしてくれましたね。
ハル
オクヅケ‥‥もね?
岡田
あ、奥付。そこもひと工夫しました。
──
奥付とは、本のいちばん最後にある、
著者名とか、発行年月日とか、
何刷とかの情報が書かれている場所。

ふつうの本だと、
奥付があるほうが後ろになりますね。
岡田
そうですね、和書では、ほとんどが。

なので、ハルさんと相談して、
前にも後ろにも奥付を入れたんです。
日本語の奥付と、英訳した奥付を。
──
なるほど。
junaida
話が前後しますが、本のタイトルは、
ローマ字で『Michi』ですけど、
反対側に、
ひらがなで「みち」と書いたんです。

どういうことかというと、
当初はひらがなで考えてたんですが、
福音館書店さんには、
すでに『みち』という絵本があって。
──
へえ、どなたの‥‥。
岡田
五味太郎さんのデビュー作です。
──
そのかたの処女作とかぶったんですか!
ある意味、すごい。
junaida
でも、児童書にするっていう意味でも
平仮名の『みち』も諦めがたく、
「せっかく両A面の絵本なんだから」
という思いもあって、
「オフィシャルタイトルはローマ字で、
 もう片方の表紙に
 ひらがなで『みち』と書きましょう」
ということになったんです。
──
つまり、日本語の「みち」の側に‥‥。
junaida
そう、日本語の奥付を、
ローマ字の側に、奥付の英訳を置いて。
──
きれいにまとまりましたね、むしろ。
junaida
本の前後がないこともキープしつつ、
結果として、
デザイン的な整合性も取れたんです。
──
こうして福音館書店としても、
めずらしい絵本ができあがった、と。
岡田
はい。ないですね、こういう本は。

まだまだあって、たとえば、
内容的に、
ふつうの製本ができなかったんです。
──
物語それ自体が、製本に影響する?
岡田
ふつうの本みたいに製本すると、
「ノド」‥‥
つまり紙が閉じてある真ん中の部分で
「道が途切れてしまう」ので。
──
うわあ、なるほど!

つまり、右ページと左ページの間に、
切れ目ができてしまう。
岡田
そうすると「道」としては、
いちどそこで切れちゃってますよね。

ふつうの製本では、左右のページを
別の紙に印刷することになるので、
道が、本当には、つながらない‥‥。
──
はあー‥‥。
岡田
そこで、右のページと左のページを
一枚の紙に印刷する
「合紙」という製法をとったんです。
──
通常の製本法でも、見た目上は
道が続いてるようにできると思いますが、
これはもう、
つくり手側の気持ち的な問題ですよね。
岡田
そうですね、通常の製本の仕方ですと
どうしても多少はズレますし、
「ノドに食われる」って言いますけど、
綴じの部分に絵が食いこんで、
見えなくなる部分も、あると思うので。
junaida
ずっと目で追ってきた道が、
ノドでいったん途切れてしまうんです。

それだけはやりたくなかったというか、
その「ノド」の部分で、
急に、現実に戻される気がしたんです。
──
せっかく一本の道を歩いてきたのに。
junaida
でも、合紙の製法をとれば、
パタンと綺麗に開くことができるので、
どのページでも、
道が、完全に一本につながるんです。
岡田
合紙は、赤ちゃん向けの絵本ですとか、
ちいさなサイズの絵本では
やってるんですが、
このサイズの絵本で合紙、というのは、
ちょっと前例がありませんでした。
──
手間のかかる製法なんでしょうね。
岡田
裏を印刷しないので、ふつうの倍です。

一般的な製法の本では、
紙の「裏表」に印刷をしていますけど、
合紙の裏は印刷せずに、白いまま。
junaida
表にばっかり印刷して、
白い裏と裏を貼り合わせて本にします。

技術もコストも手間もかかる製法です。
──
それもこれも、
一本の「道」を途切れさせないために。
junaida
そうです。
──
物理的にも、気持ち的にも。
junaida
はい。
<つづきます>
2018-11-22-THU

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