第7回:「好きやから」

糸井
テレビの中の又吉さんは、
芸人さん同士で言い合ってる言葉を借りると、
「おまえ、同じギャラでずるいやんか」
という役をちゃんとやってますよね。
あれ、ほかの人では多分できないんです。
「あんまりしゃべんないで終わりました」
という役ができるって、すごいですね。
又吉
怖いですね、けっこう。
糸井
怖いところ渡ってますよね(笑)。
又吉
でもまあ、基本的には
「無理しない」ようにしているんです。
ネタを磨くとか文章を書くとかの努力は
苦痛でないし、好きだからやるんですけど、
自分を自分以上に見せる努力というのは
絶対うまくいかないと思ってるんです。
相方とかぼくの周りの人は
みんなすごくがんばるんですけど、
それぞれ特性があるんですよね。
相方とぼくがもし同じクラスにいたら、
間違いなく相方が人気者になってるんで、
その横でぼくが人気者みたいな動きをしても、
ただ気持ち悪くなるだけなんで。
糸井
(笑)
又吉
まぁ、気持ち悪くてもいいんですけど。
たまにやりますし。
糸井
「わざとはずしました」というのは
やってますよね。
又吉
やってますね。
糸井
あと、芸人さんが順番に
ネタをやるようなときとか、
とんでもない振り方されて、
できないけどやんなきゃってとき、
逃げないでやりますよね。
で、「ああ、できませんでした」
っていうところまでお笑いなんですよね。
又吉
そうですね(笑)。
糸井
あれができるのは、
プロだからでしょうね。
又吉
あれは‥‥好きやからですかね。
糸井
好きやから。
又吉
はい。
糸井
ああ、「好きやから」。
いい言葉ですね。
又吉
便利なんです。
「好きやから」。
糸井
本当なんでしょうね、きっと。
又吉
はい。
糸井
嘘で「好きだ」って言ってる人、
山ほどいますよ。
又吉
本当ですか(笑)。
糸井
うん。世の中はやっぱり、
「好き」と言った者勝ちですから。
よく冗談で言うんだけど、
釣り雑誌の飲み会とかやると、
どっちが釣りが好きかで、
「俺のほうが好きで、
 おまえは好きじゃない!」みたいに、
罵り合いになることがあるそうなんです。
下手すると殴り合いになるくらいの。
又吉
へぇー。
糸井
おかしいでしょう、それ。
「好き」って
そういうものじゃないでしょう(笑)。
又吉
そうですよね。
糸井
だけど、そこに順番をつけると、
「俺のほうが好きだ」って
やっぱり言いたくなるんでしょうね。
マッチョイズムと
価値判断って本当は別なんですが。
又吉
ぼくも、そこに疑問を持っていたんです。
たとえばよく‥‥
「私はこのバンドを昔から好きだ」。
糸井
言う言う(笑)。
又吉
いや、いいんですよ。
昔から支えてるファンはいますし。
でも、それ言いだしたら、
ぼくの年齢で太宰が好きって言ったら
オールドファンに絶対勝てないんです。
糸井
そうです。
ファンがいますからね、昔から。
又吉
はい。
でも、そういうことじゃないんです。
糸井
違うよね。
又吉
たとえば、ぼくは中2ぐらいから
太宰が好きで読んできましたけど、
もしかしたら昨日『人間失格』を
はじめて読んで興奮してる中学生がいたら、
ぼくより好き度が高い可能性がありますよね。
だから、順番でもないし‥‥。
糸井
ないですね。
又吉
誰がいかに好きかでもないし、
それぞれの向き合い方があるだけで。
糸井
比べる必要のないものなんです。
でも、誰かが「好き」と言うと、
「おまえの好きはどれほどかな」
って言うやつが必ず現れるんですよ(笑)。
又吉
現れますね。
糸井
あれで、次に好きになるはずだった人は、
避けて通るようになりますよね。
又吉
そうなんです。
「あ、もうここの世界は
 踏み込んじゃダメみたい」
ってなっちゃいますからね。
糸井
又吉さんが例に出された太宰も、
いま読むとまたおもしろいです。
実は、ぼくの高校時代の現代国語の先生が
太宰治の担当者だったんですよ。
又吉
へぇ!
糸井
元編集者で、ちょっとしたエピソードを
国語の授業中に語ってくれるんですけど、
それがおもしろくて。
その縁があって読みはじめましたが、
とっても親切な大衆小説作家だと思うんです。
それをなんかみんなが抱え込んじゃって、
つまんなくしたってところがあって。
又吉
太宰はサービス精神が
すごいんですよね。
糸井
すごい。
で、やっぱりあの当時も、
毒だって言われながらも、
キャピキャピ言いながら人は読んでたんです。
そのことをいま意識して読んだら
おもしろいですよねえ。
又吉
おもしろいです。
糸井
吉本隆明さんも太宰が大好きで、
東工大で演劇をやってるときに
台本を太宰治本人に
見せに行ったことがあるそうです。
で、やっぱりファンとして
そのことがすごくうれしかったと。
そのときに
「男の本質はマザーシップだよ」って
太宰が言ったんだって。
それを吉本さんが、うれしそうに
「太宰がそう言ったんですよ」って言ってね。
そういうファンを作る人でしたね。
又吉
読めば読むほど、
誤解されてる作家やなと思いますね。
太宰は笑える作品もありますし。
糸井
『お伽草子』とかね。
漫画の原作ですよね、あれ。
写真
(つづきます)
2015-04-07-TUE