CCC増田宗昭+糸井重里 カフェの視線。

第4回 片思いが交差する場所

糸井
たとえば、アメリカ人は
視線だけでつくられてる状況とか関係を
「コミュニケーション」とは
呼ばないと思うんですよ、たぶん。
増田
そうでしょう‥‥ね。
糸井
でも、カフェという場所では
若者、子ども、
増田さんのいうプレミアエイジの人々、
それに犬‥‥‥とかね、
世代とか種類とかを越えた人たちが
いっしょの空間に
混じって存在することができますよね。
増田
うん。
糸井
お年寄りが若者を眺めてたり、
赤ん坊が
おじいちゃんに笑いかけたり、
犬がサラリーマンをじっと見てたり‥‥とか、
そこでは
さまざまな「無言のクロストーク」が
行なわれてると思うんです。
増田
ええ、ええ。
糸井
それって、りっぱなコミュニケーションだし、
カフェの「視線の文化」だなぁって
今、増田さんとしゃべってて思ったんですよ。
増田
なるほど、なるほど。
糸井
だから増田さん、答え出てるじゃんって。
増田
そうか‥‥でも、今ぼくがカフェって言ったのは、
原体験に原宿の「レオン」があるんです。

糸井
あ、そうなんですか。
増田
表参道と明治通りの交差点にあった
セントラルアパートの1階のカフェ。

1970年代に、
有名なクリエイターが集まっていて、
糸井さんの事務所もあって。
糸井
ええ、あー、そうですか。
増田
うん、大学を卒業して、東京へ出てきて、
いちばん最初に行った場所ですから。
糸井
へぇー‥‥。
増田
有名な人たちがいっぱい来てて、
そこに、新聞を読みながら、
じつは、まわりを気にしながら、
混ざってただけだったんだけど‥‥。

あの「気にする感じ」が、
糸井さんの言う「視線の文化」だったんやね。
糸井
そうそう、そうだと思う。
増田
あのときの、ドキドキする体験からは
すごくインスパイアされたんです。

‥‥そうか、だから、
代官山プロジェクトでも、そうでけへんかなぁと
思ってたんかな、ぼくは。

今、そういう場所ってなかなか、ないから。
糸井
今日、いちばん腑に落ちたのは
今の話ですね。

「場」が視線を交差させる‥‥という。
増田
そうですか。
糸井
その視線の先には、
さっき言ってた「リスペクト」があったり、
血気盛んな若者だったら
勝っただ負けただがあったり、
きれいなお姉さんをちらっと眺めては
「いいなぁ」と思ったり、
「あいつ、かっこいいな」っていう
憧れもあったり‥‥。
増田
うらやましがったり、真似したりね。

「あいつ、いいパソコン持ってるな。
 あれ、なんだろう?」みたいな。

糸井
頭の中身をお互いに刺激し合って、
その「場」から
蒸気みたいな、竜巻みたいなものが
パーッと巻き起こるような‥‥。
増田
それがいちばん、うれしいのかなぁ。
糸井
かっこいいですよね。
増田
うん、うん。
糸井
下北沢について、話したことありましたっけ?
増田
いえ。
糸井
下北沢という街は、
なぜああなったのかは知らないんだけど、
演劇の関係の人が
有名な人も無名な人も含めて、
ごっちゃになって、いるじゃないですか。
増田
ええ、ええ。
糸井
たとえばですけど、
宮藤官九郎さんがご飯を食べに行く店で、
「お待たせしました」って
料理を運んでくる人が
劇団の若い子だったりしますよね。

あの街の感じって、
ぼくにとって、ひとつの理想型なんです。
増田
あ、そうですか。シモキタが。
糸井
何て言うんだろう‥‥
この街で働きたいという気持ちと
この街に遊びに行きたいという気持ちが
交差してる街、じゃないですか。
増田
ええ。
糸井
ウェイターの子の視線の先には
具体的な憧れの対象がいたり‥‥して。
増田
ああ、その感じも
「視線の文化」かもしれないですね。
糸井
‥‥あのー、仮にね、真夏の熱い日に
道の向こうから
薄着の女の子が歩いてくるとしまして。
増田
ええ。
糸井
そのとき、あんまり「見ない」ように
気をつけてます?
増田
俺?
糸井
うん。
増田
見る!(笑)
糸井
‥‥いや(笑)、
見ないように気をつけてると思うんです。
増田
‥‥まぁね(笑)。
糸井
バレないように‥‥とか。
増田
そうそう。サッと、この‥‥。
糸井
いちばん見たいのは、胸のあたりですよね?
増田
人にもよるでしょうけど(笑)。
糸井
でも、たぶん、女性同士でも
胸のあたりを、まじまじと見ることは
避けてると思うんです。

つまり、わざわざ避けるほどのパワーを
振りまいてるわけ、その薄着のかたは。
増田
ええ、はい(笑)。
糸井
そこで、何が行われてるかというと、
ものすごく
「工夫した視線」が、飛び交ってる。
増田
そうやなぁ(笑)。
糸井
ぼくは今、そこのクリエイティブに
ものすごい興味があります。
増田
わはははは(笑)、へぇー‥‥。
糸井
それは、かならずしも劣情ではなくてね。

劣情ではないんだけど、
でも、なんか見ないように工夫しちゃう。

つまり、目が行っちゃうわけだけど‥‥。
増田
結局‥‥「見る」ということは
何かの存在を認識する、ということですよね。
糸井
ええ、そうですね。
増田
だから、その「見る」っていうことが
僕らが生きていくにあたって
なんか‥‥すごく大事な行為なんでしょうね。
糸井
しかも、楽しかったり、うれしかったりする。

だから、好きな人の顔を見ただけで
ニコニコしちゃうのは、その最たる例ですよ。
増田
そうだね。
糸井
やっぱり、視線って「片思いの連続」だから。
増田
ああ‥‥なるほど。
糸井
だから、カフェというのは
片思いが無限に交差しあう場所、ですよね。
増田
うん、うん、なるほどね。いいなぁ。
糸井
素敵じゃないですか。
増田
だから、カフェの「無言の視線」というのも
人と人との間で交差するから‥‥
コミュニケーションなんですよね、やっぱり。
糸井
うん、うん。
増田
代官山プロジェクトの着地点は
人と人とが、素敵な「目線」を交わせる場所‥‥
ということなのかなぁ。
糸井
どう儲けるかは、知りません(笑)。
増田
それは、これから考えます。
糸井
ぼくはね、
そこだけ聞きたいくらいですよ(笑)。
増田
わはははは(笑)。
糸井
「さすが増田社長!
 そうやって儲けるんですかぁ」
みたいな。
増田
‥‥まいったなぁ、今日は(笑)。

<おわります>

2011-3-18-FRI