糸井
今日ぼくが聞いてみたかったのは、
「アメリカの競争の激しさ」のことなんです。
アメリカではとにかく競争が激しい印象があって、
きっと自分は耐えられないと思うんです。
だけど、アメリカで活躍している
マシ・オカさんは、
日本人の気持ちも同時にわかるわけですよね。
それで、
「その感覚を持ってアメリカで戦ってたら、
パンクしませんか?」
と思ってて。
オカ
いや、パンクはですね‥‥。
糸井
しそう?
オカ
これまで何度もしています(笑)。
心が折れることもありますし。
糸井
今日はそういう話を聞けたらと思って。
オカ
ほんとにひとりで戦ってる感覚があって、
寂しい気持ちになることが、よくあります。
たとえば『HEROES』は大ヒットしましたけど、
新シリーズの『HEROES Reborn』は、
シーズン1で終わっちゃいましたし。
糸井
あぁ。
オカ
ぼくは自分を
「考え方がアメリカ人で、心が日本人」
と思っているのですが、
その立場に悩む時は多々あります。
日本では日本人だと思われず、
アメリカでもアメリカ人と思われず、
どちらにも「自分と違う」と思われるという
意見に対して悩みます。
どこに属しているか分からない時があります。
糸井
それは、あるんでしょうね。
オカ
そしてアメリカってやっぱり、
もともと人種差別が多いんです。
たとえばぼくが役者をはじめた20年前は、
アジア系の役といえば、
ブルースリーやジャッキーチェンなどの
武術の達人か、オタクか、観光客か。
そういうものしかなかったんですよ。
アジア人、ちょっと馬鹿にされてて。
糸井
とはいえ馬鹿にされる役でも、
「役はある」ということですよね?
オカ
そこも難しくて‥‥。
というのが、アメリカにはいわゆる
「ダイバーシティ(多様性の尊重)」
のためのポリシーがあるんです。
「作品には多人種を使わなくてはならない」
という。
でも、それだけ聞くとよさそうですけど、
カウントのしかたが「雇う人間の数」なんです。
つまり、まったく意味のない1行のセリフでも
途中にはさめば
「我々の役者の1割がアジア人です」と言えてしまう。
糸井
つまり、登場する人のパーセントでいえば、
多様性があるけれど。
オカ
だけど、そのスクリーンタイムは
1人1秒とか。
だからそれで食べていくことは、
ぜんぜんできないんですよ。
糸井
そうか。
オカ
そういう状況があったので、ぼくは若いころ、
役者を辞めようと思ってたんです。
当時ぼくは
「ILM(インダストリアル・ライト&マジック)」という
特殊効果のスタジオでプログラマーとして働いていて、
すごくかわいがってもらってました。
だから、それ1本でやっていこうかなと。
そう考えて、
「あと1年間だけやって辞めよう」
と決めました。
でも人生はおもしろいもので、
そのあとすぐ受けたオーディションが
『HEROES』で。
一気に人気が出て。
糸井
じゃあ『HEROES』がなかったら?
オカ
自分がなにをしていたか、まったくわからないです。
そこがもう、人生の転機でした。
糸井
それは、ほんとにギリギリのところを
渡ってきたわけですね。
オカ
だけど、アメリカでは
そういうことが普通だと思います。
「運も実力のうち」と言いますけど、
まさしく運がないと成功できないときがあります。
特に役者というのは
自分でものすごくコントロールしづらい職業で、
脚本家がいて、出資者がいて、監督がいて、
エージェントがいて、
ようやく最後のところに役者がいる。
そして、オーディションを受けるわけですけど、
もともと役者の数も多いですから、
競争率が激しい。
糸井
だけどアメリカにはいちおう
「アメリカン・ドリーム」
があり、
「行けばみんなにチャンスがある」
ということになってますよね。
オカ
だけどそのチャンス自体が、ものすごく少ないんです。
いつあるかもわからず、
明日来るかもしれないし、30年後かもしれません。
だからその、
ものすごく少ないチャンスを掴むために、
みんなできるだけ自分の機会を
増やそうとします。
覚えてもらえるようにいろいろ出かけたり、
ネットワークを作ったり、自分で営業して。
糸井
それ、楽じゃないですよね。
オカ
そうですね。
だけど、そこはアメリカでは
「当然のこと」として考えるんです。
日本の役者は事務所の力に守られて、
事務所を頼らなければならないところも
ありますけど、
アメリカの役者は、基本的には自営業です。
そこの考え方が違うんです。
糸井
両方を知るマシ・オカさんとしては、
どちらがよかったですか?
オカ
そこは結果論でもありますけど、
やはり、アメリカだと思います。
日本の事務所に所属していたら、
給料制のところもあり、
色んな仕事の機会もあったと思いますが、
逆に自由もなかったはずです。
糸井
でも、宝くじも「ドリーム」とか言いますけど、
1等当選の確率って、
17万分の1とからしいんですね。
「当たる人は必ずいる」と言われると
たしかにそうなんだけど、そのとき自分が
その1人になれるとは思えないじゃないですか。
アメリカの状況って、それに近い気がするんです。
そのくらいの確率を
「ドリーム」として信じるためには、
かなり心が強くないとというか、
ちょっと馬鹿にならないといけないというか。
オカ
そうですね。
糸井
17万人のうち、16万9999人はうまくいってない。
そういう幸せのかたちって、
アメリカの人たちは、どう考えているんだろう?
オカ
うーん、どうでしょう‥‥とはいえ
やっぱりメディアは夢を売る仕事で、
結果がすべてという所もあるので、
そういう見せ方をしますよね。
糸井
ええ。
オカ
そして、アメリカでのみんなの興味は
どうしても「1等」なんですよ。
敗者のことは見ていない。
糸井
ああ、敗者のことは見ていない。
オカ
そんな気がしますね。
糸井
きっと、成功の難しさだけで見たら、
日本も同じだと思うんです。
ただ、日本だと1等賞だけじゃなく、
20等くらいまでの人に
商品をあげるところがありますよね。
オカ
それが日本ですよね。
ぼくはよく日米の文化比較をするんですが、
いつも思うのは
「アメリカは勝ってなんぼ、
日本は負けないことが大切」。
そういう発想だと思うんです。
糸井
日本には「努力賞」もありますし。
オカ
そうなんです。日本は「努力賞」の国。
成功するにはプロセスも含めて大切で、
1位をとることより
「1番最後にならないこと」が
重視されるような気がしますけど、どうですか?
糸井
うん、落ちこぼれないことが
大事なんですね。
オカ
だから日本は「罰ゲーム」があると思います。
日本では「敗者を辱める」ことも
多々ありますもんね。
糸井
ありますねえ。
「誰も落ちないことで、みんなの水準が上がる」
という考え方。
オカ
だけどアメリカでは、1位以外は意味がない。
プロセスが関係ないときもあります。
極端にいえば、過去に犯罪をしていようが、
1位になればみんなが認めたりする。
みんなの興味は「いまの勝者」なんです。
敗者も、プロセスも、見ていないと思います。
糸井
政治家とかでも、アメリカの演説のやり合いで
「前のあれ、どうするんですか」
とか言ってないもんね。
そして、日本より無茶や斬新な意見が
通りやすい印象はあります。
どちらが良いという話ではないけれど。
オカ
そうなんですよね。
どちらが良いとかではないんですけど。
(つづきます)
2016-7-12-TUE