「あのくさこればい」の対談版。
(雑誌『編集会議』の連載対談まるごと版)

第6回  素のままのほうが、信頼できる


糸井 みんな、口では「失敗は成功の母」とか言うけど、
今までは実際にそれは出せなかった。
でも今は、メディアに値段がついていないから、
それもインターネットで出せますよね?
鳥越 ぼくと糸井さんが、生きてきた世界は違うけど、
どこかで波長があっている、というのは、たぶん
今おっしゃったところが関係あると思うんです。

日本の新聞とかテレビもそうですけど、
完結させられた話しか出してはいけないという、
一種の不文律がありまして、
間違ってることや失敗したことは、
出してはいけないと教えこまれる。
そうすると、建前の話にどんどんなっていく。

新聞やテレビをどこかで駄目にしているのは、
その建前の精神だと思います。
「新聞は絶対間違わないんだ」
と思うから、過ちを犯しても、
ちょっとはじっこで訂正記事を掲載します。

新聞は「間違わない」という建前で生きているけど、
でも、ぼくは新聞の世界をずっとやってきて、
いかにしょっちゅう間違えているかを、知っている。
それならば、むしろ素のままに、直に出したほうが、
読者ともちゃんと交流や信頼関係が持てるし、
間違えた事実や理由をちゃんと伝えたほうが、
より信頼度が高まると、ぼくはぼくなりに学んで、
だからテレビでもそれをやろうとしているんです。

やっぱり「ほぼ日」は建前で成立してないよね。
ウェブのメディアが建前だったらおもしろくない。
表の建前できれいにできたものだけが
意味があるのではなくて、できたものの裏には
いろいろと、死屍累々があったりするんだから。

ぼくが病気して、半月ぐらい休んだ時だって、
ふつうの世界だと、連載打ち切りでしょう?
でもその時に、ぼくもびっくりしたんだけど、
誰か見舞いに来た人が、
「何だか、留守番版というのができてますよ」
と言っていて・・・(笑)。何だ、それは、と。

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昨日は、ぼく自身が忙しいという話をここに書いた。
忙しいのは本当だし、実際ひーひーいってるのだが、
ぼくはこうやって、見ず知らずの読者にまで、
グチを言いながら暮らしているので、
案外ストレスがたまらないようなのだ。
元気だもん、今日だって、バリバリ全開ですからね。
憎まれっ子世にはばかるというコトバの人格的表現だよ。
しかし、もっと我慢強い人は、
奥歯噛みしめて、こらえているのです。
ぼくの友人の岩田(電脳部長)さんも、かつて、
突然に入院したことがありましたけど、
たしか、同じ症状です、鳥越俊太郎さんが、
お医者さんから絶対安静を命じられました。
そのことは、ご本人からのメールで知ったので、
命にかかわるようなことではないのは確かですが、
相当ハードな毎日を過ごしておられたと思われるので、
ゆっくり休んで、元気になってほしいと願うばかりです。
ただ、ぼくら、鳥越さんの精力的な毎日連載に、
どれだけ励まされたか、目を覚まさせられたかと思うと、
ただ「あのくさこればい」を、
そのままにしておくのは申し訳ないような気がします。
こういう思いつきが、鳥越さんご本人にとって、
迷惑になるかもしれませんが、
ぼくらと読者で、「3分間で、最近のニュースを知る」の
留守宅を守りませんか?
ちょうど、聖火リレーの火が、オリンピックのない時にも
どこかで燃えているように、
ぼくらなりに、こどもの留守番のようにでも、
あのページを、毎日、更新し続けて、
鳥越さんの全快を待ちたいと思うのです。
せっかく、新聞を読むくせがついたのですから。
鳥越さん、ここを読んでいるかどうかわかりませんが、
ご心配なく、ゆっくり休んでいてくださいね。
      (2000年3月16日の「今日のダーリン」)

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糸井 プリントしてくださった方がいたんですよね。
鳥越 プリントアウトして持ってきてくれた。
糸井 あれ、ほろりときましたねえ。
ぼくが名前も知らない誰かが、プリントして
鳥越さんのところに持っていっているんだよ。
その人の存在というのを知っただけで、
「わあ、それを運んでる人がいるんだ」って、
鳥越さんの人格が見えるわけですよ。
この人がどう生きてきたかが、わかるんです。
そういうのが素敵なんですよ。
鳥越 あれは、本当にびっくりしました。


(つづく)


鳥越俊太郎さんへの激励や感想などを、
postman@1101.comに送ろう。

2000-09-13-WED

TORIGOOE
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