| 糸井 |
ニュース番組での鳥越さんは、
少ない言葉ですから、批評の分量が少ない。
断言する分量が、すごく少ないですよね?
そのスタンスの取り方は、
もしかしたら、超硬派な人からは
「甘い」とでも言われかねないんだけど、
ぼくは、「何でもかんでも裁こう」とはしない、
その鳥越さんのテレビでのスタンスに、
とても好感を持ちながら観ているんです。 |
| 鳥越 |
それはね、それほど自分が
大したものではないと思ってるからで。 |
| 糸井 |
だから、ぼくには、そういうのがいいんですよ! |
| 鳥越 |
だって、そうじゃないですか。
そんなに自分って偉くもないし。
この仕事に就いて30年ぐらいやってきたから、
例えばある事件が起きたとしたら、
それに関してはこういう歴史があって・・・
とか、そういうことを多少はわかるので、
だから言えることは言う、というぐらいなんです。
「ほぼ日」の原稿を書く時にしても、
基本的にぼくはそういうスタンスです。 |
| 糸井 |
うん、それがいいんです。 |
| 鳥越 |
でもね、書いてるうちに、
偉そうになってるんじゃないか?
という気がする時もありますけどね。 |
| 糸井 |
なるほど。放っておくと、
そうやって言いきったほうが早く書けるというか、
情報を提供する効率がとてもいいんですよね。
そういう情報効率のよさに
足をすくわれるようなところがぼくにもあって、
俺はそんなに立派な人じゃないのにもかかわらず、
どこかで、立派な風にまとめあげたい、
という欲望が、隠れているんでしょうね。
ものを書いたり表現したりというなかに、
そういう要素がとても含まれているんだろうなあ。 |
| 鳥越 |
そう。
「いかんぞ、お前はそんなに
大きなこと言えるのか(笑)」
と、ときどきハッと気づくんですけど。
「ウェブ」って、クモの巣とか
ネットワークというような意味ですよね?
そこのところで言うと、新聞とかテレビは、
いちおうネットワークのようだけれども、
実は、一方通行ですよね。網ではなくて一本の糸。
発信者と受信者が、一本の糸でしかあれない。
視聴者はブラウン管を見ていても、
キャスターと目と目があっているから、
一対一の関係なんですよね。
まあ、そこでときどき思い違いをする
若い人がいて、女性のアナウンサーに
手紙を送りつけたりするけど・・・(笑)。
新聞も、同じように、基本的には一対一で、
つまり、横の関係はないわけですよね。
だけど、ウェブの網の目は、
横とか斜めとか、あちこちにつながるでしょう。
ぼく、「ほぼ日」をやってみてわかったけど、
インターネットでは無数に、
いろいろなふうにつながれると感じました。
「ほぼ日」の読者には、例えば大学の先生がいて、
その先生が「この言葉の使い方は違います」とか、
すぐその日にパッと書いてくれるわけで。
「教えていただいてありがとうございます」
と感じたり。まさに網の目で、これはやっぱり、
新聞とテレビの経験ではなかったと思います。 |
| 糸井 |
あれは、びっくりしますよね。 |
| 鳥越 |
本当に。 |
| 糸井 |
ぼく、今でもびっくりします。 |
| 鳥越 |
この間の、チンパンジーのお話なんて、
ぼく、びっくりしたんだけど、おもしろかった。 |
| 糸井 |
人工受精でチンパンジーの子供が生まれた、
誰の子供かわからない、という記事があって、
「人工受精なのにだれの子供かわからない?
それはどういうことなんだろう?」と、
鳥越さんが書いたんですよね。 |
| 鳥越 |
それを「わからない」と書いたらすぐに
京大の霊長類研究所の大学院の学生が、
ぱっと「実はこうです」と教えてくれたんですよ。 |
| 糸井 |
そのチンパンジーの隣で研究している人で。 |
| 鳥越 |
なかなか受精しなかったから、
もう1匹のチンパンジーの精子もとっていたから
どちらの子かが完全に確定していなくて、と。
どちらでもいい話ではあるんだけど、
何かわかるとうれしいし、おかしいでしょう?
そのメール、ほんとにすぐパッと来たんです。 |
| 糸井 |
もっと素敵なのは、そのメールをくれた人が、
「最近私は、ちょっと
勉強をルーティーンにしてたけど、
刺激になって、もっと頑張ろうと思いました」
みたいに書いてくれたところですよね。
影響が、乱反射している。
メール打ってるときに、向こうは、
まずは、教える立場になるわけですね、
その時に「その自分って何なんだ?」
という問いかけが生まれたんだと思う。
そう思えるその読者の人の資質が、
ぼくはすばらしいんだと思うんだけれども。
(つづく)
|