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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第15回 空気をスイングさせるんです

糸井 とんでもないものへのリスペクトがないと、
つまんない民主主義になるじゃないですか。
原田 そう。デジタルに関しては、
マック使えば誰でも音楽つくれる、
絵を描ける、デザインできる。
だけどぼくはデジタルになればなるほど、
本当のバリューは、アナログのバリューを
組みこむのが商品価値だよ、と思ってるんです。
音楽もそうです。
CDだったら、完全にノイズレスですよね。
そこにホワイトノイズをわざと入れる。
アナログのバリューをそこに乗っけてるんです。

スティーブ・フェローニという
ドラマーがいるんです。
むつかしいリズムは全然叩いていないんです。
全然むつかしくない。ちょっと遅れてるんです。
そのズレの感覚っていうのが、
誰が真似してもできない。
糸井 それがいいわけですか?やっぱり。
原田 それはもう!(いい)
気持ちを揺さぶるんです。
今度糸井さんにお見せしますけど、
そのドラムのリズムは、単純ですよ。
ツンツツタンタタ、そういうレベルですよ。
だけど、シンプルだけど、ぐいぐい動くんです。
それは、アナログ的に揺れてるんです。
糸井 彼のなまりみたいなものですよね?
原田 そう、なまりみたいなもの。
糸井 それが気持ちいいんだ。
原田 ぼく、いっぱい
素晴らしい演奏をきいたことがありますが、
1回ブルーノートで、名前は覚えていませんが、
6人くらいのコンボで、
サクソフォンプレイヤーがいる。
ジャズっていうのは最初、
アンサンブルではじまりますよね。
そのうちソロになりますよね。
そのうち、フォーバスといって、
4小節ずつかけあいがはじまりますよね。

で、フォーバスになった、
ピアノが4小節、ベースが4小節、
ドラムが4小節、がんがんまわって、
最高潮に達するんです。そのうちにサックスの番で、
次の4小節、サックス、って思ったときに、
サックスのひとは体を動かすだけで、
わざと音出さないんです。
会場が揺れてるんです。
音がないのに揺れてるんです。
もう最高に楽しかった。
音を出さないで
みんなの気持ちをスイングさせるというのは、
あれは空気がそうなんです、音じゃないです。
糸井 それって、人間という個と、人類という類を
みんな兼ねそなえている、人間じゃないですか。
そこのところを感じた瞬間ですよね。
しびれるなー。
原田 1,2,3,4、ドンとサックスに来るでしょ?
音ないんですよ。でもみんな、
体が揺れてるんですもん。
糸井 それってオーディエンスがいなかったら
ありえないですよね。
原田 そうです。
糸井 そこがおもしろいんです。ネット的なんですよね。
原田 あれは楽しかった。

(つづく)

2000-05-09-TUE

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