APPLE
雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第8回 ザビエルのチームと次につくることなど

糸井 アメリカのひとたちが
考えているビジネスモデルって
やっぱりアメリカ社会のもので、
まあ言わば行動心理学が基本ですよね。
流体力学や行動心理学って必ず数値化できるのですが、
日本の場合ってあの、もう少し違う宗教性というか、
・・・ぼく今一番興味あるのが宗教なんですけど、
フランシスコ・ザビエルが日本に来たときは、
どうやら2〜3人のチームだったらしいんですよ。

それが何でキリシタン、伴天連を
弾圧させるまでに、大きくなったのか?
殿様のところにおみやげものを持っていって
「うちの宗教を使ってください」
と言って、ソフトを販売したわけですよね。
門前払いされるところもあった。
おみやげだけ取ってさよならというひともいた。
その一方で「お前のところはいい」って、
帰依しちゃうひともいた。
ただ、実際には断られることが多くて、
辻説法をはじめたんですよ。
ザビエルが日本語を習ったはずがないんで、
犯罪者すれすれの頭のいい
日本の男がいたらしくて、それが
「みなさんをお集めしたのは、
 ほかでもありません!・・・」
とやったわけですよ。
そのたった2人か3人のチームが
日本中にキリスト教を広めたという事実が、
今まで割と忘れられていた
「Think different.」の基本形なんじゃないか。
一方で、あの、ぼくは浄土真宗なんですけど、
親鸞というひとがやっていたことも、
結局、組織をつくるのはあとなんです。
本ができるもあとですよね。
『嘆異抄』を書いたのは、
自分じゃない(弟子の唯円がまとめた)。
キリストもそうで、
「足、治れ」
とか言ってたわけですよね。

この動きっていうのが、
行動心理学や流体力学ではつかめっこない、
つまり、非メカニズムで、
人間が、一瞬にして臨界点に達して、
ある考えにぽーんと乗ってゆく、そういう
爆発的なひとのエネルギーみたいなところ、
そこに何かあるんじゃないか。
「ザビエルがネット持ったら」って思うと、
おそらく何でもできると思うんですよ。

前に原田さんとインタビューでお会いしたとき、
うちのサイトは5万くらいだった時代なんです。
今は大体20万〜30万なんです。
何にもお客さんを集める工夫もできないし、
お金もおんなじしかない。
何で来るんだろう? っていうのを、
自分でもつかめないんだけど、
やってたら集まってきた何かなんです。
これが、企業になっちゃうと、途端にわからなくなる。
極端に言うと、これは極端な例ですけど、
原田さん個人のひとを集める力と、
アップル全体がひとを集める力とを見たら、
もしかしたら、原田さん個人のほうがあるかもしれない。
そう思って組織を動かしているところが、
そういう二重の力を使っているところ、
いや、使わせるシステムが、
アップルという会社の
おもしろいとこなんじゃないかな。
これ、上手にシステム組んでも
こうはならないですよね。
原田 余談ですけど、思い出すんです。
2年前、97年の8月、今でも覚えていますよ、
マイクロソフトの軍門にくだる、と新聞に出た。
みんな一様に書きたてるわけですよ。
実態は全然違ってた。
内部は「さあ、行くぞ」というときだったから、
何でそんなに言われるの?と思ってました。
あの論調は日本だけでしたから、
アメリカでは全然違ってましたから、
日本のマスコミはどれ見ても
みんなそう書いてるんですよね。
糸井 あの97年って、
経済をおもしろがっているひとたちが
デファクトスタンダードがすべてで勝利するという
流行がありましたよね。あれ、
ぼくら読んでいてすごく歯がゆかったんですよね。
じゃあ、その延長線上で、
日本中がひとつの会社になるかって言ったら、
そんなのありっこないんですよ。
イスラム文化圏もあれば、儒教もあるし。
原田 グローバルスタンダードっていうのは、
誰がマジョリティを取ってるか、じゃないんですよ。
今世の中にない、次のモデルをつくっている、
そのエネルギーを持つところが、
次のスタンダードをつくるんですよ。
それが日本はね・・・。VHSに行くとみんな行くし。
糸井 その例がみんな語られますよね。
おもしろいのは、今のソニーがあるのは、
その負けかたがあったからですよね。
あの負けから何年経ったって考えると、
何百年待てませんということもないんですよね。
しかもネットのない時代に、
これだけの期間で回復してるわけですから、
OS以上の、もうちょっとものじゃないところで、
今はスタンダードが出てきている・・・。
そうなると、半年とか1年だとかで
大逆転のチャンスというのが、
これからものすごく増えますよね
・・・しかしこれ、
アップルのリクルートになるね、この対談は(笑)。

(つづく)

2000-04-25-TUE

BACK
戻る