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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第4回 見てくれているひとのこと

原田 ウェブパブリッシングが
今までとまったく違うのは言うまでもなくて、
1にスピードですよね。
ユーザーの動きを、言ってみれば
リアルタイムで見られるわけですよ。
ひとつの本を出したとしても、
どこのページを見たか、までわかるんです。
今までのパブリッシングは垂れ流しじゃないですか。
発行部数ではかってもしょうがない、
視聴率ではかったって、知れている。
それが、ものすごいスピードで反応が返る。

例えば本なら、膨大に積まれた本が見えるでしょ?
でもインターネットは、
何十万ページビューあったって、
そういうものを感じないですよね。
あのGLAYの20万人ライブの
総数の2倍ですよって言われても
「え?」って思うわけです。
うちはそれくらい読まれてるわけです。
日本だけでもね。すごい。

相手の読者がいるという感覚は、
無形なものなだけに少ないかもしれませんが、
うまくやれば、今までにないビジネスも、
マンツーマンのマーケティングもできるわけです。
糸井 原田さんのイメージとして言った、
マンツーマンマーケティングを考えるときには、
向こうは1個1個のマンなんだけど、
送り手って、ひとりのマンであることを
表現しにくくなりますよね。

全員にしゃべりかけるわけだから、
政治家がいやでも握手するように、
「わたしである」というのを、
企業がどうつくっていけばいいのだろうか、
というところでのイメージは、ありますか?

これ、すごい難問だと思うんだけど。
「法人」という言葉はあるんですけども、
「人」になりきれないシステムがありますよね。
今のアップルの場合は、
原田さんという社長がいらっしゃったから、
ぼくらはつかみやすかったんですよ。
それでとりあえず済みますよね。
今アメリカの企業で言えば、
例えばジョブズだって言えば、
あいつだろ、という感じで「人」のイメージを
つくりやすくなりますよね。

今までは、「人」の要素があればあるほど
弱みも見えちゃうから、避けてきましたよね。
最近のコンピューターやデジタル企業は、
社長が前に出てるんで、このとおりの私です、
というのが、拡散していくじゃないですか。
このあたりを意識的にやっているのか、
それとも、アップルの出自がそうだったから
歴史と伝統のなかでひとを出すというふうに
なっているのか、そのあたりは?
原田 企業がほんとに消費者の気持ちをつかむには、
どんなうまいことを言ってもだめだと思います。
お客さんに届ける商品がだめなら、
やはり最終的には・・・。

例えば「イッツァ ソニー」って、
ソニーだからいいというイメージですが、
よく考えたら、いい商品だからなの。
iMacも、商品ものすごくいい、というところで
会社もいい、というふうになってくるんです。
だからわたしたちも、
うまい広告という姿勢ではやらない。

ただ、私もそうですし
ジョブズもそうですが、
ひとが前面に出ますよね。
ユーザーの皆さんと
直接会話をしてゆくという姿勢は、
少なくともハイテクの経営者には、
共通してますね。
糸井 それはかなり意識的にやってらっしゃるんですか?
原田 意識というか、文化ですね。当たり前にやってます。
糸井 アップル文化とも言えるわけですね。
原田 日本の企業の場合にも
ほとんど、社長の顔見たことないでしょ?
海外でもそうですよ。
日本の企業でも、グローバルなハイテク・・・
例えば出井さんでもそうなりますよね。
糸井 そのぶん個人としては風を直に受けているから、
きついでしょ?
原田 緊張感はありますけど、感激ですよね。
アップルで何が一番やってて楽しいかっていうと、
ユーザーさんの感激する姿ですよ。
それをもう直接感じるから。
糸井 それはね、ぼく自身もそうなんだけど、
お客がいなかったら仕事やってないよ。
毎日、やなんですよ、疲れたら。
そりゃ原田さんも、
疲れたときは絶対やだと思いますよ。
だけどお客さんがいて、
そいつがこっち見て待ってると思うと・・・。

(つづく)

2000-04-17-MON

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