晩秋の姫柿

秋が深まってきました。
なんて書いてる間にも、
すぐそこまで冬が近づいてきてる気配が。

名残りの秋。
こんな時期には
柿、おいしいですよね。



確か、去年は葡萄がすごいと書いた記憶があります。
びっくりするほど粒も大きく、皮も薄く、種もなく、
皮ごと食べられるほどに年々、進化してる葡萄も、
そろそろ食べ納めかなぁ…という頃になると、
くだもの売り場を橙色、
一色に染めはじめる柿。



そういえば、柿も
年々大ぶりに、甘くなっている気がしませんか。
昔はもっと水分がなくて、甘みも薄くて、種が大きくて
歯ごたえはシャキシャキしてるけど、
食後に出てきたとき、正直に言うと
そこまでの有難みには欠けるような感覚もありました。
でも、今はどうでしょう!
秋の王様登場の風格が。



甘くて、みずみずしくて、
採れたてのシャキっとした食感から
熟れてくると、だんだん透き通ってきて、
しまいにはスプーンで中身をすくって食べるくらい
トロトロになったり。
去ろうとする秋が最後に残していく極上の甘みのような気もして、
どこか郷愁を誘われます。



柿の菓子も数あれど、
この部屋でずっと前に書いた「姫柿」という和菓子を
20年近く経った今も、愛好しておりまして。





鎌倉「美鈴」さんの11月限定の品です。
名前にふさわしく、小さな柿の形の餡の中に
もちっとした求肥が入ってます。



箱を開けた時、きれいに並んだ姫柿たちの可愛いこと!
晩秋の訪れとともに、毎年欠かさず買いに走りたくなる
柿菓子です。
鎌倉へと向かう車窓には、なだらかな山の錦繍が広がって、
美鈴さんへの路地を歩いていると、 道の隅に散った楓が
かさっと乾いた音を立てたり。
あとひと月ちょっとすると初詣で賑わう若宮大路や
鶴岡八幡宮を思うと、冬がすぐそこまで近づいてることに
少しだけ、急き立てられるような気持ちになる霜月です。



なんて、忙しげな装いをしましたが、
鎌倉には祖父母の墓苑もあるので、
和菓子を買いに行く度、車の中から「遥拝!」と
発声しつつ合掌できるのも、それはそれで孝行なのじゃないか?と、
勝手に一挙両得を感じてまして。
いや、より正直に言えば、遥拝にかこつけて
せっせと和菓子通いをしてるのかな?
いや、盆と暮れ以外にも和菓子を買いに行くから、
年に何度も遥拝ができてるのかな?
ま、どっちにしろ、趣味を実行しつつ用も果たせるという
至極、充実感の得られる鎌倉通いです。



姫柿だけだと、以前にも書いたことのある柿菓子に
終始してしまうので、もうひとつおいしい和菓子を。

今年いただいたのですが、干し柿の中に
栗きんとんがぎゅっと詰まってます。
干し柿……おいしいですよねぇ。
干すと、なんでもおいしくなりますよねぇ。
収穫物の恵みと、お日さまの恵みが相乗効果となって
凝縮されて、干しもの一個の中に閉じ込められてる
感じとでもいうのでしょうか。







しかも、栗きんとんです。
じゃがいももおいしいけど、マッシュポテトも好きな方、
多くないですか?
もちろん、わたしも大好きです。
マッシュする=つぶして裏ごしすると、
ふわっと風味が増しておいしくなるのは、
世の必然なんでしょうねぇ。



つまり、干し柿と栗きんとんという
豪華、秋の至宝2大共演ってことですよね。
おいしいものはそれぞれに味わいたい、という向きも
いらっしゃるかもしれませんが、共演は共演で素敵です。
あぁ、秋を満喫してるなぁ……と、思い切り浸ることが
できそうなひと粒です。



そうこう言ってるうちにも、
秋は足早に過ぎ去って行きそうですが、
風邪も流行ってるみたいです。

せわしなくなる季節、
この一年がんばってきた体を厭いつつ、
良い晩秋を。

わたなべ まり

2017-11-24-FRI

●上生菓子処 美鈴
神奈川県鎌倉市小町3-3-13
ウェブサイトなし

●澤田屋
http://www.sawadaya.com/