ライフ・イズ・マジック

人生はマジックだ、なんて言い方そのものが怪しいでしょ。
ひょっとしたら、マジックってのは、
宗教の種かもしれないし、驚きの商品化かもしれないし、
人類最古の情報産業だったりもして。

軽い笑いもとれるし、ちょっと好かれたり嫌われたり、
ひとつの国をまるごとだまし取るようなこともできる。
いま、マジックを考えたり感じたりするのは、
なんだかとても大事な気がするんですよ。

おおげさな紹介はよしましょう。
マジック・ナポレオンズのパルト小石さんです。どうぞ!

ナポレオンズのHPは
http://www.tvland.co.jp/napoleons/
e-mail:napoleons@tvland.co.jp

ナポレオンズ・小石の無菌室便り8

コロナ・ウイルスのせいで
一時退院が少し先になってしまった。

予定の点滴も終わったし、
撮りためた映画でも観ることにするか。

九州の、ずいぶん山奥に暮らす老婆の家に、
ひょんなことから転がり込んだ若者。
そのうち、本当の母と息子のようになっていく。

物語が進むにつれて、
どうしても母のことを思い出してしまう。

おいらの母は、数年前に92歳で亡くなっている。
『親孝行、したい時に親はなし』
いやホント。

母はいつだって、
「欲しいものかぁ、なんにもねぇなぁ」

バカ息子は、そうか、ないのかと
手土産も持たずに帰郷。

今にして思う。
母にだって好きなものはあっただろう。
買って帰って、食べてもらえば良かった。

バカ息子には、母親の考えていることなんて
サッパリ分からないままだったんだよ。

救いは、おいらは幸運にも
映画の中の若者のように犯罪を犯したわけじゃないし、
30歳過ぎてから金の無心をしたこともない。
(自慢することじゃないけどさ)

親不孝だったけれど、バカ息子だったけれど、
故郷の母のことは、いつもいつも思っていた。
(当たり前か)

映画は終盤になり、
今度はおいらの父のことを思う。

97歳になる父は、毎晩ウイスキーで
晩酌を欠かさない。
だから、ウイスキーを買っていけば親孝行は簡単。

ところが、おいらは突然に病気になり、
無菌室に閉じ込められてしまった。

故郷に帰るどころか、
簡単に病院を出ることさえできそうにもない。

それに加えて、このコロナ騒ぎ。
『親孝行、したい時にコロナ・ウイルス』

97歳の老人に、東京からウイスキーと一緒に
コロナ・ウイルスを持ち込みかねないではないか。
今は、帰らないのが親孝行。

ウイルスが収まって、おいらの病気が治ったら、
本当に、今度こそ親孝行するからね。
いつもより高めのウイスキーを買っていくからね。

思いがつのり、涙がボロボロ。

「小石さ〜ん、お変わりありませんかぁ?」
今日の担当看護師さんがやってきた。

あわてて涙を拭いて、
「は〜い、お変わりありません」

映画はいつの間にか終わっていた。
ハッピー・エンドで良かった。

いつの日か、おいらの病気も
ハッピー・エンドになればいいなと思った。
              (つづく)




明るく軽く親切なのに。
 ほんの少し悲しみの味がするのだ。
 マジックというのが、もともとそういう
 素性のものなのだろうか。ー
        糸井重里(帯コピーより)

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