闇夜にまぎれて
2019-04-14
めでたい仕事の依頼があった。
披露宴の二次会で、
マジックをしてほしいとのこと。
もちろん、ふたつ返事でOK。
つい先日の仕事先は、
とある地方都市の葬祭場であった。
「周辺の皆さんをご招待いたしまして、
当斎場の存在を身近に感じていただければと‥‥」
お客さんは子供連れのファミリーだし、
ここが斎場だということをすっかり忘れ、
妙にハイテンションで演じてしまった。
ただ、その後に出てきた司会者が斎場の方で、
「ただいまは、ナポレオンズ様でございました」
と、重く厳粛な声。
まるで、
「それでは、ご親戚の方からご順に‥‥」
などと続きそうなのであった。
しかし、今回の仕事先は
ホテルの高層階にあるレストラン。
めでたさ100%のパーティである。
当日の午後4時、高層階のレストランに到着。
マジックをする場所を入念にチェック。
会場に吊られた白い風船に、
陽射しがまぶしく輝いていて、なんだかめでたい。
お祝いマジックを披露するにはピッタリの状況。
ただ、相方だけは浮かない顔をしている。
「お客さんが目の前だし、ネタの仕込みが難しい。
ネタバレするかもなぁ」
私はすぐさま、
「いいじゃん、
後ろ向いてゴソゴソ仕込んでもOKだし、
その方がウケるよ」
だが、相方の顔は晴れない。
マジック関係者に、
「後ろ向いてネタ仕込むなんて、マジシャン失格。
ネタバレは、マジシャンの恥」
とでも言われたのだろうか。
控え室で待機していると、
「出演時間が大幅に遅れそうでして。
夜8時を過ぎそうです」
延々と待ち、やっと出番がきて会場へ。
外はすっかり夜景、レストランの照明はほの暗く、
客の顔さえよく見えない。
前から小さな照明がステージに当たっているが、
それ以外は真っ暗な状態。
タネどころか、マジックさえ良く見えないかも。
相方は急に明るい笑顔になって、
意気揚々と前に歩き出した。