効能と目玉焼き
2019-03-31
< 効能 >
山奥の温泉に入った。
入り口に、
『すべりやすいのでご注意ください』
と書いてある。
そろりそろりと歩くのだが、
湯船のもうもう湯煙を見ると
ついつい早足になり、
言わんこっちゃない、すってんころりん。
幸いにも、右足をうって少し痛い程度。
風呂にはまだ誰もいなくて恥ずかしくもない。
私はいつもより長く湯船に浸かり、
すっかり温まった。
湯船を出て、体を洗い、
脱衣所で体を拭いていると目の前に、
『効能、打ち身、捻挫、・・・』
という効能書き。
どうりで打ちつけた右足はちっとも痛くない。
温泉の効能をその場ではっきりと実感できた、
初めての経験だった。
どうやらここは、名湯らしい。
< 目玉焼き >
毎日の食事日記をつけている。
朝のメニューは定番のトースト、ヨーグルト、
目玉焼き。
以前、アメリカ人の友人と朝食を食べていると、
「この卵料理は、英語だと
サニー・サイド・アップ、
日本語では?」
「め、だ、ま、や、き、目玉焼き。
ベイクド・アイ・ボール」
と、合ってるかどうかわからないまま
直訳してみた。
すると友人は、気持ち悪そうな表情になって
目玉焼きを食べ残してしまった。
子供の頃から食べ慣れている目玉焼き。
しかし、ふと気づけば
めちゃくちゃグロテスクなネーミング。
食事日記を書く時、
いつもこのことを思い出してしまい、
『目玉焼き』と書くのをためらってしまう。
そうかといって、
『サニー・サイド・アップ』と書くのも
ちょいと恥ずかしい。
目玉焼きに代わる良いネーミングはないものか。
日記を書くたびに、私は小さく悩み続けている。
ー明るく軽く親切なのに。
ほんの少し悲しみの味がするのだ。
マジックというのが、もともとそういう
素性のものなのだろうか。ー
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