MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


前回前々回に続いて、
JAPAN SKEPTICS(「超自然現象」を
批判的・科学的に究明する会)の
機関誌に掲載されたエッセイの続編であります。

『超能力者らはかく騙りき・最終章』

糸なんか使うから、
「動かぬ証拠を発見しました!」
なんて言われてしまうのだよ。
私の透視実験では、一切の怪しい物は使わない。
用意するのはごく普通のアイ・マスク、
それと大きめの頭巾のみだ。

まず、調べてもらったアイ・マスクで
しっかり目隠しをする。
更にその上から頭巾をかぶる。
その状態で、文字や図形を透視するのだ。

文字の上に手をかざすと、
白い紙に書かれた黒い文字が見えてくる。
ただ、いつもその能力が発揮される訳ではない。
だから、まずアイ・マスクをし頭巾をかぶる時、
頭巾の中でそっとアイ・マスクを下方にずらすのだ。

頭巾の布は、外から中は透けて見えない。
ところが、中から外は透けて見える代物なのだ。
したがって、文字を読むなんて朝メシ前、
車の運転だって出来てしまうのだ。
で、透視が済んだら外側の頭巾を外す時に
アイ・マスクを目の位置に戻せば、
誰にも疑われないという訳さ。

もちろん、これは窮余の策というもの。
私には間違いなく透視能力があるのだが、
いつでも透視能力が最大限に発揮されるものでもない。
アイ・マスクをずらして文字を盗み見る方が、
圧倒的に時間の短縮になるのだ。

もっと簡単な透視実験がある。
相手に小さめのメモ用紙と長めのペンを渡す。

「なんでもいい、簡単な図形のようなもの、
 丸とか四角とか三角とかを、
 そのメモ用紙に描いてください。
 私は見えないように手で目を覆っていますから」

もちろん、目を覆った指の隙間から
相手を盗み見るのだ。
ここで重要なのは、小さいメモ用紙と長いペンなのだ。
つまり、メモ用紙からはみ出している
ペンの動きを見れば、◯とか□とか△とか、
おおよそ読み取れてしまう。
これが逆に大きなメモ用紙に短いペンだったりすると、
まるでペンの動きが見えないのだ。

おおよその超能力現象は、
マジシャンならば出来てしまう。
マジシャンは長年に渡って修業し、
私たち超能力者もビックリするような現象を起こす。
あれくらいの技術があって、
良く出来たトリックやタネを知っていれば、
どんな不可能をも可能にする超能力者になれるだろうに。

私たち超能力者が1時間かけて、
封印されたトランプを透視する。
マジシャンならば1分以内に当ててしまう。
超能力者は、時々間違えたり
透視出来なかったりするものだ。
それでも、誰も超能力者をとがめたりしない。
むしろ、
「状況が悪かったのかも。
 それとも、集中出来なかったのですかねぇ」
などと同情的ですらある。
一方、マジシャンがトランプを当てられなかったら、
「なんだぁ、ヘタなマジシャンだなぁ」
などと嘲笑されてしまう。
それに、私たち超能力者に支払われる出演料は、
マジシャンより数倍多いはずだ。だから、
マジシャンもさっさと超能力者に鞍替えすればいいのに。

悲しい超能力者の物語もある。
ずいぶん昔に、降霊術で有名になった姉妹がいた。
始めは近所の人々を驚かせていたのだが、
すぐに国中の評判となった。
ところが、姉妹が大人になった時、
「実は、あの降霊術はほんのイタズラ心で始めた、
 降霊ごっこでした」
と、告白してしまったのだ。

妹の膝の関節を少し動かすと
不思議な音が出るのを利用したらしい。
あたかも霊が返事をしているように、
yesなら1回、noなら2回とか、
姉妹で決めて、テーブルの下で膝を鳴らしていたのだ。
それがあまりに見事で、
しかも子供だったため、
姉妹を疑う大人などいなかったのだ。
評判が評判を呼ぶ展開に、
姉妹も事実を告げる機会を逃してしまった。
そして、大人になり告白を終えた姉妹は
自らの命を絶ってしまったという。

日本にも、悲しい末路を迎えた超能力者がいた。
スプーン曲げの超能力少年、
などとマスコミにもてはやされた男だ。
後に同じマスコミからインチキ、
嘘つきと糾弾された彼は、
ついには罪を犯して逮捕されてしまった。

私は超能力者である。
誰もが私の超能力に驚き、畏敬の念を覚えるものだ。
ただ、故郷に住む私の母だけが、

「いつまでもそんなバチ当たりなことしてるだぁ。
 人様ダマしてねぇで、帰ってきてまっとうに働け」

いやはや、お袋の目だけはダマせな・・・、
否、お袋の前では私の超能力もただただ、無力だ。

(終わり)

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2008-08-21-THU
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