MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。


私は、JAPAN SKEPTICS
(『超自然現象』を批判的・科学的に究明する会)の
平会員である。
この度、会の機関誌に掲載された私のエッセイを、
親愛なる『ほぼ日』読者の皆さんにもぜひ!
題して、

『超能力者らはかく騙りき』

私は、超能力者である。
スプーンを曲げることはもちろん、
鍵を曲げることも自在だ。
何重にも目隠しをしたまま、
手のひらで文字を透視することも出来る。
小さなメモ用紙に鉛筆で書いてもらった
◯とか□とかの図形を言い当てることも可能だ。

私の超能力ショーを見たマジシャンが、

「彼は間違いなくチカラで曲げていた。
 普通の観客ならば気づかないかもしれないが、
 マジシャンの目はごまかせない。
 彼はまず、ひとりの観客から差し出されたスプーンを
 右手に握り、その手をまっすぐ前に伸ばして
 神経を集中させているような動作をした。
 それから急に右手をだらりと下ろし、

 『ダメだ、集中が足りないようだ』

 などと言いながら、
 他の観客の差し出しているスプーンに
 左手を伸ばした。
 その瞬間、右手のスプーンを
 右足のももあたりに強く押し付けたのだ。

 『ふ〜む、こちらのスプーンも難しそうだ』

 彼はいったん受け取った左手のスプーンを返し、
 あらためて右手のスプーンを観客に示した。
 すると、右手のスプーンは
 確かに曲がっているのだった。
 観客は感嘆の声をもらしつつ、
 大きな拍手を送ったが、
 彼のスプーン曲げは単にチカラで曲げたに過ぎない」

ふん、余計なところに顔を出しやがって。
しょうもないところを見られたものだ。
確かに、太ももに押し付けて曲げたのさ。
でも、本当に集中すれば
超能力で曲げられるのだよ。
ただ、あの日もそうだったが、
私の超能力を信じている大勢の観客の前では、

「今日は集中出来なくて曲がりません」

などと言えるわけもない。
それで、仕方なくちょっとだけ
テクニックを使っただけなんだよ。
だいたいねぇ、
超能力で曲げる場合は時間が掛かるんだよ。
テレビ局もそうなんだが、
コマーシャルの直前に曲がるとありがたい、
なんて平気で言うんだから。
そういう場合はチカラで曲げるしかないじゃないか。

でも、最近は私たち超能力者も
気をつけなくちゃいけない。
あるテレビ局にダマされて、
チカラで曲げる瞬間を隠し撮りされた奴がいたのだ。

「超能力を信じています。
 ついてはスプーン曲げを
 スタジオで見せていただきたいのですが」

などとごく普通の収録に見せかけて、
何台もの隠しカメラで後ろから横から
撮りまくったらしい。
奴は、右手に持ったスプーンを太ももに打ち付けて
曲げたスプーンを空中に放った。
こうすると、まるで空中でスプーンが
曲がったように見えるのだ。
そのテクニックを安易に使ってしまったんだね。
で、その曲げている瞬間を横からのカメラで
撮られてしまったというわけさ。

「さて、この映像をご覧ください。
 あなたは、
 太ももに押し当てて曲げたスプーンを
 投げていますよね?」

奴は司会者に厳しく追及されて、
時間がなかったなどの言い訳をしてみたものの、
その表情はただの嘘つきだった。
それ以来、テレビ番組はおろか、
世間から完全に消えてしまった。

(つづく)

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2008-08-03-SUN
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