
2011.04.08
機械による刺しゅうは汚い?!「ほぼ日のクロスステッチ」の製作舞台裏対談。(2/3)
[ ほぼ日 ]
それはどういう要求だったんですか?
[ 酒井 ]
「もっときれいに」です。
「汚い」と言われてしまって。
[ ほぼ日 ]
汚い?
[ 酒井 ]
えぇ。
その試作品は
クロスステッチのバッテンの目(重なり)が
揃ってなかったんですね。
つまり、こういうことです。
[ ほぼ日 ]
ははぁ、なるほど。
上下の糸が揃ってないんですね。
[ 大図 ]
手で刺すクロスステッチの場合、
すべてのバッテンの重なりを
キチンと揃えるのが基本なんです。
だから揃ってないのは「汚い」と。
[ 酒井 ]
機械刺しゅうは手刺しゅうと違い、
上糸・下糸があるため重なりを揃えるのは
簡単ではないというより、
揃うはずないという認識でした。
これまで重なりの上下のことなんて、
まったく意識してなかったんです。
[ ほぼ日 ]
まったくですか。
[ 酒井 ]
えぇ、まったくです。
ただ、こっちとしても
言われっ放しなわけにいきませんからね。
なんとかしてこの難題をクリアーしようと
躍起になりました。
[ ほぼ日 ]
燃えてきた、と。
[ 酒井 ]
機械で刺しゅうを作る場合、
糸を刺すルートを解析した設計図のようなものを
専用コンピュータに入力してつくるのですが、
ちょっと長い説明になってしまうので、端的に言うと、
膨大な時間と労力をかけて試作を繰り返し、
その設計図を完成させた事によって、
大図さんからご指摘を受けた部分は
修正できるようになったのです。
[ ほぼ日 ]
もうなんか
意地みたいなものを感じますね。
[ 酒井 ]
いや、本当にそうです。
これは機械刺しゅう屋の意地でした。
そうやって何度かの試行錯誤を重ねて
ようやく大図さんのOKを
いただいた、というわけなんです。
ちなみに、そのコンピューターに入力する
設計図のようなデータを完成させたのは
昔、某クルマメーカーで設計をやっていた人間です。
[ ほぼ日 ]
へぇー、おもしろい!
データ作りというのは
そういうレベルの話なんですね。
[ 酒井 ]
えぇ。ただ、もし仮に、
この刺しゅうの方法を
同業他社が解析して知ったとしましょう。
[ ほぼ日 ]
はい。
[ 酒井 ]
多分、呆れます。
[ ほぼ日 ]
ふはははは。
[ 酒井 ]
面倒臭すぎて
マネしようなんて、絶対に思わないはずです。
[ ほぼ日 ]
なんだこの工程と手間とそのコストは? と。
[ 酒井 ]
こんな面倒臭いことやってられない。
そう言うと思います。
[ 大図 ]
ということは、
僕の作品を機械で作るのは
効率が悪いってことですか?
[ 酒井 ]
はっきり言えば、そうです(キッパリ)。
[ ほぼ日 ]
わはははは。
[ 大図 ]
(絶句)
[ ほぼ日 ]
そんな効率の悪い商品開発をする。
ラカムさんをそこまで動かしたものって
なんだったんですか?
[ 酒井 ]
かっこいいこと言っちゃいますけど
物作りへの愛と探求心。
それ以外の何物でもないですね。
[ ほぼ日 ]
うんうん。
[ 酒井 ]
あとは大図さんというアーティストは
クロスステッチ(刺しゅう)デザイナーですから、
その方のクロスステッチ作品が、
あまりいい出来映えじゃないのは
あり得ないという思いですね。
[ ほぼ日 ]
なるほど。
ラカムさんの大図さんへの想い
みたいなものも感じられますね。
[ 酒井 ]
あんまり褒めるのもどうかと思うんですが、
やっぱり大図さんの作品って
いろんな人を惹きつける
すばらしいものだと思うんですよ。
つづきを読む