
2009.11.25
革とのつきあい方は、ごくシンプル。愛情をもってどんどん使う。(2/5)
[ 細井 ]
日本でピッグスキンっていうと、
ピンク色の食用豚を思い浮かべるんだと思うんですよね。
でも、ピッグはピッグでも種類が違うんですよ。
このピッグって、毛が生えた黒い豚ですよね。
[ 籠浦 ]
そうです、そうです。
[ 細井 ]
だから、豚の種類が違うんですけど、
牛肉と豚肉を比較するようなもんでね、
「牛肉のほうが高いのに、
革は、なぜ豚のほうが値段が高いんですか」
みたいな質問って、実際出てくるんです。
[ 糸井 ]
あるでしょうね。
[ 細井 ]
牛はからだが大きいけど、豚はこんな小さいから、
革もたくさんはとれないんですけどね。
しかも、この革はポーランドの豚ですよね、たしか。
[ 籠浦 ]
ええ、ポーランドの、これは猪豚ですね。
[ 細井 ]
その辺で、たぶん日本人の豚革と牛革の感覚が、
少しこう、ずれているような気がします。
[ 籠浦 ]
ほんとは日本の豚の革もいいんですけどね。
[ 糸井 ]
そうなんですか。
[ 籠浦 ]
ええ、革の質がいいんで、
ヨーロッパでは、日本の豚革も評価が高いんです。
ただ、こんな色は出ないんですが。
[ 北川 ]
日本の豚は、どちらかというと、
スウェードが多くて、
衣料品に使われてることが多いですね。
革小物の「いい仕事」とは?
[ 糸井 ]
みなさん、革小物を扱っていて
「いい革」だとか、これは「いい仕事」だな、
っていうときの、そのポイントはなんでしょう?
[ 籠浦 ]
北川とぼくは、同じ師匠をもってるんで、
たぶん、同じ意見だと思うんですが。
[ 糸井 ]
ぜひ聞かせてください。
[ 北川 ]
革小物は、「漉き」と「きざみ」ですね。

[ 糸井 ]
「漉き」っていうのは、薄くする技術ですよね。
「きざみ」というのは?
[ 籠浦 ]
角の丸みがきれいに出るように、
革をよせていく技術ですね。
[ 北川 ]
製品になったときの形っていうのは
このふたつで決まると言ってもいいんです。
[ 籠浦 ]
これ、2007年から担当させていただいた革カバーの
パーツを全部おさめたファイルなんですが、
こんなふうに、手帳のパーツごとに
全部へりを漉いてあるんです。
革小物って、折り返したり、革が重なる部分を
そのままの厚みでやってしまうと、
そこだけ分厚く段差が出てしまうので、
ひとつひとつ、へりの厚みを薄く漉いていくわけです。

[ 北川 ]
このへりの部分、0.4ミリとか0.5ミリにしてあるんですよ。
[ 籠浦 ]
タンナーから工場に革が入る段階では約2ミリの厚さ、
そこから全体を1.2ミリくらいに漉くんですね。
で、1冊の手帳のパーツは16ほどなんですが、
そのパーツのひとつひとつのへりを
さらに、0.4〜0.5ミリになるように漉いてあるんです。

[ 糸井 ]
まるで、子どものころに組み立てた、
プラモデルのパーツみたいですね。
へえぇ、これが組み立てられると、
きれいなものになるっていうことか。
[ 細井 ]
やっぱり、革小物とか革製品を見るときには、
「きざみ」が均等に入ってるかどうかは大事ですね。
それから、漉きもそうです。
これなんか、折り返した部分をさわって指が当たらない。
やっぱりいい商品だと思いますね。
[ 籠浦 ]
この工場は、「漉き」の技術が
よそとは比べものにならないぐらいうまいんです。
[ 黒澤 ]
いや、ほんとに完成度が高いと思いますよ。

[ 細井 ]
このファイルを見て、あらためて思うのは、
革小物って、使う人にはおおらかさを提供したいけども、
作る側はすごい緊張感をもって
やっているということですよね。
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