糸井重里のコラム
2025-12-19
デジャブー(d?j? vu)

・ポテチって、だいたい、最初は、食べようかなと思っても「いや、いまはやめておこう」と一回見送る。そして、すぐに「いや、ちょっとだけ食べよう」と、ふくろを小さめに開いて、6分の1くらい出す。そのとき、ほんの一枚だけついでに食べる。「うまいじゃないか!」と、閉ざしていた心がひらく。もちろん、ふくろのほうは何度も折り曲げて、クリップのようなものでしっかり止める。主観的には(しばらくの間湿気ることないよう)密封する。お試し程度に器に入れたポテチを、一枚また一枚と食べる。「最初のうまさが持続している!」と感動している。次の一枚も、その次の一枚も、うまいままである。こんなはずじゃなかった、おい、もうなくなっちゃうぞ。「しょうがないな」と、密封したはずのふくろを開いて、残りの半分くらいを出すことにする。もう、これ以上は食べないので、再度密封するのだが、ふくろの中はもう最初の半分以下になっている。心を決めて外に出した分はさっさと食べよう。ぜんぜん飽きてない、まだ、ずっとうまい。これも、しだいに減っていって、やがてなくなってしまう。「ポテトチップって、うまいものだよなぁ」と、いまさらなにをというような感想を独り言う。もう、ここまで来たら、という気持ちになりかけている。‥‥少し、休む。いつまでも、しみしみとこんなことを繰り返すのか?未練がましいというか、ケチ臭いというか、あまりにも小物であるじぶんに嫌気がさしてくる。俺も男だマドロスだ、自らを鼓舞する。再々度、密封したつもりのふくろを開いて、なんだこのやろうとばかりに、半分ではなく!「ぜんぶ出してやれ!ざまぁみやがれ」と雄叫びをあげる。もちろん、それは無音の雄叫びではある、静かである。ふくろは空っぽになり、ゴミ箱に捨てられる。クリップは引き出しにもどされる。なにもなかったような気さえしてくる。すべてのポテチは、我が口に入り、噛まれ、胃に下る。「また、こういうことになってしまったのか‥‥」と思う。いっそ文章に残して他人に読ませてやれ、と思い、記す。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。わたしは、じぶんを叱ることも笑うこともなく、天井を見る。

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