糸井重里のコラム
2025-12-31
みんな初心者だったんだし。

・なにかができるようになると、最初のころのできなかったときのことを忘れてしまう。自転車に乗れる人は、どういうふうに乗れなかったか、たぶんよく憶えてないでしょう?水泳だとか、かけ算の九九だとかもたぶん同じ。ぼくは、釣りをはじめてまもないころに、いまの気持ちや、いま考えていることは、いずれ釣りになれてくると絶対に忘れちゃうはずだから、いちいち書いて記しておこうと考えました。それは、当時「紙のプロレス」という雑誌に、連載のスペースを持たせてもらうことで実現して、やがては『誤釣生活』という単行本にもなりました。初心者が、どう誤るか、どう空想するかは、記憶しにくいだけに、記録しておくとあとでおもしろい。誰でもみんな、もともと上手い人なんかいないわけで、全員が初心者で、それぞれに下手なところだらけです。なのに、ついついえらそうにしちゃうんですよねー。ま、初心者ならではのミスについて、エピソード的に笑いのネタにしていることは、よくありますけどね。という話は、大人と子どもの関係としても言えるわけです。子どものころは、いろんなことがわかってなかった。長い竿を振り回せば夜空の月が落とせると思うのも、身の回りのあらゆるものは自然にそこにあると思うのも、たいていの大人なら「そうじゃない」と知ってることです。それでも、子どもが大人以上に感じていることもあって。うまく説明はできなくても悲しいこと、理由はわからなくても好きとか嫌いとか、たぶん無力であることがなんだか悔しいこと、ひとりぼっちがとても怖いこと、そんなことについて、子どもも感じていますよね。でも、大人になるにつれて、そういうことも忘れていく。まだ生きることの初心者だったときのことを、たまには思い出してもいいかもしれません。「初心忘れるべからず」は、人間ぜんぶに言えそうです。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。年忘れの大晦日に、思い出しましょうとか書いてしまった。

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