糸井重里のコラム
2025-12-17
生まれてはじめて、そう言った。

・ああ、これ前々から思ってたことなんだけど。口に出して言ったこともなかったし、わざわざ言うつもりもなかったなぁ。ということを、つい言った。

老人になったおかげのような気がする。年を取ると、なにかと漏れるのかもしれない。まぁ、それはそれで気をつけたほうがいいんだけどさ。状況が、言いやすそうだったからかなぁ。初対面の人も3名いて、前から知っている人たちも3名ほどいて、「ほぼ日」の乗組員も3名で、そしてぼく自身。夕食をご馳走になっているという場面だった。ちゃんとしたホテルの日本料理の店でね。

食事の前の「お飲み物」の注文がそろって、ビールと、ノンアルコールの小びんが運ばれてきた。びんと、それぞれのグラスが、それぞれの前にある。まだ本題に入らないままだね。もうすぐだから、ちょっとがまんしてくんろ。

おつかれさまでした、ありがとうございました。口々にみんながそんなことを言いながら、ビールやノンアルコールビールのびんを持って、近くにいる人のグラスに注ごうとしている。おっとっと、ぼくは小びんを右手に持ったけれど、だれに注いでいいのか考えたりもせず、じぶんのグラスに注いでしまったのだった。他人のグラスを探す小びんたちは、少々迷っている。だれが、だれに、注ぐかについての逡巡もある。

最年長の人であるぼくは、つい、言った。左手にはじぶんで注いだ飲み物のグラスがある。「お酌してなんかいいことがあったか?」お酌をやめて、それぞれにグラス持って、乾杯しよう。なんとなく、そういえばそうだということになった。ぼくは、生まれてはじめて、お酌をとめた。お酌されてよろこんでる人も、思えば見たことない。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。お酌は、酒がもっと貴重だったときの慣習だよね、たぶん。

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